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映画『ミッション:インポッシブル』がノルウェーで話題となる理由

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
(写真:ロイター/アフロ)

北欧ノルウェーの人々は、映画『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』の公開を、「非常に」心待ちにしていた。

ほかの国の人にとっては、どうでもいいかもしれない。しかし、ノルウェーの人々にとっては、重要な理由で。

映画のラストシーンでは、トム・クルーズ演じるイーサン・ハントが、巨大な岩の上で格闘するシーンがある。

下記予告の00:14秒あたりの断崖絶壁シーン

実はこの岩山、ノルウェーでは有名な絶景スポット、「プレーケストーレン」(Preikestolen)で撮影されたものだ。

「こんな小さな国、ノルウェーに、大スターが来る!」と、ノルウェーでは撮影前から話題となっていた。

昨年11月、トム・クルーズがとうとうやってきた時には、ノルウェーはもう大騒ぎ。

地元のメディアは、撮影中の様子をリポートしようと、必死に追いかけていた。

一例:ノルウェー国営放送局NRK 「プレーケストーレンに、トム・クルーズが」と報道

自然に恵まれたノルウェーには、知られざる「絶景スポット」が数多く眠っている。SNSでの写真拡散で、一躍有名になったひとつが、プレーケストーレンだ。

観光シーズン4~10月になると、高さ604メートルのスポットで記念撮影をしようと、往復4~5時間をかけて登山をする人が続出する。

映画上映で、「ノルウェーはさらに有名になるだろう!」、「観光客が押し寄せるだろう!」と、現地の映画や観光業界は喜びを隠せずにいた。

ショック!ノルウェーが誇る絶景は、インドにある

7月、ノルウェーの人々をがっかりさせるニュースが飛び込んできた。

プレーケストーレンは、映画には登場する

しかし、絶景の岩は、映画のストーリー上では、「ノルウェー」ではなく、「インド」にあるという設定で。

日本で撮影された富士山などが、別の国での背景として米国の映画に登場したら、どう思うだろうか。

「プレーケストーレンが、インドに移された!」と地元メディアは大騒ぎした。

他国の観客にとっては、どっちの国でもいいかもしれない。

しかし、ノルウェーにとっては、一大事だ。そして、ちょっとだけ苦い経験となった。

なぜなら、ミッション:インポッシブルがノルウェーで撮影されるために、ノルウェー映画機関は補助金632万5000ノルウェークローネ(およそ8576万円)を提供していた(つまり政府からのお金・国民の税金)。

ノルウェーとプレーケストーレンのPRのために使われた補助金なのに、絶景シーンの舞台はインド!

北欧の中でも物価が高いノルウェーは、映画の撮影ロケ地としては、人気がない。

そのため、(オイルマネーや高い税金で、金銭的に余裕がある)国が財布を開けて、「お金をだすから、ノルウェーで撮影して、ノルウェーをPRして」という方策をとっている(日本の映画製作会社も、応募してみては?)。

国のお金を使っているのだ。国のPRにならなければ、国内で怒りを買いかねない。

観光局Visit Norwayは、プレーケストーレンでのプレミア公開日には、外国メディアに報道してもらうために、5万ノルウェークローネ(税金、およそ67万円)を使い、ジャーナリストたちの航空チケット料金を負担した。

プレミア公開のために、わざわざ特設会場プレーケストーレンにまでやってきたノルウェー人に、ツイッターで感謝するトム・クルーズ。宣伝効果・大。

こんなにずっと大騒ぎしていたのだから、がっかりしたくないのが本音。

観光局などは、「映画上では舞台がインドだとしても、国際社会でノルウェーの絶景プレーケストーレンが知られることとなった」、という姿勢を崩していない。

「映画では重要なシーンとして登場している!」。元気をだそうとしているのか、微笑ましい報道が続いている。

「プレーケストーレンがインドにあるのは残念だが、他国の観客にとってはどうでもいいことだろう。映画自体は素晴らしかった!」と、現地の批評家らからは高評価を得た。

「結局、プレーケストーレンはノルウェーにあるの?インドにあるの?」。未だに当惑するノルウェー人

3日、首都オスロでの公開初日、早速、ずーっと話題になっていた映画を見に行ってきた。

確かに、プレーケストーレンはインドにあった。

「プレーケストーレン」という名前自体も、作品には出てこない。映画をきっかけに、他国から訪問者が増えるのか、国際市場でのノルウェーのイメージがアップするのかは疑問だ。

映画を見終えて帰る途中、通りでたまたまノルウェーでの友人に出会う。「映画、見てきたの!? お願い、これだけを教えて。プレーケストーレンは、インドにあるの、ノルウェーにあるの1?」と、興奮して聞かれた。

「インドにあったよ」と答えると、「ニュースは本当だったのか」と、がっかりしたようだった。

「ちょうど数日前に、両親と登ってきたばっかりだったのにな。最高の景色だったよ」と呟いていた。

別に筆者はお金をもらってPRを頼まれているわけではないのだが、あそこまでずっと喜んでいたノルウェーの人々の、がっかり感がちょっとかわいそうなので、改めて書いておこう。

あの危なさそうな岩の絶景は、ノルウェーにある自然観光スポット「プレーケストーレン」。撮影現場で記念撮影したい方は、Visit Norway観光局からの「準備リスト」などを参考に。

プレーケストーレンは、「リーセフィヨルド」というフィヨルド地帯にあるため、フィヨルド観光客へのアピールも盛んに行われている。

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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