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この夏、いきなり出現した「なりすましドラマ」とは?

碓井広義メディア文化評論家
バットマンになりすました(?)どーもくん(筆者撮影)

「なりすましドラマ」の多発

この夏、いきなり2本の「なりすましドラマ」が出現しました。

なりすます(成り済ます)とは、「実際はそうでないのに、なりきった風をする」こと。

たとえば、Aという人物が、Bという人物を装って行動すれば、それは「なりすまし」になります。

これを物語の主要な要素としたドラマを、「なりすましドラマ」と呼びたいと思います。

若村麻由美主演『この素晴らしき世界』

1本目の「なりすましドラマ」は、先日幕を閉じた『この素晴らしき世界』(フジテレビ系)です。

パート主婦の浜岡妙子(若村麻由美)は突然、芸能事務所から驚きの依頼を受けます。

大女優・若菜絹代(若村の二役)のスキャンダルが発覚し、謝罪会見を開きたい。しかし本人はアメリカへと逃走してしまった。

容姿がそっくりの妙子に、「若菜の代役を務めてほしい」というのです。

妙子は一度だけのつもりで会見を乗り切りますが、それで終わりではありませんでした。

若菜としての出演だけでなく、事務所が抱えた大問題にも巻き込まれ……。

しかし妙子は、なりすましの体験を通じて、本来の自己を「再発見」していきました。

そもそも主演の若村さん自身が、体調不良で降板した鈴木京香さんの代役です。

とはいえ、「平凡な主婦」と「大物女優」、さらに「女優になりすました主婦」という3態を、若村さんならではの表現で演じ分けて、見事でした。

蒔田彩珠主演『わたしの一番最悪なともだち』

2本目の「なりすましドラマ」が、現在も放送中の夜ドラ『わたしの一番最悪なともだち』(NHK)です。

主人公の笠松ほたる(蒔田彩珠)は就職活動中の大学4年。でも、なかなか内定が得られず、途方に暮れていました。

ある日、幼なじみの鍵谷美晴(高石あかり)のキャラクターを「借用」してエントリーシートを書き、第1志望の会社に送ると通過してしまう。

小学生の頃からクラスのもめ事を鮮やかに収め、高校でのトラブルも柔軟な発想で解決した美晴。大学ではダンスサークルの中心メンバーです。

ほたるにとって、何かと鬱陶(うっとう)しい存在でありながら、「こんな自分だったらいいのに」と思っていたことに気づきます。

その後、1次面接も突破して次へと進みますが、気持ちは晴れないままでした。

そして最終面接では、ついに面接官から「あなた(自身)の話が聞きたい」と言われてしまう。ほたるは、半ば開き直って自分の思いを語り始めます。

仮面をつけて外界と向き合ったことで、逆に自分にとって「大切なもの」が見えてきたのです。

結果的にこの会社から内定をもらい、無事入社。ドラマでは現在、社会人3年目です。

蒔田さんはNHK朝ドラ『おかえりモネ』(2021年)でヒロインの妹、『妻、小学生になる。』(TBS系、22年)では堤真一と石田ゆり子の娘を好演。

映画『万引き家族』(18年)など是枝裕和監督作品の常連でもあります。

今回がドラマ初主演ですが、ほたるが抱える自身へのモヤモヤも、美晴への複雑な心境も繊細な演技で見せています。

「なりすましドラマ」の効能

「なりすましドラマ」のヒロインたちが、戸惑いながら得るのは「複眼の視点」です。

素の自分と別人格になった自分。そのギャップや落差の中に、これまでとは違う「自分の居場所」を見つけるヒントがあるのです。

年齢に関係なく、誰もが人生を「再構築」できることを示してくれるのもまた、「なりすましドラマ」の効能かもしれません。

新作『ミワさんなりすます』は、「なりすましドラマ」の本命!?

さらに、この秋、同じ夜ドラ枠で『ミワさんなりすます』が放送されます。

原作は青木U平さんの同名漫画で、主人公は映画サブカル好きの29歳フリーター、久保田ミワです。

国際的俳優・八海崇(やつみ たかし)の熱烈なファンであるミワは、ふとしたきっかけでスーパー家政婦・美羽(みわ)さくらになりすまし、八海邸で働くことになります。

身元がバレることへの恐怖。八海の近くにいられる喜び。両者の間で揺れるミワの日常が、なかなかスリリングです。

ドラマでミワを演じるのは、松本穂香さん。八海役は堤真一さん。いいキャスティングです。

原作を踏まえながらも、ドラマならではの世界観が現出するのではないか。

「なりすましドラマ」の本命として、今から楽しみです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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