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猫に「ともだち」は必要なのか?前編:互いの存在が支えになる2匹を見つけるコツ【獣医師監修】

いわさきはるかサイエンスライター

複数の猫がくっつきあって眠ったり、遊んだりするようすはとても可愛らしいもの。今や猫を飼う人の半数以上が2匹以上飼っているというアンケート結果もあります。

しかしそもそも単独行動の動物と言われている猫に「ともだち」は必要なのでしょうか?この記事では、動物行動診療の専門家で自身も3匹の猫を飼う中野あや先生にお話を伺い、猫にとって「ともだち」は必要なのか、そして猫の「ともだち」とはどんな存在か、下記のような流れで解説していきます。

・猫を2匹で迎えるメリット
・猫の相性の見極め方
・実際に2匹で迎えた人の声
・2匹で迎えるデメリットと解消法

初めて猫を迎えるとき「まずは1匹」と考える人は多いもの。しかし、中野先生によれば実は1匹よりも2匹でお迎えした方が猫が受けるストレスが少なくて済むことがあるのだそうです。とはいえ、もちろん単に猫を2匹でお迎えすればいいというわけではありません。猫の関係性によっては、逆にお互いの存在がストレスになることもありえます。

今回の前編では最初から猫2匹をお迎えする場合について、そのメリットと猫の相性の見極め方、実際に2匹で飼い始めた方の体験談などを紹介します。後編では先住猫がいる状態で2匹目の猫をお迎えする場合についてご紹介しますので、先住猫がいる人もいない人もぜひ読んでみてくださいね。

猫を2匹でお迎えするメリット

中野先生の飼い猫のかげとくんとにーたちゃんのなかよし猫団子(撮影:中野先生)
中野先生の飼い猫のかげとくんとにーたちゃんのなかよし猫団子(撮影:中野先生)

猫がいないご家庭が初めて猫をお迎えするとき、1匹よりも2匹がおすすめという中野先生。始めから2匹をお迎えすることで、どのようなメリットがあるのでしょうか?

①互いの存在(ニオイ)で安心できる

新しい環境におかれたとき、猫が不安になる大きな要因の一つが「自分のニオイや自分が知っているニオイ」がないことです。猫にとって嗅覚はとても重要で、自分のニオイをつけることで「自分の場所だ」と安心することができます。このため自分のニオイがまったくしない空間というのがまずストレスなのです。

「おうちにやってくる前からくっついて眠ったりお互いに毛づくろいをしている猫たちには、お互いのニオイがついています。安心できるニオイの存在が一緒にいれば安心感が得られるはずです。」

さらにニオイだけでなく、くっついて眠る相手の温度や触感を含めた存在そのものが大きな安心につながるそうです。

②行動が互いに影響する

中野先生によれば新しい環境への順応が2匹で飼い始めた方が早い傾向にあると言います。

「片方の子が臆病でも、もう片方が好奇心の強いタイプである場合、もう1匹も活発な子の後について動くことで、新しい環境に早く慣れるケースもあります。両方臆病だと猫同士で完結してしまって人に慣れるのに時間がかかることもありますが、猫自身のストレスは減っています。怖がりな子ほど孤独でないことが支えになるはずですから、1匹で迎えられるよりは順応しやすいのではないでしょうか。」

また、猫同士でじゃれあって遊べることで、遊びやコミュニケーションの欲求が満たされやすくなります。これにより飼い主の足に飛びつく、甘噛みするといった問題行動も減る傾向にあるそうです。

2匹でお迎えするのに適した「なかよし」の見極め方

かげとくんとにーたちゃんの社会化期(撮影:中野先生)
かげとくんとにーたちゃんの社会化期(撮影:中野先生)

それでは、お互いの安心できるような関係性の2匹はどのように見極めればいいのでしょうか?2匹一緒にいることが多いから相性が良いかというと必ずしもそうではないと中野先生は言います。

「よく一緒に遊んでいるように見えても、片方が一方的に相手のことが好きで追いかけているだけかもしれません。そのような関係性の場合、追いかけられている子にとっては2匹一緒にいることがストレスになっている可能性もあります。一般的には『互いに追いかけるようすがあれば遊んでいる』というように言われることもありますが、片方が遊びで追いかけていても、他方は威嚇(攻撃)の意図で追いかけていることもあるため、絶対とは言えません。」

単に同じ空間にいるだけではなく、お互いのからだをくっつけてリラックスして眠るようすや、毛づくろいしあうようすが見られることが、互いに安心感を感じている関係性なのだそうです。

