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ドキュメント民営化・大阪市交通局から大阪メトロへと移り変わった24時間

伊原薫鉄道ライター
民営化された大阪の地下鉄、その一番列車出発の瞬間

 2018年4月1日、大阪市交通局は民営化され、大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)が地下鉄事業を、その子会社となる大阪シティバスがバス事業を引き継いだ。1903(明治36)年9月の路面電車開業から114年にわたり、大阪の人々の生活に欠かせない存在だったが、今後は民間会社として更に収益性を高め、人口減少時代でも安定して鉄道事業が継続できるような企業となることが求められる。

 ところで、3月31日から4月1日にかけて、民営化に関連したさまざまなセレモニーや作業が行われた。ここでは、その内容を振り返ってみたい。

◯3月31日 14時00分 北大阪急行緑地公園駅

御堂筋線の車両に貼り付けられた「さようなら 大阪市交通局」のステッカー。同様のものが前面にも掲出された
御堂筋線の車両に貼り付けられた「さようなら 大阪市交通局」のステッカー。同様のものが前面にも掲出された

 大阪市交通局の終焉を記念して、御堂筋線10系のうち3編成に「さようなら 大阪市交通局」と書かれたヘッドマークを設置。沿線では、数日間だけのシーンを撮影する鉄道ファンの姿が見られた。ただ、わずか3編成のため列車が来るかどうかは運次第。乗り入れ先である北大阪急行の駅で、2時間近く待ってようやく撮影できたという男性は「最後の最後で撮影できたので満足です」と顔をほころばせていた。

◯3月31日 16時00分 中百舌鳥検車場

車両に新しいロゴマークのシールを張り付ける作業員
車両に新しいロゴマークのシールを張り付ける作業員

 御堂筋線の車両基地である中百舌鳥検車場で、新しいロゴマークを車体に貼り付ける作業が報道陣に公開された。「マルコマーク」と呼ばれる大阪市営地下鉄のマークが剥がされた場所に、「Moving M」と名付けられた新ロゴマークのシールを貼る。1両あたり片側2ヶ所、10両編成で合計40ヶ所に設置。作業員も「こうやって作業していると、いよいよ民営化するんだなあと実感します」としみじみ。

◯4月1日 0時45分 御堂筋線なかもず駅

最終列車に乗務した運転士と車掌に、交通局長から花束が手渡された
最終列車に乗務した運転士と車掌に、交通局長から花束が手渡された
最終列車にはヘッドマーク付きの編成が充当された。大勢の利用者に見守られ、車庫へと引き上げる
最終列車にはヘッドマーク付きの編成が充当された。大勢の利用者に見守られ、車庫へと引き上げる

 大阪市営地下鉄として最後の列車が、なかもず駅に到着。鉄道ファンや地元の利用者が見守るなか、大阪市交通局の塩谷智弘局長(翌日より大阪メトロ副社長)から運転士と車掌に花束が手渡された。約10分後、車庫へ向かう回送列車として発車すると、大きな拍手が。見送った堺市在住の女性は「駅ナカのお店が増えたり、便利になることを願っています」と話した。

◯4月1日 2時00分 御堂筋線梅田駅

駅出入り口の看板が新しいものに取り替えられる
駅出入り口の看板が新しいものに取り替えられる
シールをはがすと、下から新しいロゴマークが姿を現した
シールをはがすと、下から新しいロゴマークが姿を現した

 利用者のいない駅で、移管に向けた作業が行われていた。駅入り口では作業員が屋根に上り、看板の取替作業の真っ最中。手慣れた様子でこれまでの看板をはずし、新ロゴマークのものを取り付けた。駅構内の案内表示はあらかじめ新しいものに取り替えられており、その上に貼られていた旧ロゴを剥がしてゆく。一晩かけて作業は終了し、大阪市営地下鉄の駅から大阪メトロの駅へと生まれ変わった。

◯4月1日 4時40分 御堂筋線なかもず駅

一番列車の出発を前にテープカットを実施。いよいよ「大阪メトロ」のスタートだ
一番列車の出発を前にテープカットを実施。いよいよ「大阪メトロ」のスタートだ

 始発列車の出発を前に、開業記念の出発式が行われた。大阪メトロの社長に就任した河井英明氏は「引き続き安全・安心を第一に、社員が一丸となって取り組んでいきたい」と挨拶。塩谷副社長や駅長らと共にテープカットを行った後、定刻の5時07分に一番列車が出発した。

◯4月1日 9時00分 大阪駅前バスターミナル

市営バス事業を引き継ぐ、大阪シティバスでもセレモニーを実施。「にゃんばろう」から鍵のレプリカが渡された
市営バス事業を引き継ぐ、大阪シティバスでもセレモニーを実施。「にゃんばろう」から鍵のレプリカが渡された
セレモニーの途中、ゼブラバスが並ぶシーンも見られた
セレモニーの途中、ゼブラバスが並ぶシーンも見られた

