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藤井聡太挑戦者(19)わずかにペースをにぎったか? 予想本命の封じ手から竜王戦第4局2日目始まる

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月13日9時。山口県宇部市・ANAクラウンプラザホテル宇部において第34期竜王戦七番勝負第4局▲豊島将之竜王(31歳)-△藤井聡太挑戦者(19歳)戦、2日目の対局が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 両対局者は記録係の棋譜読み上げに従って1日目の指し手を進めます。73手目、豊島竜王が△4五銀と出た局面で藤井挑戦者が74手目を封じました。

 立会人の福崎文吾九段が2通の封筒にはさみを入れ、用紙に記されている手を読み上げます。

福崎「封じ手は△4五同銀ですね」

 その声を聞いて藤井挑戦者は盤上に手を伸ばし、相手の銀を取りました。多くの観戦者も予想していた、本命と思われる一手です。

 9時30分現在は77手目、豊島竜王が歩を打って王手をしたところまで進んでいます。コンピュータ将棋ソフトによる形勢評価では、現状はやや藤井挑戦者よしと示されています。受ける藤井三冠の側に楽しみが多く、少なくとも後手番で一方的に負かされるという展開ではないようです。

1日目は手数が多く進む

 あと1勝で竜王位獲得の藤井挑戦者。第4局を前にして、次のように語っていました。

藤井「ここ最近はかなり対局が続いていますし、いまスコアを意識するというよりは本当に、一局一局でよいパフォーマンスを出せるようにということを意識してやれればというふうに思ってます。竜王戦、ここまで3局指して結果は幸いしていますけど、内容的には前よりも課題も見つかったので、そういった課題を修正しつつ、第4局、いい内容にしていければというふうに思っています」

 一方、カド番の豊島竜王は次のように語っていました。

豊島「メンタルは特に問題なくこれまでもやれているので、それより別のところに問題があるような気がするんですけど(苦笑)。ちょっと2局目の将棋がやっぱり、序中盤のところで失敗してしまって、それと同じ先手番なので、そういうところを修正していけたらというふうに思っています。先手番なので積極的に指していって、2局目の反省点も活かしながら、指していけたらというふうに思います。勝てれば流れが変わることもあると思いますし、やっぱり一局でも多く指せればというふうに思っています」

 第2局は豊島竜王先手で戦型は相掛かり。結果は70手で藤井挑戦者勝ちとなりました。

 第4局は豊島竜王先手で角換わり腰掛銀。事前の言葉通り積極的に仕掛けて早くも戦いが始まりました。1日目は74手目が封じ手。70手で終わった第2局の手数をすでに超えていることになります。

両者ともに伝統の和服姿

 本局はホテルのスイートルーム(洋室)に畳を敷いての対局ですが、両者ともに変わらず、いつもの通りの和服姿です。藤井挑戦者はタイトル戦の経験を重ねるとともに、和服も自分で着られるようになりました。

 1989年、東京・芝の東京グランドホテルでおこなわれた第2期竜王戦七番勝負最終第8局は島朗竜王、羽生善治六段(肩書はともに当時)は両者スーツ姿でした。

 26歳の島竜王は信念の選択。過去には加藤一二三九段、現在は永瀬拓矢王座がタイトル戦をスーツで戦っています。

 19歳の羽生六段にとっては初めてのタイトル戦。服装については次のように振り返っています。

 この七番勝負が始まる前に初戦は洋服、それ以降は和服と決めていた。というのは、初戦は緊張するし、公開対局もあるから、普段、着慣れている洋服の方が良いと判断したからだ。

 2局目からは雰囲気にも慣れるし、こんな時でないと和服を着る機会はないので、和服で行くことにした。

 ただ、自分では着られないし、トイレに行くにしてもかなり不自由なので、慣れるまでは大変という気がした。

 それに、タイトル戦と言えば和服というように、一種の伝統になっている意味もある。

 もしかすると滅びゆく伝統なのかもしれないが、一回位、着てみるのも悪くはないと思ったからである。

 第8局は洋服にしたが、これはシティホテルに和服は似合わないかな、と思ったからだ。

出典:『竜王、羽生善治。』自戦記

 羽生現九段はタイトル戦初陣の竜王戦以降、ほぼずっと和服でタイトル戦を戦っています。豊島竜王や藤井挑戦者はその伝統の継承者と言えます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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