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文京区のマンション建築騒動 ~どうすればよいか、あるべき行政の姿を税理士兼不動産鑑定士として考える

冨田建不動産鑑定士・公認会計士・税理士
件の建て替え予定マンションを隣接する女子校前面道路付近から筆者撮影

文京区のマンション建て替えに際して、周辺住民のみならず隣接する中高一貫名門女子校や神社が反対運動をしているとのことです。

聞けば、日照問題のほか、女子校は「盗撮やのぞき被害」も懸念しているとか。

しかも、TBSの番組「噂の!東京マガジン」でもこの件が取材されていました。そこで、この件について、不動産や税務の観点から考察したいと思います。

■早速、現地に行ってみた

10月8日、筆者は現地に赴き、女子校があることを踏まえ、下手に写真を写すと筆者自身が盗撮を疑われかねないことを十分に注意しながら撮影等をしました。

現況で現地には古いマンションがあり、東側に女子校、北側に神社があります。

既存のマンションは坂に横たわる形態であるため、8階建と言っても坂の頂上から見ると3階建程度にしか見えず、女子校を見下ろすという程の高さではないです。

建て替え予定マンション全景(令和4年10月8日筆者撮影)
建て替え予定マンション全景(令和4年10月8日筆者撮影)

まず率直に思ったのは、「隣接こそしていないが、周囲には他にも高校がある」点。

件のマンションの南側道路を挟んだ反対側に1校、さらにその東隣にも1校あり、念のためサイトで調べても共学の模様。

共学とは言え女子もいるので、こちらの学校も「盗撮やのぞき被害」の懸念はあるはずですが、共学校側からは特段の反対の声は聞こえません。

■想定建物の概要

想定建物の概要が、以下の通り掲げられていたので、道路から撮影しました。

概要はこちらをご覧ください。

道路から掲げられていた建築計画の看板を撮影。なお、個人情報保護の観点から一部加工(令和4年10月8日筆者撮影)
道路から掲げられていた建築計画の看板を撮影。なお、個人情報保護の観点から一部加工(令和4年10月8日筆者撮影)

■筆者の所感

確かに、近隣住民や神社の気持ちはわからなくはありません。

筆者だって、家の隣地に突然、高層マンションができたら躊躇するでしょうから。ただ、マンションも老朽化しており、建て替える必要があります。

けれど、建て替え資金を捻出しないと、いつまでたっても建て替えができず、やがて建物が傷み、耐震性等に問題が生じかねない他、かえって地域環境に悪影響を及ぼします。

この建て替えの肝は、現状よりも大きなマンションを建築することで、増えた部分の有効活用を通じて建て替え資金を捻出する点にあります。しかし、現状の規模前提での建て替えでは建て替え資金は捻出できません。

一部の近隣住民には「マンションの住人たちが借金しても現状の規模の建物を」と…の声もあるようですが、あえて厳しいことを言いますと、「あなたは近隣住民という他人のために、自分たちが損をしてまで近隣の迷惑にならない建物を建てますか?」と思えば、結論は自明でしょう。

マンションの住民にも財産権があり、反社会性がない限りは合法な形で建て替える権利はあるのです。

もちろん、近くに不動産を持つ人が「こうしてほしい」と声を上げることはむしろ適切です。

それが建てる側に対応可能な内容であれば、対応する世界線もあるからです。

けれども、合法的かつ反社会性がない内容である限り、対応するかは建てる側の自由です。

どうしても…ということであれば、その対応をしてもらうことに伴う不利益を、少なくとも一部は要請する側も負担すべきでは…と思います。

坂の下から建て替え予定区分マンションを望む。建て替えマンションの奥の屋上のフェンスに「園」という文字があるのが女子校(令和4年10月8日筆者撮影)
坂の下から建て替え予定区分マンションを望む。建て替えマンションの奥の屋上のフェンスに「園」という文字があるのが女子校(令和4年10月8日筆者撮影)

それと、「女子校だから、配慮を」は無理筋でしょう。

「だったら、男子校ならよいのか」という話にもなりますし、社会的に見ても、女子校は区分マンションの所有者が不利を負担してまで特別に配慮されるべき存在とは思えません。

ちなみに、筆者は港区にある共学の私立中学校の出身で女子もいますが、大変お世話になった母校の横に高層マンションが建ったとしても、「ふーん、仕方ないんじゃない」程度の感覚です。

前述のとおり、女子校側がどうしても希望を叶えてほしいのであれば、女子校側が相応の負担をすべきでしょう。

北側神社付近から建て替え予定マンション(黄土色の建物)を望む。(令和4年10月8日筆者撮影)
北側神社付近から建て替え予定マンション(黄土色の建物)を望む。(令和4年10月8日筆者撮影)

■そして、税理士兼不動産鑑定士として思うこと

筆者がもう一つ思うことがあります。

実は、建物の固定資産税や都市計画税は、新しければ新しいほど固定資産税評価額が高くなるため、毎年の固定資産税都市計画税の税額が上昇します。

しかも、新しい建物ができるということは、軽減措置で負担がなくならない限りはその建物に対する不動産取得税も東京都に入ります。

いわば、課税当局から見て、建物がどんどん建て替わり、新しく規模が大きい建物に建て替えれば、その分、税収がアップするのです。

その社会全体のアップ分のすべてを…とは言いませんが、対応の一部に回すことを条件に、一部を減免する制度を構築してはいかがか…というものです。

個人的には、あちこちで区分マンションの建て替えが意見の相違でまとまらず、どんどん老朽化し状況が悪化する例が多い中で、よくぞこのマンションは建て替えまで漕ぎつけたと、そこは素直に評価すべき点と思います。

ですので、せっかくまとまった建て替え計画が外野からの制約で水泡に帰し、建物の安全性や地域環境が却って悪化するのはいかがなものかと思います。その意味で、より建て替えが促進される制度が構築されればよいなと思います。

古い建物の建て替えの促進は、基本的には国土の有効活用を図り、建物をより安全性の高いものにするとの意味で、社会的に高い意義があるのですから。

不動産鑑定士・公認会計士・税理士

慶應義塾中等部・高校・大学卒業。大学在学中に当時の不動産鑑定士2次試験合格、卒業後に当時の公認会計士2次試験合格。大手監査法人・ 不動産鑑定業者を経て、独立。全国43都道府県で不動産鑑定業務を経験する傍ら、相続税関連や固定資産税還付請求等の不動産関連の税務業務、ネット記事等の寄稿や講演等を行う。特技は12 年学んだエレクトーンで、平成29年の公認会計士東京会音楽祭では優勝を収めた。 令和3年8月には自身二冊目の著書「不動産評価のしくみがわかる本」(同文舘出版)を上梓。 令和5年春、不動産の売却や相続等の税金について解説した「図解でわかる 土地・建物の税金と評価」(日本実業出版社)を上梓。

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