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未成年同士の性行為で「少年だけ」逮捕の件に続報 それでも解決されない疑問点

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 富山県で18歳未満の男女が性行為に及び、警察が青少年健全育成条例違反で少年だけを逮捕したという件の続報が出た。警察の見解が示されているものの、なお解決されない疑問点が残り、違法逮捕のそしりを免れない。

免責規定がある

 この件が初めて世に伝えられたのは、次の報道がきっかけだ。

 この初報が出た際、筆者は次の拙稿で様々な可能性を指摘した。

 すなわち、富山県の青少年健全育成条例では「何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない」と規定され、罰則もあるが、一方で「この条例の罰則は、青少年に対しては適用しない」という免責規定がある。17歳の少年もこの条例の「青少年」にあたり、彼に適用できる罰則が存在しないから、犯罪ではなく、逮捕もできないのではないかという分析だ。

 もちろん、相手の少女に性行為の同意がなく、少年を当時の強制性交等罪で処罰できる事件であれば、この罪で逮捕すれば足りる。むしろそれならば特に疑問は生じなかった。

 しかし、性行為のあと、少女の関係者から警察に届け出があったというものの、強制性交等罪などが適用できるケースではなかった。警察もこうした罪で立件できないと考えたからこそ、条例を使っている。この結果、条例の免責規定に抵触するのではないかといった法的な疑問点が多くの法律家から指摘される事態となった。

 こうした免責規定の存在を十分に認識したうえで逮捕状を請求しただけでなく、法律家である裁判官までもが唯々諾々とこれを発付したとすれば違法であり、令状審査の意味をなさなくなる。だからこそ筆者は、先ほど挙げた拙稿の中で、故意ではなく、免責規定を看過した不注意による結果ではないかという可能性を挙げた。

警察の見解は?

 その後、この件を報じた地元メディアが、次のような続報を出した。

 この続報によると、警察は免責規定の存在を認識したうえで、罰則が適用されなくても犯罪の成立を妨げるものではないとして、少年を刑事罰ではなく、少年院送致や保護観察などの「保護処分」とする方針で進めるために逮捕したという。やはり、少女の同意がなかったとして強制性交等罪などを適用して刑罰を求められるようなケースではなかったというわけだ。

 もちろん、この少年が様々な問題を抱えており、生活環境やこれまでの補導歴、非行歴などから新たに保護処分に付す必要性が高かったということは理解できる。しかし、そもそも罰則の適用がない法規で逮捕することはできない。

 少年の改善更生を考慮するのであれば、逮捕ではなく「補導」を行うか、それこそ別の明らかな犯罪で逮捕すれば足りる。後者の容疑が存在しなかったので条例を使ったということになると、それこそ保護処分を企図した「別件逮捕」にもなる。

 続報によると、警察は、少年の行為は条例違反の構成要件にあたり、違法でもあり、単に免責規定で処罰が阻却されるだけだから、逮捕できるし、刑罰ではない少年法の保護処分も可能だという見解に立っていることがわかる。

 ただ、別の重い罪で逮捕された事件に関する裁判で示された見解だし、それでも裁判所は最初から条例違反で別件逮捕できるとまでは述べていない。しかも、その考えだと相手の少女の行為まで違法になってしまう。性行為の同意があり、少年による暴行や脅迫などがなかったのであれば、「なぜ少女のほうは責任を問われないのか」と批判されるのも当然だ。

 むしろ、この続報の内容からすると、警察はあまり問題意識をもたないまま逮捕したものの、大騒ぎとなって慌て、県警本部マターとなり、後付けで理論構成を組み立てたようにも受け取れる。

 また、この続報からは、肝心の裁判官がどこまで免責規定を意識して逮捕状を出したのか不明だし、逮捕後、検察官の請求によって勾留までされているのか、すでに釈放されているのか、それこそ別の余罪で再逮捕されているのか、少年の身柄の現状も全くわからない。

「裁判官のミス」と指摘する識者も

 むしろ、免責規定によって少年に適用できる罰則そのものが存在しないことになるわけだから、逮捕もできないというのが法的にはシンプルな考え方だ。

 残念ながら、この続報では逮捕を違法とする識者への取材が全く行われていない。刑事法学者で近畿大学法学部の教授である辻本典央氏のコメントが正鵠を射ていることから、参考までにここで紹介しておきたい。

「本件は、当初に報道された時点から様々なコメントが寄せられていましたが、本件記事によると、改めて県警が見解を示したとのことです。これによると、本件の容疑者に免責規定が適用されることを認識した上で、令状の発付を受けて逮捕したとのことでした。保護処分等の必要性を考慮したようです」

「ただ、そうであるならば、やはりこの逮捕は違法であったと言わざるを得ません。令状に基づく逮捕は、容疑者が罪を犯したことの相当な嫌疑が必要ですが、本件は、その嫌疑が認められないからです。端的に言えば、14歳未満の刑事未成年者を逮捕するのと同じことです」

「この点で、県条例の免責規定の趣旨が問われますが、規定上は罰則の適用を除外するとされています。これは、犯罪が成立した上で刑を免除するのとは異なり、そもそも犯罪に当たらないとするものです。この理解は、条例の目的からも明らかです」

「もとより、令状を発付した裁判官のミスです」

近畿大学法学部教授・辻本典央

少年は今後どうなる?

 なお、先ほど挙げた続報では、少年の今後について次のように推察されている。

「捜査の進展にもよりますが、保護処分となった場合は、少年は家庭裁判所に送致されたあと、更生させるために『保護観察』『少年院送致』『児童自立支援施設等送致』のいずれかになるとみられます」

 しかし、家裁に送致されて初めて保護処分になるか否かが決まるものであり、保護処分になったから家裁に送致されるというわけではない。送致されても、この少年には条例違反の罰則が適用されないわけだから、「非行事実なし」として少年院送致などの保護処分に付されない可能性もある。

 しかも、検察官がこの条例違反事件を家裁に送致するとは限らない。確かに少年事件は全件送致主義が採用されているものの、少年法には例外規定もある。適用すべき罰則がない以上、罪とならず、嫌疑なしという理由により、検察限りで不起訴にして終わりという展開もあり得る。現に、警察が間違った法令解釈や証拠の評価によって無理に逮捕した少年事件について、検察の判断で嫌疑なしとして釈放し、家裁送致をしなかった例は多々ある。

 もちろん、今回の少年に条例違反以外の余罪があったり、少年法の「虞犯」にあたる事由があったりし、保護の必要性も認められるのであれば、それらの件については切り分け、きちんと家裁送致することになるのは当然のことだ。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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