なお、人間の場合「血のつながった家族」だとリラックスできる関係性というイメージがありますが、猫にとっての血縁は必須の条件ではありません。

「月齢が近く、より幼いうちから一緒にいるほど相性はよくなります。同じタイミングで生まれて生まれたときから一緒にいるきょうだいは良い関係になりやすいですね。」

猫の場合、生後2~7週頃までが「社会化期」と呼ばれ、警戒心が弱く愛着関係が築かれやすい時期です。猫の相性には血縁よりもこの社会化期に一緒にいたかどうかが大きな影響を及ぼします。ただし、親子の場合は子どもの成長に伴って親離れ/子離れがあり、相性が変化することもあります。

年齢や一緒にいた期間などを把握し、一緒にいるときのようすをよく観察することが大切です。

実際に始めから猫2匹をお迎えした人たちの声

全員が2匹でお迎えしてよかったと回答!
全員が2匹でお迎えしてよかったと回答!

ここからは、実際に相性の良い2匹を家に迎えた飼い主さんに聞いたアンケートをご紹介します。アンケートは、相性の良い2匹での譲渡を積極的に行っている保護猫団体「神戸にゃん太の会」にご協力いただきました。

アンケートに答えていただいたのは保護猫を一度に2匹引き取った55名です。このうち、初めて猫をお迎えする方は50%、先住猫がいる状態で迎えた方が20.4%、先住猫がおらず猫の飼育経験がある人は29.6%でした。

「2匹でお迎えしてよかったか?」という質問にはアンケートの参加者全員が「はい」と回答しており、「初めて猫を飼う人に相性の良い2で匹飼い始めることを勧めたいか?」という質問にも92.6%の方々が「勧めたい」としています。

実際に2匹の猫を迎えた感想として以下のようなものがありました。

お迎え当初は緊張していたが、2匹でくっついて安心し合っている様子だった

  • 2匹でよく遊んでくれる(にぎやかすぎることもある)
  • 留守番中も2匹で寄り添っていて、寂しくなさそう
  • 2匹の個性が垣間見えて飼い主の楽しさは2倍以上になる
  • 片方臆病だったが、もう1匹は積極的だったのでつられてでてきた
  • 2匹でくっついているぶん、人に慣れるのに時間がかかった
  • トイレのしまつや病院の手間が2倍でちょっと大変

2匹いることで安心できる、一緒に遊べるなどのメリットがある一方で、トイレなどの日々の世話や通院など手間やコストが2倍かかるという現実的なデメリットも見えてきました。とはいえ、これらを差し引いても「2匹でお迎えしてよかった」と感じている人が多いということはそれだけ猫がのびのびストレスなく暮らせていることを示しているのかもしれません。

また、アンケートに答えた方の中には子猫でお迎えした方が複数見られましたが「とびかかられた」「甘噛みをされた」といったコメントはほとんどありませんでした。これらは子猫を飼っているとよくある困りごとですが、2匹で過ごすことで猫同士が遊びやコミュニケーションの欲求を昇華できているからこそ、このような困りごとの頻度が低くなっているのかもしれません。

猫2匹を飼うのは大変?デメリットの解消法

我が家で使っている個体識別トイレ(撮影:いわさきはるか)
我が家で使っている個体識別トイレ(撮影:いわさきはるか)

我が家で使っている個体識別トイレ(撮影:いわさきはるか)

先ほどの飼い主さんたちの声からのわかる通り、相性の良い猫を2匹で迎えることには大きなメリットがある一方で、デメリットも存在します。2匹飼う前にそのデメリットと解消法を正しく理解しておきましょう。

まず、2匹いることでお世話の負担は確実に増えます。ただし2倍かというと必ずしもそうではありません。

これは私の経験なのですが、2匹に同じタイミングでエサを与えているとトイレのタイミングなども近くなり、まとめておそうじできることも少なくありません。おしっこの掃除が週1回でいい二層式トイレを使っていれば、トイレ掃除の手間は1匹でも2匹でもそれほど変わらない印象です。

また、実は飼育に必要なスペースも2匹になったからといってそれほど変わらないのだと中野先生は言います。

「相性の良い猫同士なら、トイレやスペースを共有できるので、1匹飼う部屋の広さがあれば2匹飼うことは可能です。相性の良い2匹ならトイレや食器を共有しても大きなストレスにはなりません。ただし、衛生面などを考えると食器、水入れ、寝床は猫の数以上に準備しておくことが望ましいでしょう。」

