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「史上例を見ないほど米国を混乱させる」北朝鮮の「断固たる措置」とは?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
「米国にとって耐えられない断固たる措置」を公言した金正恩委員長

 北朝鮮外務省が今朝(11日)声明を出して、国連安保理が北朝鮮に対して制裁決議を採択すれば、「それ相応の代価を払わす」と対抗措置を取ることを示唆した。それも「連続的に取る」と宣言した。

 北朝鮮は取るべき次の措置が「米国が想像すらできない強力な措置になる」と公言しているが、実施されれば「史上例を見ないほど米国を混乱させることになる」と予告している。

 北朝鮮は7日にも外務省外郭団体の平和統一委員会が「米国にとってとても耐えられない、類例のない断固たる措置を取る」との声明を出していたが、今回は外郭団体でもなければ、外務省スポークスマンでもなく、ワンランクもツーランクも上の外務省声明で、それも一歩も二歩も踏み込んだ「予告」となっている。

 北朝鮮外務省は「世界は我々がどのように米国を罰するかを、しっかりと目の当たりにすることになる」と公言しているが、北朝鮮は今年3月18日にも新型大出力エンジン地上噴出実験に成功した際にも「今日の大勝利がどんな出来事的意義を持つのかを全世界が近く目撃することになるだろう」と語ったことがあった。その後、北朝鮮史上初のICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射に踏み切ったことはつい最近の出来事である。

 米国の敵対政策を「絶対に傍観しない」と断言している以上、安保理制裁が可決されれば、北朝鮮が「次の措置」を連続的に取るのはほぼ確実である。では、「米国が想像すらできない、史上例を見ないほど米国を混乱させることになる」強力な措置とは何を指すのだろうか?考えらえるのは以下の3つの措置である。

 一つは、予告していた1段式の中長距離弾道ミサイル「火星12」を太平洋上の米軍基地であるグアムに向けて発射するのではなく、2段式の「火星14」を使って、一気に飛び越えさせるか、あるいは米大陸に向け発射して、西海岸の公海上に着弾させる。

 北朝鮮が「火星12」を4発、グアム近海に落とす計画についてはすでに戦略軍司令部が発表している。従って、「火星12」による「グアム周辺30~40km海上着弾」は想像の範疇で、発射されたからといって米国が混乱に陥ることはない。

 次に、米国の国家機関や金融機関など産業機関へのサイバー攻撃だ。

 数年前に金委員長の暗殺を題材にした映画「ザ・インタビュー」を製作した米ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)が北朝鮮によってハッカー攻撃を仕掛けられた事件を例に取るまでもなく、北朝鮮のハッカー能力は米国防総省のシミュレーションの結果「米太平洋司令部の指揮統制所を麻痺させ、米本土電子網にも被害をもたらす」ことがわかっている。

 北朝鮮のサイバー能力についてはジェームス・シャーマン元駐韓米軍司令官が2013年3月に開かれた米下院軍事委員会で「北朝鮮は韓国軍の情報、産業施設などを同時多発的に攻撃できるハッカー部隊を集中的に育成している」と述べ、その能力は「米CIAに匹敵する水準にある」と証言していた。

 実際に米国は2009年7月に一度、北朝鮮から大規模なサイバー攻撃を仕掛けられたことがあった。独立記念日の4日から始まった北朝鮮のハッカー攻撃はホワイトハウスなど8機関にのぼり、その被害はワシントン・ポストなど大手新聞社や銀行など民間企業にも広がった。

 金委員長は2013年4月に党中央軍事委員会拡大会議で「2018年祖国統一大構想」を示し、次のような内容の結論を下している。

 「今、敵らに四方八方から包囲され、内部的に経済事情は困難を極めているうえに陸海空の全ての領域で我々の貿易活動が全面的に監視され、事実上、通常の貿易取引で金を稼ぐのは難しくなった。そこで、別動隊を派遣し、ドルを無尽蔵に稼ぐことにしたので、資金の心配をせずに2017年までに5大核打撃手段を完成させよ。そうすれば、これで米国を南朝鮮(韓国)から追い出し、必ず祖国を統一させてみせる」

 北朝鮮にとって外貨獲得のための最後のカードが別動隊、即ちサイバー部隊であることを考えると、ありえないことではない。

 最後に、先の水爆実験で開発に成功したとされるEMP(電磁波パルス)爆弾を使い、グアム、もしくは米本土のすべての電気、電子装備を延焼させ、電力網や通信・電算網を無力化させてしまうことである。可能性としては極めて低いが、外務省声明で「最後の手段も辞さない」としていることから可能性としては全くゼロではない。

 「地雷事件」で緊張が高まっていた1985年8月15日、北朝鮮は国防委員会スポークスマン声明で「世界が知らない近代的な最先端攻撃」を備えていることを明らかにした。北朝鮮の核兵器保有はすでに知られている事実だ。サイバー攻撃もしかりだ。従って、この「最先端攻撃」が核兵器によるものでなく、EMP爆弾の可能性が考えられる。

 仮に北朝鮮がEMP爆弾を米大陸中心上空400kmで爆発させた場合、全域の電力網が破壊される。電力、通信、GPSなどのインフラを一気に破壊されてしまう。一度の攻撃だけで米国の電力網や通信網が大きな打撃を被ることになる。

 EMP爆弾の使用は戦争を覚悟しなければできない。従って、この三番目の手は「禁じ手」なので、あり得そうにもない。

 この他に、太平洋上での核実験なども考えられるが、いずれも戦争に直結し、北朝鮮の滅亡に繋がるだけにこれも可能性としてはゼロに近いだろう。

 国連安保理の制裁決議が11日に採択されるかは微妙だが、どちらにせよ採択は時間の問題だけに北朝鮮の「次なる断固たる措置」が気になる。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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