凱旋門賞当日にエントシャイデンが2年連続GⅠで好走した意味とは?
凱旋門賞デーのGⅠで好走
現地時間10月2日、フランスのパリロンシャン競馬場で凱旋門賞(GⅠ)が行われた。
4頭の日本馬が出走した事で注目を集めたが、最先着はタイトルホルダーの11着。残念ながら軒並み惨敗に終わった。レースの直前には大粒の雨が降り、各陣営とも、軟らかくなった馬場を敗因の一つとしてあげた。そのせいもあってか、マスコミやファンの間でも「日本とは違い過ぎる馬場」「日本馬に合わない馬場」という声がチラホラ聞かれた。
昨年、クロノジェネシスやディープボンドが敗れた時も同様の声が囁かれたが、そんな中、2年連続で凱旋門賞と同じ日のGⅠに出走し、いずれも3着に好走したのがエントシャイデンだ。
「状態は良かったし、昨年よりはメンバー的に手薄になっていたのに、ヤケに人気がないなって思っていました」
そう語るのは同馬を管理する矢作芳人調教師だ。
エントシャイデンが出走したのは1400メートルのフォレ賞。伯楽が語るように前年は頭ひとつ抜けた馬がいた。直後にブリーダーズCマイル(GⅠ)を制すスペースブルースが強敵で、実際同馬が勝利した。
一方、今年はキンロスが1番人気。この馬は前年のフォレ賞が4着。つまりエントシャイデンは先着していたわけだから陣営の下した「前年より弱いメンバー」という評価に間違いはないだろう。
しかし、とはいえGⅠなので、決して楽なメンバーというわけではなかった。キンロス自身、ここ2戦、GⅡを連勝しており、破った相手にはGⅠで好走歴のあるニューエナジーやセークリッドがいた。他にもジャンプラ賞(GⅠ)の勝ち馬テネブリズムも出走してきた。そんな相手に果敢にハナへ行くと、直線も粘りに粘り、キンロスにこそ差されたが、ニューエナジーやテネブリズムらには先着しまたも3着に好走してみせたのだ。
「正直、去年の方が状態は良く感じたけど、競馬へ行ったらしっかり走ってくれました。立派なものです」
2年連続で好走に導いた坂井瑠星騎手はそう言った。海外で2年連続同じGⅠに挑み、いずれも好走というのは、馬も厩舎も本当に立派だ。凱旋門賞ばかりに目が行きがちだが、もっと評価されてしかるべき好走劇だろう。
エントシャイデンが残してくれたモノ
そして、同時に、必ずしも「日本馬に合わない馬場」で済ましてはいけないと、エントシャイデンが問題提起をしてくれたと思う。
思えば1999年にエルコンドルパサーが今年以上の道悪だった凱旋門賞で2着したが、同じ日にアグネスワールドはアベイユドロンシャン賞(GⅠ)を優勝した。同レースは直線1000メートルで、凱旋門賞で使用するオーバルコースは走らないが、それでも前日の大雨で道悪だった事に変わりはない。日本ではGⅠ勝ちのないアグネスワールドだが、そんな馬場でGⅠを勝ったのだ。
また、ディープインパクトが敗れた2006年には、前日のダニエルウェルデンシュタイン賞(GⅡ)にピカレスクコートが出走。この馬もこの時点では日本国内の重賞実績はなかった。いや、それどころか、直前は1000万条件でも負けていた馬だったが、ロンシャンのマイルのGⅡで2着と善戦してみせた。似たような例としてはドラール賞(GⅡ)で2着したイーグルカフェの例もある。
以前の記事でも記したが、これらの例をみても、単純に日本馬に合わない馬場だとは思えない。勿論、馬場の違いはあるし、雨が降ると水捌けの悪い地盤なので日本とはかなり異質な馬場状態になるのは確かだろう。道悪への適性が必要なのも間違いない。しかし、エントシャイデンではないが、そんな馬場でも走れる馬は走れる。というか、2400メートル戦でなければ、日本で走っている時以上に結果を残している馬は沢山いる。凱旋門賞だけが日本馬に合わない馬場という見解は整合性に欠け、むしろ「2400メートル戦はヨーロッパの馬が強い」と考えた方が腑に落ちる。
ジャパンC(GⅠ)が日本馬の独せん場になっている点と、凱旋門賞ばかりに目がいく点で気付き辛いが、ヨーロッパの馬はアメリカでもドバイでも香港でも2400メートル戦なら結果を残している。だから、馬場云々よりもまずはこのカテゴリーに於ける能力の方が問題だと個人的には考えている。
ちなみに今回の凱旋門賞、日本勢ばかりでなく、地元ヨーロッパ勢の関係者でも道悪馬場を敗因にあげる陣営は多かった。そんな中、世界のヤハギは旗幟鮮明に言った。
「力負けと認めざるをえないでしょう。馬場とか枠順とか、それらは小さな要因に過ぎなかったと思います」
凱旋門賞だけを見て「日本馬に合わない馬場」と言うのは早計だろう。エントシャイデンの好走に目を瞑らず、しかと受け止め分析する事で、大願成就の日は見えて来るのかもしれない。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)