「5類」移行から1か月 医療逼迫が迫る都道府県も 「指揮系統」不在の懸念
インフルエンザや麻疹など、いろいろな感染症のニュースが飛び込んできますが、「5類感染症」に移行した新型コロナは、現在どうなっているでしょうか?医療現場の目線で書きたいと思います。
一部地域で新型コロナが急増
全国的にじわじわ感染者数が増加しています。インフルエンザや麻疹の報道が目立ちますが、多くの地域でインフルエンザよりも新型コロナのほうが2倍以上多いという現状があります。
学校でクラスターが起こるとインフルエンザか新型コロナのどちらなのか判断が難しいですが、高齢者施設ではいまだに新型コロナのクラスターが散発しています。
新型コロナの感染者数がとりわけ多いのが沖縄県です。沖縄県の定点医療機関あたりの新型コロナ感染者数は15.80人とかなりの数にのぼっています(図1)。私の知り合いが勤務している県内の医療機関では、すでに入院ベッドが逼迫しつつあるそうです。
札幌市の下水サーベイランスでも、第9波と呼んでよいくらい感染者数が水面下で増えてきていることが予想されます(図2)。
コロナ禍、合計8回の波を経験してきた私たちですが、現在それなりの波が到来しつつあるのではないかと懸念されます。
「指揮系統」が希薄化
なぜ「5類感染症」に移行したのに、感染者数が増えたり、医療逼迫に陥ったりすることをいまだに繰り返すのでしょうか。
まず前提として、ウイルスの性質は大きく変わっていないということが挙げられます。「5類感染症」になっても、インフルエンザより感染性が高く、肺炎を起こしやすいという性質には変わりありません。ワクチン接種を終えたのがかなり前の患者さんでは、パンデミック初期でみられたような左右両方の肺炎を起こして入院されてくることが現在でもあります。
入院医療の逼迫は、「確保ベッドに対して患者が相対的に多い」ということを意味しますが、これまでは行政がその調整を担ってきました。しかし、多くの都道府県で新型コロナ対策本部が解散となっており、指揮系統が十分に機能していない状況です。
医療機関同士で連携をとりながら新型コロナ患者さんの入院・転院調整を行うため、医療機関の人的リソースがこれに取られてしまいます。
さらに、形式上は全ての医療機関で診られるため、発熱外来事業はすでに縮小されています。そのため、もしこれ以上感染者数が増えてくると、これまで発熱外来と行政で受け止めてきた患者さんが、中核病院に殺到することが懸念されます(図3)。
また、「5類感染症」に移行したことで、どの医療機関でも他の入院患者さんとの物理的な距離が近くなりました。できるだけ両者を離してケアするよう配慮されていますが、ベッドが満床になってくると、隣の部屋に新型コロナの患者さんがたくさん入院している、という事態も想定されます。
動線が近くなると、医療従事者を介した感染が多くなり、院内クラスターを生んでしまうリスクも高くなります。そうなると、病院の機能は一時制限されることになります。
沖縄県では、現在こうした現象に苦しんでいる医療機関が散見されます。
まとめ
地域全体で新型コロナから医療を守るためには、流行期の個々の感染対策強化と、リスクが高い人への半年に1回の新型コロナワクチン接種が有効ですが、「5類」移行から感染者が増えてくるのを目の当たりにすると、本当に人類の心の隙に付け入るような嫌らしいウイルスだなあ、と感じます。
現在、XBB1.5やXBB1.16といった新しい変異ウイルスのワクチンが開発されています。
その都度、政府や国際機関がどのような推奨を出すのかアンテナを立てつつ、自身でできる対策を講じましょう。
(参考)
(1) 札幌市下水サーベイランス(URL:https://www.city.sapporo.jp/gesui/surveillance.html)