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3月8日は「国際女性デー」。子どもと男女平等について話してみませんか

治部れんげ東京科学大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト
突然の休校で親子の時間が増えています。「国際女性デー」について話してみませんか。(写真:アフロ)

 全国の子どもをお持ちの保護者のみなさま、いかがお過ごしでしょうか。小中高校の休校措置で、お子さんがいる家庭では、長い在宅時間の過ごし方について、困っている方も多いことでしょう。私も子どもにチャレンジしがいのある教材を探しつつ、自分の仕事を少しでも進めるべく、工夫していますが、なかなか難しいです。

 ちょうど今度の日曜日、3月8日は「国際女性デー」です。これを機にお子さんと「男女平等」について話し合ってみるのは、いかがでしょう。少し親が手伝いながら、作文の課題にすることもできると思います。

 私は小学5年生の息子と、こんな風に話をしてみました。

「3月8日は国際女性デーだけど、知ってた?」

息子「そうなんだ。何で、『男女平等デー』とかじゃないの」?

 日常生活で女性差別を目にすることが少ない息子からすると「女性」だけでなく「男性」についても、同時に話したほうがいい、と考えるのも無理はありません。そこで、こう話してみました。

「インターネットで、どうして国際女性デーが始まったのか、調べてみて」

 3月8日は、もともと、1904年にニューヨークで女性労働者が参政権を求めてデモをした日です。その6年後、デンマークの首都コペンハーゲンで開かれた会議でこの日を「女性の政治的な自由と平等を求めて戦う日」にしようと提案がなされました。1975年に国連が制定して今に至ります。

 女性たちが参政権を求めて戦った120年近く前、女性は男性と同じ人権がありませんでした。選挙で投票し自分たちの代表を選ぶことは、今では当たり前かもしれませんが、それは長い間、女性には認められていなかったのです。

 日本でも参政権を求める女性の運動があり、それが第二次世界大戦後にようやく認められました。日本国憲法には「両性の本質的平等」が明記されるようになりました。進学や就職で制度上の差別はなくなったように見えます。それでは、今の日本は男女平等だと言えるのでしょうか。

 子どもと話をする時は、親自身の価値観や知識が試されます。まず、ご自身で、これらの問題について自分の考えを整理してみて下さい。なぜ、そのように思うのか、事例や数字で理由を話せるようにしておくと良いでしょう。

Q 今の日本は男女平等と言えるでしょうか?

Q なぜ、そのように思うのでしょうか?

 我が家では私も息子も、今の日本はまだ男女平等ではなく「性差別はある」と思っています。一例は、複数の大学が医学部入試で行っていた女子受験生差別です。ただ、問題は今もあるものの、日本社会はだんだん良い方へ変わっていっている、という点でも親子で意見が一致しています。

 みなさんのご家庭では、親子で考えは一致しますか? 違いますか? どこで違いが生まれるのでしょうか?

 少し前に、息子は学校で「グラフを使った作文を書く」という宿題を出されました。作文の中でグラフの説明をしながら「社会はだんだん良くなっているか、悪くなっているか」自分なりに説明して下さい、という課題です。

 よく家で話をすることもあり、息子はジェンダーの問題に興味を持っていました。ジェンダーとは「社会的な性差」を意味します。生まれつきあるわけではない、社会構造によって「作られた性差」が、拡大しているのか、縮小しているのか「調べてみたい」と言われて一緒にデータを探しました。その時の会話を再現してみます。

「日本の女性が置かれている状況が、だんだんよくなってるか、悪くなっているか、グラフで知りたいんだよね?」

息子「そう」

「たとえば、赤ちゃんを生んで、仕事を辞めずに戻ってくる女の人は増えているよ。産休・育休取得率という数字を見ると、ほら、だんだん上がっているでしょう」

息子「…それはあんまりピンとこない」

 私自身がずっと働き続けていますから、息子にとっては、母親が働いているのは当たり前です。だから母親の職場復帰が増えていると言われても「だから何なの?」だったのかもしれません。

