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昔「台風のまま北日本へ」と言った防災関係者の真意

饒村曜気象予報士
日本海にある台風18号から変わった低気圧(10月4日12時00分)

台風18号の温帯低気圧化

 台風18号から変わった低気圧(温帯低気圧)が北日本に接近中で、北日本と北陸地方には暴風警報や大雨警報などが発表されています(図1)。

図1 発表中の暴風警報・強風注意報(左)と大雨警報・大雨注意報(右)(10月4日12時14分現在)
図1 発表中の暴風警報・強風注意報(左)と大雨警報・大雨注意報(右)(10月4日12時14分現在)

 注警報は最新のものをお使いください。

 台風18号が温帯低気圧に変わりましたが、タイトル画像にあるように、日本海で雲が渦をまいており、勢力が衰えたわけではありません。

 また、過去の多くの事例のように、寒気が台風の西側に南下しての温帯低気圧化ではなく、乾燥した空気が台風の西側に南下しての温帯低気圧化です。

 台風から変わった低気圧の後面にある高気圧によって晴れた所では、気温が上昇して季節外れの暖かさとなっています(図2)。

図2 地上天気図(10月4日9時)
図2 地上天気図(10月4日9時)

 台風から変わった低気圧に向かって南風が入っている関東地方では、30度を超える真夏日の所が多くなっていますが、寒冷前線が通過した西日本でも30度近い気温となっています(図3)。

図3 気温の分布予報(10月4日14時の予想)
図3 気温の分布予報(10月4日14時の予想)

 台風18号、および、台風から変わった低気圧によって、南海上から暖かくて湿った空気が流入し、10月としては季節外れの暑さになっています。

台風のまま北日本上陸で

 30年以上前の話です。

 気象庁予報課で予報業務をしていた時、北海道の防災関係者から、「台風を低気圧に変えないで、台風のまま北日本上陸として欲しい」と言われたことがあります。

 勿論、「天気図を解析して台風ではなく、温帯低気圧になったと判断した時に温帯低気圧にする」と答えましたが、相手側も分かっての発言です。

 ただ、いわんとしている真意は、「台風として接近している場合は、防災機関も住民も防災の対応をとるが、低気圧になったと聞くと安心してしまう」ということです。

 今と違い、テレビやラジオのチャンネル数が限られていましたので、台風でなくなると、とたんに北日本で放送される情報量が激減しました。

 台風であっても、「台風一過の穏やかな天気」という全国放送が、これから大荒れになる北日本で放送されることもありました。

 このようなことを背景に、「台風のまま北日本上陸で」という発言がでてきたと思います。

低気圧に変わっても台風以上に危険な場合も

 台風が温帯低気圧に変わるということは、性質が変わるだけです。

 台風であった時より安全になったというわけではありません。

 台風の時より強い風が吹き、大雨となることがあります。

 台風が低気圧に変わると、安心する人が少なくないのは、今も同じと言われています。

 ただ、30年前に比べると、情報の種類や量は格段に増え、伝達手段も多様化しています。

 そして、台風予報や天気予報の精度が格段に向上しています。

 これから北日本は、大荒れになりますので、情報入手に努め、厳重な警戒が必要です(図4)。

図4 風と雨の分布予報(10月4日21時の予想)
図4 風と雨の分布予報(10月4日21時の予想)

タイトル画像、図3、図4の出典:ウェザーマップ提供。

図1、図2の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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