「米太平洋司令部が麻痺!?」 ペンタゴンを震撼させた北朝鮮のサイバー戦能力
金正恩委員長の暗殺を題材にした映画「ザ・インタビュー」を製作した米ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント(SPE)に北朝鮮が2014年12月にハッカー攻撃を仕掛けた事件はまだ記憶に新しい。このサイバー攻撃によって盗み出されたSPEの個人情報は著名人を含む約47,000人分に上った。
この事件で北朝鮮のサイバー攻撃能力に俄然注目が集まったが、米国防省が最近、北朝鮮のサイバー戦能力をテストする模擬実験を行った結果、ハワイにある米太平洋軍司令部指揮統制所を無力化できる水準に達していたことがわかり、国防総省関係者を震撼させている。
この模擬実験の結果については米防衛事業庁傘下の国防技術品質院が昨日(26日)発刊した「国防科学技術調査書」に詳細に記述されているが、米太平洋司令部指揮統制所を麻痺させるだけでなく、「米本土の電力網に被害を与えるだけの能力を有する」と結論付けられている。
北朝鮮によるサイバー攻撃が取り沙汰されたのは今から12年前の2004年4月に韓国の海洋警察庁、議会、原子力研究院など政府機関の235のサーバーを含むパーソナルコンピューターがハッキングされたことから始まる。
米国が攻撃の標的となったのは2009年7月からで、独立記念日の4日から始まった米国へのハッカー攻撃はホワイトハウスなど8機関にのぼり、その被害はワシントン・ポストなど大手新聞社や銀行など民間企業にも広がった。韓国でも7月7日から大統領府や国防省、保守系メディアや銀行が攻撃され、延べ35機関でホームページに接続できなくなった。
北朝鮮は2013年3月にも米放送社と金融機関の電子網を攻撃したサイバーテロを仕掛けたが、それによりPC48,248台が破壊され、10日間業務が麻痺し、約900億円の損害を出した。韓国でもKBSとMBCなど韓国の放送局やYTNの社内電子システムが一斉に使用できなくなってしまった。
同調査書によると、米サイバー専門家らは2009年7月7日のDDos攻撃では北朝鮮のサイバー攻撃能力を過小評価していたが、2013年3月20日の攻撃を起点に北朝鮮のサイバー攻撃能力は増し、相当のレベルにあると評価していた。
国防技術品質院は「北朝鮮は決定的な時期を前後して全面的なサイバー攻撃を通じて我々のサイバー高能力を無力化するか、破壊しようとするだろう」と警鐘を鳴らしたうえで「北朝鮮のサイバー戦力を圧倒できる逆比対称性サイバー戦力の構築が急がれる」と強調している。
北朝鮮のサイバー能力について2012年10月にワシントンでの軍事関連セミナーに出席したジェームス・シャーマン元駐韓米軍司令官は「北朝鮮が保有している非在来式の兵器の中で注目すべきはサイバー特殊部隊である」と証言し、2013年3月に開かれた米下院軍事委員会では「北朝鮮は韓国軍の情報、産業施設などを同時多発的に攻撃できるハッカー部隊を集中的に育成している」と述べ、その能力は「米CIAに匹敵する水準にある」と証言していた。
北朝鮮のサイバー部隊は人民軍偵察総局の6局に属し、通称「121局」あるいは「121部隊」とも呼ばれている。2012年8月に「戦略サイバー司令部」が創設され、人員も3千人から6千人に増強された。サイバー攻撃のためのプログラムの開発はハッカー部隊「110号研究所」が担っている。
金正恩委員長は昨年(2015年)7月27日の戦争勝利(停戦)記念日での演説で「もはや米国は我々にとっては脅威でも恐怖の対象でもない。むしろ我々のほうが米国への大きな脅威、恐怖になっているのが今日の現実である」と述べ、さらに3か月後の労働党創建70周年記念式典(10月10日)でも「我々の革命武装力は米帝が望むいかなる形態の戦争にも全て相手にできる」と豪語していたが、核・ミサイル開発だけでなく、サイバー攻撃能力の向上が強気の発言となっているようだ。
マイケル・ロジャーズ米サイバー司令官は今年4月5日、米上院軍事委員会での聴聞会に出席し、「北朝鮮は2014年末のソニー・ピクチャーズのハッキング以来、表立った動きはしてないが、依然として大きな脅威である」と述べたうえで「我々がサイバー空間で鋭意注視している国がロシア、中国、イラン、そして北朝鮮である」と証言していた。