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未成年同士の性行為にまさかの青少年健全育成条例違反で少年逮捕 違法では?【追記あり】

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 富山県で18歳未満の少女と性行為をしたとして、17歳の少年が青少年健全育成条例違反で逮捕されたという報道が話題となっている。条例の免責規定を看過した違法な逮捕ではないかと思われるからだ。

どのような事案?

 問題の報道は、次のようなものだ。

「富山県青少年健全育成条例違反の疑いで逮捕されたのは、富山県東部に住む会社員の少年(17)」「少年は2023年7月上旬、県東部で18歳未満の少女に対し、未成年であると知りながら、性行為をした疑い」

「被害にあってすぐに、被害関係者から警察に届け出があり、警察の捜査で男が浮上して、10月19日に逮捕」「警察の調べに対し『間違いない』と話し、容疑を認めている」

「県警は富山県青少年健全育成条例の第15条『何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない』にもとづき、逮捕した」

未成年同士の性行為で17歳少年を逮捕 県の条例違反で…「間違いない」と容疑認める 富山(チューリップテレビ)

 7月上旬の事件だから、不同意性交等罪などが盛り込まれた改正刑法は適用されない。施行が7月13日だからだ。それでも、少女が13歳未満だったり、暴行や脅迫が用いられたりしていれば、改正前の強制性交等罪で処罰できる。警察がこれで立件していないということは、そうした事案ではなかったということだろう。

 そうすると、2人に真摯な交際関係などなく、少年がこの少女を自らの性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないようなケースだったとして、条例違反で立件したということではないか。刑罰は最高で懲役2年、罰金だと100万円以下だ。

免責規定がある

 しかし、こうした条例は全国で制定されているものの、一部の自治体を除き、条例の中に当事者である「青少年」に対する免責規定を設けている。富山県の場合、次のようなものだ。

「この条例の罰則は、青少年に対しては適用しない」(26条)

 これは、こうした条例が青少年の保護や健全な育成の責任を大人に求めることとされている趣旨に基づく。富山県の場合、青少年には刑罰ではなく、保護や指導を行うことで、健全な青少年に立ち返るように努めようというわけだ。

 したがって、17歳である少年もこの条例の「青少年」にあたり、彼に適用できる罰則が存在しないから、逮捕もできない。「罪を犯したこと」を疑うに足りる相当な理由や逮捕の必要性といった要件を欠き、逮捕は違法ということになる。

どのようなケースが想定される?

 そこで考えられる可能性は、次のようなものだ。

(1) 実は「少年(17)」ではなく「少年(18)」や「少年(19)」であり、あるいは「少年(17)」だったとしても「逮捕」ではなく「補導」であり、報道が誤っていた。

(2) 7月上旬の事件当時は「少年(17)」だったが、その後に誕生日を迎え、10月19日の逮捕時点では「少年(18)」となっている。

(3) 少年の行為は条例違反の構成要件にあたり、違法でもあり、「罪を犯したこと」に間違いなく、単に免責規定で処罰が阻却されるにすぎないから、逮捕はできるし、刑罰ではない少年法の保護処分も可能である。

(4) 当時もいまも「少年(17)」だが、逮捕状を請求・執行した警察官もこれを発付した裁判官も免責規定の存在を知らず、見過ごした。

 (1)は報道機関のミスということであり、これならば法的には問題ない。一方、(2)は免責規定について、次のように丁寧に区分けして規定している自治体もあることを踏まえた考察だ。

「青少年に対しては、適用しない。この条例の規定に違反する行為をしたとき青少年であった者についても、同様とする」(奈良、和歌山、石川、宮崎)

 すなわち、富山県は単に「青少年に対しては適用しない」と規定しているだけであり、当時17歳でも現在18歳であれば「青少年」にはあたらないから、罰則を適用できるという理屈である。