 この日、地下鉄事業と共にバス事業も民営化され、大阪メトロの子会社である大阪シティバスへと引き継がれた。その記念式典が大阪駅前バスターミナルで開催され、大阪メトロへ“移籍”を果たしたマスコットキャラクターの「にゃんばろう」から、大阪シティバスの有馬宏尚会長と木田俊郎社長に鍵の引き渡しが行われた。セレモニーの途中では、各営業所に1台、全部で7台だけというゼブラ塗装のバスが次々に現れるというサプライズも。

◯4月1日 10時00分 御堂筋線梅田駅

「Moving M」と名付けられたロゴマークの立体モニュメントが披露された
「Moving M」と名付けられたロゴマークの立体モニュメントが披露された
「Moving M」の立体モニュメント。前から見ると「M」、横から見ると「O」に見える
「Moving M」の立体モニュメント。前から見ると「M」、横から見ると「O」に見える

 千里中央方面行きホーム上で、大阪メトロのロゴマークを立体的に表したモニュメントのお披露目を実施。かけ声に合わせて河井社長や吉村洋文大阪市長がロープを引くと、「Moving M」と名付けられたロゴが姿を現した。ロゴは1本の線がらせん状になっており、正面から見るとMetroの「M」、横から見るとOsakaの「O」に見える。このモニュメントはこの日限定で梅田駅に展示され、通りがかった利用者が写真を撮影していた。さらに、天井のシャンデリア照明も同日限定で大阪メトロのコーポレートカラーである青色に。毎日通勤などで利用しているという男性は「減るもんやあらへんし、しばらくこのままにしといてくれたええのに(笑)」

◯4月1日 12時00分 大阪新阪急ホテル

開業記念セレモニーで挨拶する河井社長
開業記念セレモニーで挨拶する河井社長

 開業記念セレモニーがホテルで開催された。JR西日本をはじめ関西の大手鉄道会社の社長など、約170人の来賓が集まるなか、河井社長は「公営地下鉄が株式会社となったのは全国初。毎日250万人に利用され、大阪の中心部を走るこの環境を活かして、駅ナカ事業や関連事業の展開で着実に成長するとともに、社会ニーズに応えていきたい」と抱負を語った。また、吉村大阪市長は「関西ナンバーワンの鉄道会社を目指して、またこれまで以上に大阪の成長を支えてほしい。さまざまな挑戦の中で、小さな失敗はつきもの。果敢にチャレンジすることを願う」と期待を寄せた。

◯4月1日 13時30分 南港ポートタウン線コスモスクエア駅

ゴールド塗装のニュートラム車両もこの日デビュー。出発セレモニーが行われた
ゴールド塗装のニュートラム車両もこの日デビュー。出発セレモニーが行われた
ゴールド塗装のニュートラム車両は、座席に稲穂のイラストが
ゴールド塗装のニュートラム車両は、座席に稲穂のイラストが

 この日に合わせて、南港ポートタウン線(ニュートラム)では新型車両・200系のゴールド塗装がデビュー。その出発イベントがコスモスクエア駅で行われた。関係者によるテープカットの後、一般応募で当選した22組50名の親子連れが乗車した記念列車が出発。車内ではクイズ大会があり、成績上位者に記念品が贈られた。記念列車は最後に南港検車場へ入り、車庫内で車両をバックに記念撮影。「普段は入れない場所なのでとても興奮した」と、近くに住む小学生は笑顔で話した。ちなみにこのゴールド塗装、「実るほど頭を垂れる」稲穂をイメージしており、座席の表地には稲穂のイラストが入っている。

 ついに民営化された大阪の市営交通。現在は大幅な黒字を確保している地下鉄事業だが、その利用者は20年後に2割近く減少するという予測もあり、決して将来は安泰ではない。今回の民営化は、公営では難しい関連事業への参入などを可能にすることで、人口減少時代でも安定して運営できることを目指している。これまでJR各社がしてきたように、ゆくゆくは東京に大阪メトロのホテルが展開されるかもしれない。

 これからも大阪の街を変わらず走る、大阪の地下鉄とバス。その将来に期待したい。

 …なお、さまざまな表記変更は4月以降に順次行われることになっており、車両の「マルコマーク」もしばらくは見られるとのこと。記録するならお早めにどうぞ。

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鉄道ライター

大阪府生まれ。京都大学大学院都市交通政策技術者。鉄道雑誌やwebメディアでの執筆を中心に、テレビやトークショーの出演・監修、グッズ制作やイベント企画、都市交通政策のアドバイザーなど幅広く活躍する。乗り鉄・撮り鉄・収集鉄・呑み鉄。好きなものは103系、キハ30、北千住駅の発車メロディ。トランペット吹き。著書に「関西人はなぜ阪急を別格だと思うのか」「街まで変える 鉄道のデザイン」「そうだったのか!Osaka Metro」「国鉄・私鉄・JR 廃止駅の不思議と謎」(共著)など。

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