もしすでにトイレを2匹で共用している場合には、なるべく大きなサイズのものにするといいそうです。

次に、猫の健康管理という点では、確かに2匹飼っている方が難しいと言えます。医療費が2倍になってしまうのはもちろんですが、それだけではありません。

「同じトイレを使っているとそれぞれの排泄の回数がわからなくなったり、下痢や血尿を見つけたときにどちらの猫のものかわからなくなることもあります。尿検査のための採尿も難しくなりますので、検査日だけ別室に隔離したり、個体認識ができるトイレを使うといいでしょう。また、隣り合って食事を取っている場合には互いのフードを食べてしまうことがあり、片方だけ療養食というのが難しくなります。食事療法については、2匹とも指定のエサにされる飼い主さんもいらっしゃいますよ。」

先生の仰る通り、最近は猫の顔や体重で個体認識できるトイレも増えてきました。我が家も体重で認識できるものを使っていますが、2匹の体重が近くても精度良くお知らせしてくれます。

最後に、相性の良い猫は年齢も近いことが多く、中高齢期は医療費がかかるタイミングが重なってしまいやすいことも飼い主にとっては負担に思えるかもしれません。しかし、「ストレスが万病のもと」であることを考えると相性の良い2匹で過ごすことで猫たちの健康寿命が延びている可能性もあります。それでもかかるお金については保険を活用するなどして、いざというときにかかる負担に備えておくといいでしょう。

いつか2匹と思うなら「最初から2匹」がオススメ

最初から2匹でやってきたかげとくんとにーたちゃん(撮影:中野先生)
最初から2匹でやってきたかげとくんとにーたちゃん(撮影:中野先生)

猫にとって、新しい家で暮らし始めることは大きなストレスです。相性の良い2匹の猫で迎え入れることで、お迎え時はもちろん日々のストレスを大きく減らすことができます。実際、相性の良い猫をセットで迎えることを勧める獣医さんや保護猫団体も増えてきているようです。

猫は単独行動の動物ですが、完全室内飼いが主流となった今、暇を持て余している猫は少なくありません。相性の良い猫を2~3匹程度で飼うことで、猫のストレスが減り、いたずらなどの問題行動解決にもつながる可能性もあります。

とはいえ猫の相性は簡単に見極めることはできません。お迎え前にいた場所で、お互いがリラックスしてるときにくっついているか、お互いに毛づくろいをしあっているかなどを観察することが大切です。

一方、このように最初から2匹お迎えする場合には事前に相性を見極めることができますが、先住猫がいる状態で2匹目を迎えるときにはこのような相性がわかりません。このため、次回の後編では先住猫がいる際になるべくストレスなく2匹目を迎えるコツをご紹介します。お楽しみに!

この記事のまとめ

相性の良い2匹をちゃんと見極めることができれば、猫を2匹で迎えることは猫たちの大きなストレス軽減につながります。

メリットとデメリットは以下の通りです。

相性が良い2匹で暮らすメリット

  • 遊び相手がいる
  • 一緒にいることで不安が生じにくい
  • 新しい環境に慣れやすい
  • 「退屈」や「不安」による問題行動が少ない
  • 寒いときお互いが暖房になる
  • 猫同士がくっつく猫団子を見て人も癒される

猫2匹暮らしのデメリット

  • 2匹分のリソース(コスト、環境資源)が必要
  • 人に寄ってくるより猫同士で過ごすことが増えることもある
  • 健康管理にコツがいる
  • アクシデントで仲が悪くなるリスクが0ではない
  • 病気やお別れのタイミングが近くなりやすい

取材協力

中野あや(獣医師)

動物行動クリニックなかの

獣医行動診療科認定医

行動診療科は、いわゆる「問題行動」の治療を専門とする診療科ですが、『問題』の原因が動物だけにあることは稀で、人間や環境にも問題があることがほとんどです。

行動トラブルには体の病気や不調も含めた様々な要因が関係しているため、『しつけ』で済ませるのではなく、原因を特定して向き合いながら、困っている動物とその家族が心穏やかに過ごせるようにしていきます。

また、あらかじめ「問題行動」にならないための知識を啓発することも私たちの仕事です。

神戸にゃん太の会

地域にいる猫たちが幸せに、人と共存する社会を願って、TNRをはじめとする様々な活動に取り組んでいる集まりです。

2005年に近隣の餌やりさんと共に自宅周辺の野良猫を対象に活動を開始、2016年、阪神大震災の仮設住宅撤去公園で捨てられた50匹の猫の相談を受け、全頭手術を支援しました。

2022年4月時点で累計1800あまりの猫をTNRし、地域猫にしています。

HP:にゃんたフェKOBE

ブログ:猫の幸せが私の幸せ

サイエンスライター

保護猫2匹と暮らす理系ライター。猫や犬などペットとして身近な動物の研究をわかりやすく発信します。動物に関する研究は日々進んでいます。最新研究を知っておくと、きっとペットとの生活がより豊かなものになるはず。読めば人も動物もWin-Winになるような記事を書いていきたいと思います。

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