 (3)は、千葉県の条例に関する事例ではあるが、少年法の保護処分であれば可能だという東京高裁の判断を踏まえたものだ。しかし、別の重い犯罪で逮捕されたケースであり、最初から条例違反で逮捕できるとまでは述べられていない。処罰が阻却されるだけだということになると、条例は「何人も、青少年に対し、みだらな性行為…をしてはならない」と規定しているわけだから、もう一方の当事者である少女の行為も違法ということになる。苦しい理屈だ。

 むしろ、「自動発券機」と揶揄(やゆ)されて問題視されている裁判所の令状審査の実情を踏まえると、警察官も裁判官も免責規定の存在を知らず、問題に気づいていなかったという(4)の可能性が高いのではないか。(了)

【追記】

 この件を報じた地元メディアが、その後、続報を出した。

 この続報によると、警察は免責規定の存在を認識したうえで、罰則が適用されなくても犯罪の成立を妨げるものではないとして、少年を刑事罰ではなく、少年院送致や保護観察などの「保護処分」とする方針で進めるために逮捕したという。やはり、少女の同意がなかったとして強制性交等罪などを適用して刑罰を求めるようなケースではなかったというわけだ。

 しかし、免責規定によって少年に適用できる罰則そのものが存在しないことになるわけだから、逮捕もできないというのが法的にはシンプルな考え方だ。免責規定の存在を十分に認識したうえで逮捕状を請求しただけでなく、法律家である裁判官までもが唯々諾々とこれを発付するというのは違法であり、だからこそ筆者は故意ではなく、(4)の不注意による結果である可能性を挙げた。

 ところが、少なくとも警察は免責規定を分かっていたという。もちろん、この少年が様々な問題を抱えており、生活環境やこれまでの補導歴、非行歴などから新たに保護処分に付す必要性が高かったということは理解できる。しかし、そもそも罰則の適用がない法規で逮捕することはできない。

 少年の改善更生を考慮するのであれば、逮捕ではなく「補導」を行うか、それこそ別の明らかな犯罪で逮捕すれば足りる。後者の容疑が存在しなかったので条例を使ったということになると、それこそ保護処分を企図した「別件逮捕」にもなる。

 警察は(3)の見解に立っているということになるが、上記のとおり別の重い罪で逮捕された事件に関する裁判で示された見解であり、それでも裁判所は最初から条例違反で別件逮捕できるとまでは述べていない。しかも、その考えだと相手の少女の行為まで違法になってしまう。

 むしろ、この報道からすると、警察はあまり問題意識をもたないまま逮捕したものの、大騒ぎとなって慌て、県警本部マターとなり、後付けで理論構成を組み立てたようにも受け取れる。

 また、この続報からは、肝心の裁判官がどこまで免責規定を意識して逮捕状を出したのか不明だし、逮捕後、検察官の請求によって勾留までされているのか、すでに釈放されているのか、それこそ別の余罪で再逮捕されているのか、少年の身柄の現状も不明だ。

 しかも、残念ながら、この続報では逮捕を違法とする識者への取材が全く行われていない。刑事法学者で近畿大学法学部の教授である辻本典央氏のコメントが正鵠を射ていることから、参考までに最後に紹介しておきたい。

本件は、当初に報道された時点から様々なコメントが寄せられていましたが、本件記事によると、改めて県警が見解を示したとのことです。これによると、本件の容疑者に免責規定が適用されることを認識した上で、令状の発付を受けて逮捕したとのことでした。保護処分等の必要性を考慮したようです。

ただ、そうであるならば、やはりこの逮捕は違法であったと言わざるを得ません。令状に基づく逮捕は、容疑者が罪を犯したことの相当な嫌疑が必要ですが、本件は、その嫌疑が認められないからです。端的に言えば、14歳未満の刑事未成年者を逮捕するのと同じことです。

この点で、県条例の免責規定の趣旨が問われますが、規定上は罰則の適用を除外するとされています。これは、犯罪が成立した上で刑を免除するのとは異なり、そもそも犯罪に当たらないとするものです。この理解は、条例の目的からも明らかです。

もとより、令状を発付した裁判官のミスです。

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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