トランプ大統領、強硬派のボルトン大統領補佐官を解任。アメリカの対イラン、対北朝鮮政策は軟化か
アメリカのトランプ大統領が10日、ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)を解任したとツイッターで明らかにした。ボルトン氏はこれまでイランや北朝鮮に対する軍事行動に賛成し、両国の体制転換(レジームチェンジ)を目指してきた。対外強硬派の筆頭格のボルトン氏がいなくなることで、トランプ政権のタカ派路線が弱まり、対イランと対北朝鮮の外交政策が今後ぐっと軟化する可能性がある。
また、日米同盟の重要性と強化を訴え続けてきた知日派のボルトン氏が米政権を去ることで、日米同盟のいわば「大きな重石」が消え、トランプ大統領の同盟軽視が進む恐れがある。
●トランプ大統領の電撃解任ツイート
ボルトン氏解任を電撃的に発表したトランプ大統領のツイートの言葉のトーンは厳しい。
「私は昨晩、ジョン・ボルトンにホワイトハウスで彼の務めがもはや必要ないと伝えた。私は彼の進言の多くに強く反対してきた。政権内の他の人々もそうだ。それゆえ、ジョンに辞任するように求め、辞表は今朝、私のもとに届いた。彼の貢献にはとても感謝している。来週、新たな国家安全保障担当の補佐官を任命する予定だ」
「政権内の他の人々」とは、対北朝鮮や対イラン政策でより現実路線を取るポンペオ国務長官やムニューシン財務長官らを示すとみられる。
●国家安全保障担当の大統領補佐官の解任は3人目
政権内でも重要ポストに当たる大統領補佐官(国家安全保障担当)の辞任・解任劇は、マイケル・フリン、H.R.マクマスター両氏に続き、これでトランプ政権内では3人目となる。
ボルトン氏の解任は、対イラン、対北朝鮮、対アフガン政策の重要な局面で起こった。
対イラン外交をめぐっては、トランプ大統領は現在、柔軟姿勢に傾き、対話路線を模索し始めている。トランプ大統領は、今月下旬に国連総会出席のために訪米するイランのロウハニ大統領との直接会談の可能性のほか、イランが石油資産を一部活用して融資の信用枠にアクセスできるよう規制を緩和する可能性に言及している。
トランプ大統領が対イラン外交で柔軟姿勢を見せてきている背景には何があるのか。トランプ大統領は、2020年の大統領選挙を前に、外交で何らかの実績を作りたい焦りがあるとみられる。また、そもそもトランプ大統領は、予測不可能で型破りとの自らの悪評を利用し、敵対国をおじけづかせて譲歩させる「マッドマン・セオリー」(狂人理論)を信奉している。「何をするかわからないぞ」と相手をさんざん脅した後は、最終的には落し所を見つける「ディールダン(取引成立)」を目指している。トランプ大統領はいつまでも永遠に拳を上げ続けるタイプの人間ではない。相手から譲歩を引き出しながら、ディールを楽しみ、ディールダンを手にする人物だ。これは大統領自身がいくつもの自書で述べていることだ。
また、トランプ政権はイランが支援するイエメンの反政府武装組織フーシ派とも直接対話する準備を進めている。アメリカはサウジアラビアを協議に巻き込み、4年にわたるイエメン内戦の停戦を仲介したい意向だ。
これに対し、ボルトン氏はもともと2003年開戦のイラク戦争時には、ネオコン(新保守主義)と呼ばれた超強硬派の1人だった。トランプ政権内でも、対イランはじめ、対中東政策で強硬姿勢を貫いてきた。イランが6月20日にアメリカの無人偵察機を撃墜した際、ボルトン氏はその報復としてイラン攻撃を主導した。しかし、いったんは決まったイラン攻撃だったが、トランプ大統領が実施直前に、保守系メディア「FOXニュース」の人気キャスター、タッカー・カールソン氏の助言を受け入れ、攻撃を回避した。トランプ大統領はその後、ボルトン氏を「タカ派」と呼び、「彼とは必ずしも一致しない点がある。決めるのは私だ」と述べた。
トランプ大統領は元来、一国主義の孤立主義者で、中東からの米軍撤退を目指してきた。このため、対イラン軍事行動も望んでいなかった。過激なブラフ(こけ脅し)とは裏腹に、北朝鮮への先制攻撃の是非を含め、多大なアメリカ人の犠牲者を出すことに何度も慎重姿勢を示してきた。
ニューヨークタイムズ紙によると、トランプ政権の安全保障チームはもともと、型破りで突拍子もない予想外の言動を見せる大統領を抑制する任務を負っていたが、実際はトランプ大統領自身が度々、ボルトン氏を抑制する事態にもなっていたという。ボルトン氏がイランの体制転換をしばしば口にしてきたなか、トランプ大統領は「イランの体制転換は目指さない」とはっきり述べている。
●ボルトン氏解任で米朝協議が進展か
ボルトン氏の更迭は、米朝が協議再開の動きを見せるなかで起きた。北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)第1外務次官は9日、今月下旬にアメリカと実務協議を行う用意があると表明した。これに対し、トランプ大統領も同日、「興味深い。様子を見てみよう。協議をするのは良いことだ」と述べ、早期の協議再開に期待を示した。
6月30日のトランプ大統領と金正恩国務委員長の板門店での首脳会談後、米朝の非核化協議がこれまでなかなか進展を見せなかった理由は何か。最近筆者の取材に応じた朝鮮総連の幹部は、トランプ大統領が金委員長と米韓合同軍事演習の中止を約束したにもかかわらず、同演習が実施されたため、北朝鮮は短距離ミサイル発射といった反発姿勢を見せてきたと述べている。しかし、軍事専門家の間では、北朝鮮は米韓合同軍事演習の実施を口実に、新型短距離ミサイルの実戦配備に向け、その実験を繰り返しているとの見方が根強い。
今回解任されたボルトン氏は6月29、30両日、米韓首脳会談の随行員として韓国を訪れたが、同30日の米朝首脳会談には同席しなかった。いや、同席できなかった。対北朝鮮で強硬路線を示すボルトン氏は、米朝首脳会談から外される形でモンゴルに向かった。
このほか、内紛事態が深刻化したベネズエラ情勢をめぐっても、ボルトン氏はトランプ大統領の期待に応えられず、愛想をつかされてきたとみられる。
東京都小平市にある朝鮮大学校の李柄輝准教授は2018年5月下旬に都内で行われた講演会で、北朝鮮国内では「安倍首相とジョン・ボルトン大統領補佐官が一番強硬で対話すべきではない」との見方があることを明らかにしていた。その最も強硬派のボルトン氏がトランプ政権内からいなくなることは、北朝鮮もきっと好感することになるのだろう。
ボルトン氏はこのほか、対中国強硬派としても知られていた。しかし、ボルトン氏の解任が対中政策に与える影響は限定的になりそうだ。なぜなら、米中対立の背景には長期的な覇権争いがあるほか、トランプ大統領は対中政策ではピーター・ナバロ大統領補佐官(通商製造政策局長)の進言を最も受けているとみられているからだ。