高校野球100年 49代表決定!
高校野球が始まって100年。センバツでは敦賀気比(福井)が、県勢初の優勝を果たした。福井の甲子園優勝空白を解消し、新たな歴史の扉が開かれたが、夏の節目の大会には第1回の覇者・鳥羽(京都)が帰ってくる。さらに第1回出場の早稲田実(西東京)も怪物スラッガーを擁し、姿を見せる。第1回の出場は10校だったが、そのうち鳥取西は県の決勝で惜敗していて、改めて高校野球の歴史と伝統の重みを実感させられる。
古豪が力強く復活
鳥羽は第1回優勝の京都二中の伝統を継承している。二中は戦後直ぐの学制改革で一旦は廃校となったが、昭和59(1984)年に鳥羽が継承校として復活した。
30年以上の空白があり、長く高校野球を観ているファンからすれば違和感があることは否めない。しかし、左袖にある「KSMS」の頭文字「Kyoto Second Middle School」は、まさしく二中時代のユニフォームの胸に躍っていたそれと同じだ。府大会優勝が決まった瞬間、山田知也監督(39)は、「多くの人に支えられ、見えない力をいただいた」と感激した。打線の不振でセンバツを逃した後、チームは逞しく成長した。甲子園でも追い風に乗りそうだ。
早稲田実は、「怪物」と形容される清宮幸太郎(1年)を擁し、予選決勝を大逆転で制した。7回を終わって0-5。経験豊富な和泉実監督(53)ですら観念するような展開をワンチャンスでひっくり返した。「100年前の先輩に後輩たちの姿を見せたいと思ってやってきました」(同監督)と節目の大会を意識していたことを明かし、「清宮が注目されていますが、(8回の一挙8得点で)チームがひとつになれたような気がします」と大舞台での活躍を誓った。6日の開会式では偉大な先輩・王貞治ソフトバンク球団会長(75)が始球式を行う。
波乱続いた近畿の予選
地元近畿は波乱が相次いだ。順当だったのは奈良と和歌山だけで、残る4府県は意外なチームが勝った。大阪桐蔭と履正社が初戦で激突し、「これが事実上の決勝」とも言われた大阪は、大一番を制した桐蔭が、準々決勝で大阪偕星学園(旧名此花学院)に2-3の惜敗。同じ日にPL学園も敗れていて、大波乱の一日となった。結局はその偕星が古豪・大体大浪商の猛追を振り切って春夏通じて初出場を決めた。「練習量はどこにも負けない」と山本せき(=析の下に日)監督(47)が自負するように、精神面も含めよく鍛えられている。激戦の疲れが本大会で影響しないか気がかりではあるが、上位に進む力はある。
兵庫も実力ナンバーワンの神戸国際大付が公立の明石商に3点リードを終盤に追いつかれ、延長でサヨナラ弾を浴びる衝撃的な幕切れ。エースの東郷太亮(2年)が腰痛で離脱し、序盤戦から有力校との対戦が続いたこともあって、最後はチーム全体が消耗しきっていたようだ。国際を破る殊勲を挙げた明石商も決勝では激戦の疲れが出て、滝川二に完敗した。今年の兵庫は傑出したチームがなく、比較的対戦相手に恵まれた滝川二が、有力校の間隙を縫って駆け抜けたというのが率直な感想だ。それは決勝までの3試合の対戦相手を準優勝校と比較すればすぐにわかる。
鳥羽が勝った京都は、大本命の龍谷大平安が京都翔英に延長で惜敗。ライバルの福知山成美が初戦敗退し、波乱の流れは序盤からあったが、その後も有力と見られたチームがバタバタと姿を消した。決勝に残った立命館宇治はセンバツにも出ていて有力視されていたが、準決勝で京都共栄学園に延長15回まで粘られ、エースの山下太雅(3年)は、本来の姿ではなかった。強豪私学が多い京都で公立が勝ち抜くとなれば、ある程度、展開が味方しないと難しい。兵庫と京都の予選は展開に大きく左右されたと言えるが、これもまた妙味ではある。
滋賀は2強と見られた北大津、近江を連破した古豪の比叡山が16年ぶりに大舞台へ。春も県大会初戦で敗れていてほぼノーマークだったが、北大津との延長死闘をサヨナラスクイズで制して勢いに乗った。大会前に選手を大きく入れ替え、5投手を駆使する型破りな戦法も奏功し、強豪に付け入る隙を与えなかった。同校も第1回の京津予選(のちの京滋大会)に坂本中学として出場していて、昭和54年には滋賀県勢夏の甲子園初勝利を挙げている。16年前には村西哲幸(横浜)-細見直樹(ヤクルト)の強力バッテリーで上位も期待される好チームだったが、春夏ともその大会の優勝校に惜敗する不運。以来低迷が続いていた。湖国を代表する名門の久々の大舞台に、「これを契機に完全復活を」と地元の期待も大きい。
奈良はライバルの智弁学園を2回戦で破った天理が、危なげなく優勝した。秋の近畿で優勝し、上位も期待されたセンバツでは1勝のみ。エースの齋藤佑羽(ゆう=3年)が故障で、外野手の冨木峻雅(りょうが=3年)を主戦に起用する策が的中して、大会を乗り切った。投手コーチを務めている元近鉄の山崎慎太郎氏(49)も、「あいつ(冨木)のおかげで勝ったようなもの」と救世主の出現を喜んだ。本番でも投手の不安は残るが、センバツで大アーチを架けた坂口漠弥(ひろや=3年)や巧打の舩曳海(3年)、貞光広登(3年)ら野手のレベルは全国でもトップクラスで、本来の試合巧者ぶりを発揮できれば優勝争いにも加われそうだ。
智弁和歌山は、昨春から近年最強と言われた世代が3年になり、甲子園最多63勝の高嶋仁監督(69)にとっても「集大成」のチーム。それだけに予選でのプレッシャーもあり、苦戦が続いた。山本龍河、西山統麻、春野航輝(いずれも3年)の中軸は同校全盛期のそれと比較しても見劣りしない。
大事な試合はエース左腕の齋藤祐太(3年)に任せたが、甲子園の激戦を勝ち抜くには控え投手のレベルアップが急務。春の近畿大会では、近江(滋賀)に控え2投手が滅多打ちされ、齋藤を投入してやっと勝った。予選で不振だった打線が甲子園でも沈黙するとは考えにくいが、好投手や巧者チームと当たった時、対等に守り合えるかどうか。昨春は明徳義塾(高知)と1回戦で延長15回を戦い惜敗したが、その経験を生かしたい。
全国でも波乱続出!
