会社にいい人材を引き寄せる――「ミライ採用」のススメ
絶対達成させるべきは売上ではなく、採用目標
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタント。「絶対達成」させる対象は、企業の経営目標、事業計画です。計画をつくったり、仕組みを練り上げたりするだけでなく、現場の行動改善を徹底してやり抜かせたうえで、組織で目標を達成させていく支援を心掛けています。
さて、先述した「事業計画」なるものは、売上や利益が中心の計画がほとんどです。その売上を達成させるためには、どのような設備投資が必要で、どのような人員計画が必要で、どのような採用・育成計画が必要で……といった手順で考えられるものです。しかし急速に進む少子高齢化の影響で、計画作りの考え方を、根本的に変えていくべき時代がやってきます。
総務省が発表したデータを見てみましょう。2010年に23.9%だった65歳以上の人口が、20年後の2030年には31.6%にまで上昇するのに対し、15~64歳の生産年齢人口は、2010年の8103万人から6773万人に大幅減少すると見込まれています。さらに30年後の2060年には、4418万人にまで減ると言われており、採用に対する努力を怠った企業にミライがないことは確実です。
したがって、今後の事業計画のトレンドは、「売上」や「利益」ではなく、「採用」「育成」を中心とした計画に方向転換されていく、といっても過言ではありません。
つまり、
「このように売上・利益をあげていく計画だから、これだけの人を採用し、育てなければならない」
という発想ではなく、
「このように若い人を採用し、育てていく計画だから、これだけの売上と利益を増やしていかなければならない」
という発想の時代がやってくる、ということです。
いい人をどのように採用するか?
求職者にとっての就職環境は、いまだ「売り手市場」です。
「売り手市場」の状態がこれだけ続くと、企業の採用担当者(特に有名大企業を除く)の苦難は、今後も長期にわたってつづくことでしょう。しかし先述したとおり、採用戦略で失敗すると企業に明るいミライはありません。
それでは、有名大企業でもない、中堅中小企業はどのように人を採用したらいいのでしょうか? 私どもが提唱するのは「ミライ採用」という考え方です。これは3つのミライを考える、採用のあり方です。
そのミライとは、まず「会社のミライ」と「求職者のミライ」。「会社のミライ」を考えるからこそ、こういう人材が必要だから、これだけの人を採用しよう、そして育成しよう、と考えるようになります。
絶対にやめるべきは「とにかく採用ありき」の考え方。
採用するのがゴールで、あとは現場任せ――という会社があります。しかし、そんな会社にいい人材があつまるはずがありません。「会社のミライ」を考えられる人が、採用戦略の責任者になるべきであり、中小企業では社長みずからが採用の前線に立つのは、いまや当然のこととなっています。
次は「求職者のミライ」です。求職者のミライは2つに分かれます。「求職者のキャリア」と「求職者の人生」です。
担当者が「会社のミライ」を考えているからこそ、当社に入ったらどんなキャリアを歩んでもらうか、そのための教育制度やサポートも、面接のとき明瞭に語ることができるはずです。
いっぽうで採用担当が次のような曖昧な表現をしていると、求職者は不安になることでしょう。
「私は現場の人間じゃないから、入社したあとのことまでは、わからない。聞くところによると、おそらく、こんな感じになるのではないか……」
求職者は面接に人生をかけています。相手の立場に立って物事を考えられない人が、いい人材を引き寄せるはずがありません。入社したら、まずどんな仕事を任せられるか、それは何のためか? その後、どんな人材になって、どのように会社、そして社会に貢献してもらいたいか、わかりやすく整理して伝えられなければいけません。
最後は「人生のミライ」です。
求職者に、人生のアドバイスがができるか?
これから社会人になる新卒、もしくは一度社会に出た第二新卒であれば、まだまだ社会とは何か、仕事とは何かを正しく知らないことが多いはずです。すると、人生経験のある採用担当は、「この人はもっとこうしたほうが魅力的なのに」「もっとこう考えたら、自分のポテンシャルを発揮できるだろうに」と感じることも多いことでしょう。
そういうときは、相手に軽くアドバイスをしてあげましょう。
「せっかくいい経歴なのに、自分を売り込むプレゼンが物足りない。もっとこうしたほうが、君の魅力が伝わるんじゃないかな」
「このような就職活動は、人生に何度もあるわけじゃない。たくさんの会社を受けたほうがいいと思うよ。自分がどのように見られているか、知るいいキッカケだから」
このような就職活動に関するアドバイスはもちろんのこと、
「やりたいことが見つからない? そうだよね。僕も最初はカーデザイナーになりたかったんだけど、2回転職して、今は広告代理店の人事課長をやってる。たとえ今はやりたいことが見つからなくても、目の前のことを一所懸命やることで見つかってくることもあるよ」
「やりがいのある仕事をしたければ、仕事の内容や、会社の知名度を気にしないほうがいい場合がある。大事なことは、誰と一緒に仕事をするか、なんだ。だから、就職面接を受けるとき、一緒に働く人を紹介してもらったほうがいいよ」
大事なことは、見返りを求めず、親身になってアドバイスをすること。
会ってすぐ、「この人は当社に来てくれないだろう」とわかっても、「この人は当社に合わないだろう」と思っても、求職者のその後の人生を考え、「人生の先輩」としてアドバイスをするのです。
そうすることで、「あの会社はいい会社だ」と学生や、人材紹介会社の担当者のあいだで評判になり、まわりまわっていい人材がやってくる――ということではありません。
そのような邪(よこしま)な考えでするのではなく、純粋に相手のためにアドバイスをするのです。「ギブ&テイク」ではなく「ギブ&ギブ」の精神、「ペイフォワード」の価値観で、相手を慮(おもんばか)るのです。もう二度と会うことはない相手だとわかっていても、これも「ご縁」なのです。せっかくのご縁なので、相手のためと思って惜しみなくアドバイスをしましょう。
まとめると、「ミライ採用」とは、以下3つのミライを念頭においた採用の考え方です。
1)会社のミライ
2)キャリアのミライ
3)人生のミライ
多くの人のミライに関わる採用というお仕事。優秀な採用担当者は、必ずご縁の大切さを知っています。求職者のミライの人生をも考えてあげることで、「徳」を積み、そういう「徳」が、いい人材を引き寄せる、掛け替えのないリソースになると私どもは考えています。