「そうか…。じゃあ、何を知りたい?」

息子「女はいくら稼いでいて、男はいくら稼いでいるかを知りたい」

 確かに、収入格差は男女平等の度合いを示す、明確な指標です。出産後に仕事復帰する女性が増えても、その人たちが補助的な仕事や低賃金の仕事に回されていたら、平等とは言えないでしょう。家事育児介護などの無償ケア労働を女性が男性の何倍もやっているのが日本の現実であり、それがもたらす賃金格差は今も残っています。「お金がいちばん分かりやすいよ」という息子の言葉から、男女平等を結果ベースで測る子どものシンプルで鋭い視点を感じました。

 これは、国際潮流にも沿っています。世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数ランキングでも、経済分野の男女格差を測る指標のひとつが「同種の仕事における賃金の男女格差」です。

 息子と一緒にいくつかのデータを見た末、厚生労働省のデータを使うことになりました。縦軸に月収金額、横軸に年を取った折れ線グラフで、性別による平均賃金額と、男女格差が一目瞭然です。

 このグラフをもとに、息子は次のような作文を書きました。

息子が書いた作文。テーマは「社会はよくなっているか、悪くなっているか、グラフをもとに考える」
息子が書いた作文。テーマは「社会はよくなっているか、悪くなっているか、グラフをもとに考える」

「性差別のないくらしやすい社会へ」

 僕は、今、生きている社会はくらしやすい方向に向かっていると思います。なぜなら、社会全体で性差別が少しずつなくなってきているからです。ニュースや新聞でも、差別的な発言をした人が怒られているのをよく見かけます。僕の周りでも、

「男だから〇〇とか、女だから〇〇って決めるつけるのよくないよ」などと言っている人がたくさんいます。

 上のグラフは男女の賃金(月額)を表したものです。灰色の折れ線は男性の賃金を表したもの、赤は女性の、そして黒は男女の平均の賃金を表したものです。これを見ると、どちらもだんだん増えて来ていることが分かります。1964年から、男性の賃金はどんどん増えていますが、1995年になると頭打ちになっています。一方、女性の賃金は、95年になっても、ゆるやかですが、着実に増え続けています。

 僕の両親が生まれた1975年ごろは、男性の賃金は約13万円で、女性は約8万円です。このころの女性の賃金は男性の6割しかありませんでした。しかし、2018年には男性の賃金が約33万円で、女性は25万円でした。この時、女性の賃金は、男性の7割以上にもなったのです。75年から、2018年までの43年間で男女の賃金格差は4割から3割になっています。男性の賃金が頭打ちになっている中、女性の賃金は少しずつ増えているということは、これから男女の賃金格差が小さくなっていくことが考えられます。

 このように、月日がたっていくごとに、男女の賃金格差がちぢまっていき、性差別が少しずつなくなっていくということを述べました。このはいけいには、1980年ごろに日本が参加した「女子差別てっぱい条約」などの色々な取り組みの効果によるものでしょう。性差別のない社会は、女性にも、男性にもくらしやすい社会といえるでしょう。今、生きている社会はくらしやすい方向に向かっていると思います。

出典「賃金構造基本統計調査」厚生労働省

 息子が作文を書いたのは少し前のことでした。今回、それを記事にする前に、この記事を一緒に読みました。OECD諸国の男女賃金格差について、差が大きい順に並べたものです。日本は格差の大きさが第3位でした。

日本だけを見ると、けっこう頑張っているように思うけれど、他の国と比べると、ぜんぜん、まだまだだね」と息子。「日本は取り組みがぬるいのかな」。

 いかがでしょうか。インターネットで「国際女性デー」に関する様々な記事やデータを見つけることができます。子どもと話してみると、意外と知らなかったことに気づくかもしれません。そうしたら、親子で一緒に学び始めたらいいと思います。

東京科学大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト

1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社で16年間、経済誌記者。2006年~07年ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年からフリージャーナリスト。2018年一橋大学大学院経営学修士。2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、国際女性会議WAW!国内アドバイザー、東京都男女平等参画審議会委員、豊島区男女共同参画推進会議会長など男女平等関係の公職多数。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館新書)、『ジェンダーで見るヒットドラマ』(光文社新書)などがある。

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