そして、近畿だけだなく、予選での波乱は今年の全国的な傾向だった。センバツからの連続出場は32校中わずか7校。優勝の敦賀気比以外での上位進出(8強以上)校は、静岡と健大高崎(群馬)だけで、とりわけ大阪桐蔭や浦和学院(埼玉)、常総学院(茨城)は意外な敗退となった。また、近年の傾向通り公立は49校中10校にとどまり、特に関東と九州勢は私学で占められた。春夏通じて初は専大松戸(千葉)、津商(三重)、大阪偕星の3校だけで、このあたりにも甲子園への道のりの険しさがうかがえる。
敦賀気比、東海大相模など有力校は東日本に
さて、優勝候補だが、まずはセンバツ覇者の敦賀気比を挙げねばなるまい。エース平沼翔太(3年)が序盤につかまった予選決勝は、終盤に地力を発揮してサヨナラ勝ちにつなげた。この苦戦は本大会で生きるはずだが、春夏連覇には山崎颯一郎(2年)ら控え投手陣の奮起が必要になってくる。全体で俯瞰すると、今大会は関東勢に有力校が多い。まずは、小笠原慎之介、吉田凌(ともに3年)の左右ドラフト上位候補を擁する東海大相模(神奈川)の評判が高い。激戦区を圧勝した戦力を疑う余地はないが、昨年も今年と同等以上の評価を得ながらあっさり初戦で消えたように、同校の甲子園はこれまでから初戦がカギになっている。初戦を乗り切れれば上位は堅い。5年連続の作新学院(栃木)は、1年からマウンドに立つ朝山広憲(3年)が故障明けで万全ではないが、朝山の打力も含め戦力に厚みがある。健大高崎は、爆発的な機動力を武器に、自チームのペースになれば無類の強さを発揮する。専大松戸は、大型右腕の原嵩(3年)をはじめ、力のある選手が多く、波に乗れば怖い。早実に注目が集まる東京勢はいずれも打力がある。東東京の関東一はオコエ瑠偉(3年)が出塁すればチームが活気づく。センバツで優勝候補に挙げられ、気比に惜敗した仙台育英(宮城)は、予選でエース佐藤世那(3年)に調子の波があった。投打の歯車がかみ合えば優勝戦線に入ってくる。強打のイメージが先行する静岡は、エース村木文哉(2年)が順調に成長していて、投打のバランスがよくなった。
近畿以西は、有力校が少ない。特に近畿は大阪桐蔭、履正社を筆頭に、神戸国際、平安、北大津、近江など力のあるチームが敗退した。その中では、経験豊富な智弁和歌山に期待したい。大阪偕星は、初出場の緊張感と予選での疲労が襲いかかる初戦が、大きなカギを握る。四国では、4年連続の鳴門(徳島)の2年生左腕・河野竜生が大きく成長した。九州は、大型チームの九州国際大付(福岡)が楽しみ。元プロの楠城徹監督(64)の初采配も見もの。春夏連覇以来5年ぶりとなる興南(沖縄)は2年生左腕・比屋根雅也に注目。独特の投法で相手打者は面食らうタマ筋だ。
豪腕高橋の将来に期待
予選で有力校が次々敗退し、多くの有望球児も大舞台への道を絶たれた。まだ見ぬ好投手、スラッガーもいただろう。
県岐阜商の高橋純平(3年)は、センバツで150キロの速球を披露し、今世代ナンバーワンの座は揺るぎない。予選では足の故障もあり、わずかの登板にとどまったが、肩ヒジの故障でなかったことは不幸中の幸い。また、高橋に無理をさせなかった指導者の勇気も称えられるべきで、彼の将来は明るい。夏の甲子園のあとには、高校全日本の大事な試合も控える。日本開催の今年の大会は優勝しかない。今大会を通して、高橋に匹敵するような甲子園の星の出現を期待している。