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ロサンゼルスで1ドルの“ディズニー・ライド”に乗れる日 イーロン・マスク氏、ループの未来予想図を語る

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
自身も住むロサンゼルスはベルエアで行われた住民説明会にイーロン・マスク氏が登場。(写真:ロイター/アフロ)

「ロサンゼルスの真ん中を走る、風変わりで小さなディズニー・ライド、という感じのものになるでしょう」

700人を超える人々を前にそう話すのは、テスラ社CEOのイーロン・マスク氏だ。

 米国時間5月17日夜、マスク氏が居住するロサンゼルスの高級住宅地ベルエアにあるユダヤ教会堂で、同氏がロサンゼルスで構築しようとしている交通システムの住民説明会が行われた。マスク氏自身が住民説明会に現れることは異例とあって、説明会の無料チケットのウェブ登録はすぐに終了、会場受付にはキャンセル待ちの人々の姿もあった。

ベルエアで行われた住民説明会の様子。(筆者撮影)
ベルエアで行われた住民説明会の様子。(筆者撮影)

 マスク氏は、ロサンゼルス空港(LAX)近くのホーソーン市に宇宙事業を手がけるスペースX社を構えているが、自宅と同社の往復には、405番フリーウェイという、アメリカでも深刻な渋滞問題を抱えていることで悪名高い高速道路を使わなければならない。自身も悩まされてきた交通渋滞を解消するような交通システムを構築すべく、マスク氏は2016年にボーリング社を設立した。

悪天候の影響を受けない

 新たな交通手段としては、ウーバー社が開発に乗り出している空飛ぶ電気自動車も注目されているが、マスク氏が着目したのは空ではなく地下だ。「空飛ぶ車と比べたら、悪天候の心配をする必要がない」というのがその理由。地下に掘ったトンネルを、小さな乗り物で高速移動するシステムを構想している。

 マスク氏は住民説明会でこの乗り物を、冒頭のように、“ディズニー・ライド”と表現して、会場の笑いを誘った。

 マスク氏は2013年に大都市間を時速700マイル(時速1120キロ)という飛行機以上の速さで超高速移動するハイパーループというシステムの開発を発表したが、ロサンゼルスで展開しようとしているシステムはハイパーループよりも低速度で短距離を移動する、ハイパーループのミニ版といえるだろう。説明会では、ハイパーループに対してループという名前で説明された。

乗車賃は1ドル

マスク氏がロサンゼルスで展開しようとしているループ。(筆者撮影)
マスク氏がロサンゼルスで展開しようとしているループ。(筆者撮影)

 ループに使用されるのは、16人乗りの小さな乗り物だ。時速150マイル(時速240キロ)という高速移動なので、ロサンゼルスのダウンタウンからロサンゼルス空港(LAX)までわずか8分で行くことができるという。

  説明会では、実際にこの乗り物に乗った場合、どんな速さを体感し、どう見えるかデモ映像が映し出され、その速さから拍手が起きた。

 しかも、乗車賃が安い。「いくらで乗れるのか?」という説明会参加者からの質問に、マスク氏は「1ドル」と答え、会場はわいた。ちなみに、ロサンゼルスの電車の乗車賃は1.75ドルである。また、ループは、電車のように各駅停車することなく目的地に迅速に向かうことができるようなシステムにするという。

 ループで移動するには、もちろん乗り場に行かなければならないが、マスク氏は地下鉄のような大きな駅を作ることは考えていない。乗り場は駐車場ほどの小さなスペースになる模様だ。そこで、この乗り物に乗車し、エレベーターで地下深くにあるトンネルまで降りて行くのである。混雑しないよう、小さな乗り場を数多く作り、電車やバス、地下鉄など既存の交通網にもアクセスしやすいように設置したいと考えているという。

レーンは無限に作れる

 地上は車で飽和状態だ。しかし、地下はまだ開発の余地がある。「トンネルシステムでは、何百ものレーンを作ることができる。実際、限りなく作れる」と地下に無限の可能性を見出すマスク氏。

 しかし、地元住民にはやはり不安がある。工事の騒音と地震の問題だ。騒音については、マスク氏は「トンネルは地下鉄やインフラがある深さよりもさらに深いところに掘るため、音は聞こえない」という。また、トンネルは地震の揺れにも耐えるように作られるため安全だと主張した。

 マスク氏の行動は早い。スペースX社の駐車場に作ったコンセプト用のトンネルはすでに完成。現在はウエスト・ロサンゼルスのセプルベダ通り沿いに、長さ約3マイル(4.8キロ)のテスト用のトンネルを掘るべく動いており、ロサンゼルス郡の交通管理局とパートナーシップを組んだばかりだ。

「インフラが複雑なロサンゼルスでトンネルを作ることができたら、どんなところにでも作れる」

とマスク氏は他都市にもループを構築する野心を燃やしている。

 住民から反対の声も出てはいるものの、説明会では、マスク氏の語る“トンネル構想”に大きな喝采が送られた。マスク氏が描く未来予想図に、人々の支援の輪は広がっていきそうだ。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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