「働くのが趣味」「限界まで働きたい」エクストリーム・ワーカー(Xワーカー)たちのこれから
「働き方改革」がもたらす負の側面
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。「絶対達成」という言葉を聞くと、
「ノルマ至上主義か? 時代錯誤だ」
「働き方改革が進められている現代において、もっと働けと言うのか?」
と、このように極端な反応を示す人が増えています。「絶対達成」のコンセプトは、企業の目標ぐらいはあたりまえのように達成しよう、というだけの話です。ノルマ至上主義ではないし、長時間労働を推奨しているわけでもありません。にもかかわらず「そのような企業文化だと若者たちが離れていく」と言いだす経営者やミドルマネジャーが急増しています。
日本人はもっと働き方を変え、長時間労働を是正しなければならない、生産性の高い仕事をしなければならない、という言説はまったくその通りです。今の日本企業において、ムダなことをやっている暇などありません。新しい発想で産業を生み出す創造的な仕事のやり方を模索すべきです。しかし「生産性を上げること」と「短い時間でラクして働くこと」を同じように受け止める人が実際にいるのです。「働き方改革」がもたらす負の側面と言えます。
「エクストリーム・ワーカー(Xワーカー)」とは?
「仕事ばかりの人生はいや」「もっと余暇を楽しみたい」といった労働者が増えているいっぽう、真逆の発想をする人も当然います。つまり、「朝から晩まで働きたい」「遊ぶ暇があったら働きたい」「寝る時間を削ってでも働きたい」「働くのが趣味」「働いて成果を出すのがたまらなく楽しい」……という人たちです。
極端な話、「限界まで働きたい」「体が壊れない程度に働きたい」という人たち。マイノリティですが、世の中には一定数います。
自分の身体能力や度胸の限界を求めるスポーツを「エクストリーム・スポーツ」と呼びます。
スカイダイビング中に、パラシュートが開くまでボードを使った演技をする「スカイサーフィン」。スケートボードで舗装された坂道をハイスピードで下る「ストリートルージュ」。断崖絶壁から水着一枚でダイブする「クリフダイビング」など……。傍から見ていると危険で過激なスポーツです。しかしこの特殊なスポーツに熱狂する若者たちが世界中にたくさんいます。
刺激に馴れていくことで、刺激を刺激だと認識しなくなる現象を「刺激馴化」と呼びます。辛い食べ物に馴れていくと、もっと辛い物が食べたくなる人がいるように、もっと過激なスポーツをしたい、もっと危険な目に遭ってもやりたいという心理現象が、このような行動を人にとらせます。
この心理現象は、当然のことながら労働にもあります。働けば働くほど成果が上がる。自身のビジネスが好転するとわかれば、起きている時間はすべて働く時間に充てたい。寝る時間を惜しんで働いていたい……という発想になっていきます。このような働き方をする人を私は「エクストリーム・ワーカー」と呼んでいます。エクストリーム・スポーツを「Xスポーツ」と記すので、「エクストリーム・ワーカー」も「Xワーカー」と記すことにします。
「エクストリーム・ワーカー」の定義
「エクストリーム・ワーカー(Xワーカー)」は、世の中で問題になっている長時間労働者とは区別すべきです。Xワーカーの定義をここで明確にしておきましょう。
● 1日の労働時間が「15時間」を超えている
● 働いて成果を上げることに快感を覚える
● 長時間の労働を主体的に続ける(やらされ感は一切なし)
● ITを駆使し、作業密度を高める工夫を怠らない
● 学習の意欲が高く、自己投資を繰り返す
● 長時間働ける体力作りに余念がない
1日15時間というのは、朝7時から夜10時ぐらいまでノンストップで働くペースです。実際には移動時間や食事の時間もあるため、朝4時や5時に起きてすぐに働きはじめ、夜も11時、12時まで働き続けます。
しかもダラダラ働くのではなく、労働生産性をあげる努力を人一倍やります。働くこと自体が楽しいため労働時間の絶対量を減らそうとしません。したがって、処理できる仕事の量がドンドン増えていくことになります。それこそが自分の成長の実感と受け止めるため、Xワーカーたちはこなせる仕事量が増えれば増えるほど喜びを覚えます。
時間を惜しみ、ランチや夕食をミーティングの場にするXワーカーもいます。ゲーム感覚で働いているため、寝る時間以外は労働に充当する傾向があります。
体を鍛えるXワーカーも多いでしょう。一年中、ほとんど休むことなく働く知人の弁護士は、ゴールドジムに通って筋肉隆々の体を手に入れました。100キロを超えるウルトラマラソンや、アマゾン、南極で行われる特殊なマラソン大会に参加する友人もいます。彼ら彼女らも、ふだんは異常なほど働いて成果を出すXワーカーたちです。
「エクストリーム・ワーカー」の今後
「エクストリーム・スポーツ」と同じように、「エクストリーム・ワーカー」の働き方が世間一般に受け入れられることはないでしょう。マジョリティになることはありません。しかし、世の中が「働く時間を減らしたい」「もっとストレスのかからない仕事をしたい」という風潮になっているため、今後はXワーカーたちの存在が際立ってくるはずです。
会社を起ち上げることなく、Xワーカーたちが個人で相互にネットワークで繋がり、ビジネスプロジェクトを柔軟に進めはじめたら、一般企業では太刀打ちできません。働く姿勢、働くマインドが一般企業の従業員のそれとまったく違うため、彼ら彼女らとプロジェクトチームを構築できない。したがってXワーカーたちが作り上げるプロジェクトチームは、それこそ常人では理解できないほどのスピードで、エクストリームな成果を出すことでしょう。
Xワーカーたちが独自のコミュニティを作り、有機的に繋がることで、一般企業では成しえない新たなイノベーションが起きる気がしています。