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木造ビルを建てて喜ぶのは誰だろう

田中淳夫森林ジャーナリスト
大坂木材会館ビル。実はコンクリートビルの外装に木材パネルを張り付けたもの。

東京・銀座に木造5階建てビルが建ったというニュースが流れた。

三井ホームの施工で、工法はツーバイフォー材を使ったものだ。木造の5階建てビルは国内で2棟目だという。国土交通省所管の木造建築技術先導事業にも採択されたとか。

木造ビルは、各所で期待が高まっている。これまで構造は鉄筋コンクリートでつくるのが当たり前だったビルディングに、新たな素材を持ち込まれたことで、建設の可能性を広がるかもしれないからだ。

また木材という形で街中に炭素を固定できることから、二酸化炭素削減につながり地球温暖化防止にも貢献できる。

今回はツーバイフォー工法だったが、今注目されているのはCLT(クロス・ラミネイテッド・ティンバー。和名は直交集成板)だ。張り合わせる板(ラミナ)の繊維方向を90度ずつずらせることで、縦横に強いマテリアルに仕上げる。コンクリートに負けない強度を得られるため、欧米ではCLTを使って10階程度の木造ビルが次々と建てられている。日本でも研究中で、近く解禁される見込みだ。

そこで、これらの木造ビルが建てば誰が喜ぶのか、冷静に考えてみたい。

まず建設業者は期待を持っているかもしれない。コンクリートよりも軽くて輸送が便利。木造ゆえにコンクリートの養生期間が必要なく工期が短くなる。またコストも安くなることが見込まれている。太い柱がなくなる(ツーバイフォーやCLTは壁で建物を支える)ために内部の間取りにも余裕ができる。設計の自由度が広がるだろう。

またツーバイフォー材やCLTを生産する木材加工業者、あるいは輸入業者も、新たな需要開拓になるのだから喜ぶだろう。

木材の使い道は、これまで住宅資材が大半だったが、今後は先細りだし、1軒当たりの使用量もそんなに多くない。ビルディングに使われるとなると、これまでの数倍の需要が生み出されるからだ。

では、林業関係者は。「これで木材需要が伸びる」と期待しているのだろうか。

まず考えるべきは、建材価格だ。ツーバイフォー材は、ホームセンターでも並んでいるのを見たらわかるが、非常に安い。これらは輸入材だが、国産材で作ったからと言って高くすることはできないだろう。

CLTは日本ではまだつくられていないが、作り方や材料の性質を考えれば、合板と似たりよったりの材料で間に合う。木目は気(木)にしないでよいし、傷や曲がりが少々あっても構わない。つまり価格も合板用のB材と変わらないだろう。

CLTのフォーラムのために来日したイタリアの関係者は、CLTの立米単価は約2万円だと言ったそうだ。為替などの変動もあるが、極めて安い。これから材料価格を想定すると、だいたい10分の1くらいではないか。つまり1立米2000円。高くても3000円までだろう。

となると、国産材製のCLTも似たような価格になるのではないか。外国製CLTと競合するからである。常にCLTも国際価格に連動するだろう。となると、国産材も高く買い取ることは無理である。

もし、本当に立米2000円の材が求められるとしたら、もはや合板どころかチップ価格である。とても山主は木を出せない。これを機に国産材価格の暴落を誘う可能性も否定できない。

そして、もう一つ考えておくべきことがある。この手の工法による建築に、大工はいらないことだ。もとからパネルにしたツーバイフォーなりCLTを組み立てるだけである。そこで必要なのはクレーンだ。工場で生産した部材を吊り上げて、つないでいくだけだから、大工の出番はなくなるのだ。

最後に消費者(木造ビルの使用者)はどうだろう。工期が短くてよいなら、建設費用は安く済むかもしれない。それは歓迎だ。

ただ、ツーバイフォー材もしくはCLTは構造材だから、その上から外装や内装をする必要がある。その素材が、石膏ボードとかクロス、あるいは新建材などだったら木肌を感じることはない。木材使用感もあるまい。つまり、そのビルディングが木造か否かなんて、どうでもよいことになる。(逆に言えば、コンクリートであろうと鉄骨であろうと、内装・外装材が木質だったら、木製に見えるわけだ。)

さて、誰が木造ビルを喜ぶのだろう。そして、どんな木造ビルが喜ばれるのだろう。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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