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チアリーダーは専業で生計を立てられるのか? 取材で見えた現実と新時代のはたらく価値観

佐藤裕はたらクリエイティブディレクター
プロスポーツを支えるチアリーダー(写真提供|越谷アルファ―ズ)

全国的に新型コロナウイルスのまん延防止等重点措置も解除され、いよいよプロスポーツが盛り上がる春が到来した。そんなプロスポーツを盛り上げるのは勿論、私設応援団やサポーター、ブースターといったいわゆるファンの人達になる。カープ女子ハマっ娘のような呼称が流行ったプロ野球ファン、Jリーグの熱狂的なサポーターはメディアでも目にすることが多い。一方で、まだまだメディア露出は少ないものの、スポーツを盛り上げるだけでなく、勝敗を後押しするほどの温度感でクラブや選手と一体化している応援団がいる。そこで今回はパフォーマンスの美しさや、ダイナミックさが評価されて人気が上昇しているB.LEAGUE(プロバスケットボールリーグ)のクラブ専属チアリーダーに注目してみた。

そもそもチアリーダーとは

一般的には自チームの選手の士気だけではなく、現場に応援に来ているファンやサポーターの士気を高めること、さらには選手やファン、サポーターが一丸となって会場を作り上げることをけん引する役割とも言える。また、チアリーダーは試合を盛り上げ、華やかにするだけではなく、チームの広告塔として、さまざまな方法で多くの人にチームをアピールすることもあるようだ。

そこで今回は、プロバスケットボールリーグB.LEAGUE(Bリーグ)のB2リーグに加盟している越谷アルファーズの専属チアリーダーAlphaVenusの皆様に話を伺った。

越谷アルファ―ズ専属チアリーダー AlphaVenus|左からMinori(ディレクター)さん、Arisaさん、Yuukaさん(写真提供|越谷アルファ―ズ)
越谷アルファ―ズ専属チアリーダー AlphaVenus|左からMinori(ディレクター)さん、Arisaさん、Yuukaさん(写真提供|越谷アルファ―ズ)

チアリーダーは見えないコトが多い

――チアリーダーの活動は本業なのか。

「現在のAlphaVenusのメンバーは、学生・フリーター、一般職との掛け持ち、越谷アルファ―ズ社員(ディレクター)所属と、それぞれスタイルが違います。普段はダンスのインストラクターで生計を立てていたり、医療事務のお仕事をしているメンバーもいます。バックグラウンドも様々で、学生時代からチアリーダーの経験がある人、他のプロスポーツでチアリーダーをしてきた人、ダンス経験はあってもチアダンスは初めての人などそれぞれです。

バスケットボールの知識が最初からある人、ルールすら理解していない人、元々はプロ野球のファンでプロ野球のチアリーダーを目指していた人など、キャリアや思考は個性的な集団です」

「他のクラブは分かりませんが、我々AlphaVenusでは、試合やイベントでのパフォーマンスについては交通費とプロとしての対価(給与)が支払われます。ただ、平日の練習については給与は出ないですし、チアリーダーを軸に生計を立てるのは難しいのが現状です」

チアリーダーは様々なバックグラウンドを持って活動しているのが実態(写真提供|越谷アルファ―ズ)
チアリーダーは様々なバックグラウンドを持って活動しているのが実態(写真提供|越谷アルファ―ズ)

自分で決めた目標をクリアすることで自分に自信をつける

――いつ活動しているのか。

「ホームゲームがある日は平日、週末とバラつきがありますが、越谷でのゲームにはチアリーダーは基本参加します。練習はほぼ週1回(水曜日)で、さらに活動の一環としてキッズクラスAlphaAngel(アルファエンジェル)で子供達の先生を務めるメンバーもいます。」

「自分達でも環境としては裕福ではなく、むしろ厳しいと自覚をしていますがそれでも個々にある強い想いがモチベーションとなり、活動を継続してクラブ全体を自分達が盛り上げてくれています」

(Minoriさん)

「自分自身で目標を決めて、それをクリアすることで自分に自信を付けて生きて来たので、今の環境でも自分がディレクターとしてクラブのB1昇格を経験したいと考えています。B1のステージでパフォーマンスすることを今は夢見てます」

Arisaさん)

「元々ダンスの先生からチアリーダーのオーディションというきっかけをもらったので、最初はバスケットボールのルールの理解から入るレベルでしたが、今ではルールや仕組みを理解してバスケットボールの魅力・楽しさを感じながらチアリーダーとしてのパフォーマンスができているので、同じくB1昇格をしてそこで踊ることが一番の目標になっています」

(Yuukaさん)

「まだ1年目なので、仕事との両立など正直辛いという感情の方が大きいのですが、ファンの方から声をもっともらうことや、チアリーダーがきっかけでバスケットボールに興味のなかった方が試合に来てブースターになって頂けるような活動ができれば嬉しいです」

越谷アルファ―ズのB1昇格を夢見て活動するAlphaVenus(写真提供|越谷アルファ―ズ)
越谷アルファ―ズのB1昇格を夢見て活動するAlphaVenus(写真提供|越谷アルファ―ズ)

コロナ禍だから新しい出会いがあった

――コロナ禍でチアリーダーの活動に影響はあったのか。

「本来チアリーダーの活動はが重要な要素でもありました。我々で言えば、パフォーマンスの最後にLet’s Go Alphas!とブースターの方も巻き込んで大きな声を出していました。ゲーム前にはチアリーダー自らマイクをもって観客へ一緒に声を出すタイミングやパフォーマンスを観客に指導していましたが、コロナ禍ではそれがNGとなり本当に戸惑いました」

「どうすれば会場を盛り上げ一体化して選手の後押しが出来るかを考えた時に、応援グッズを身に付けてもらい、クラブカラーでもあるバーガンディ一色にする工夫やメガホン(ネギばんばんというオリジナルメガホンを開発)を活用して声を出さないでチアリーダーとしての役割を果たす工夫をたくさんしました」

コロナ禍で開発されたオリジナル応援メガホン「ネギばんばん」(写真提供|越谷アルファ―ズ)
コロナ禍で開発されたオリジナル応援メガホン「ネギばんばん」(写真提供|越谷アルファ―ズ)

「また、スポーツはまん防でも稼働がありましたが、テーマパークなどは未稼働、つまりダンスやパフォーマンスの機会がなくなっていたので、本来スポーツの世界には来なかったであろう人材と出会えるという意味では、新しい出会いはあったように思います。ちょっと切り口を変えてコロナ禍を振り返ってみると、厳しい環境の中で思考して工夫できたことで、新しい挑戦ができた。さらには、変化する動きを捉えたことで、チャンスを掴んだようにも感じています」

コロナ禍のダンスブームは子供達がチアリーダーを目指すきっかけに

――子供達にもチアリーダーが指導をしているのはなぜ。

「約2年前に越谷の子供達に向けた、ダンスやチアリーダーを経験できる環境提供の場としてキッズチアダンスアカデミー AlphaAngelを立ち上げました。ただ、パフォーマンスの指導をするのではなく、チアスピリット(元気な挨拶、人を思いやる気持ち、礼儀など)を丁寧に学びながら、人として正しい価値観や人間性を養って欲しいという想いがあります。その上で、ダンススキルの向上を目指して、いずれはAlphaAngelのメンバーが誕生することを願っています」

AlphaVenus×キッズチアダンスアカデミー AlphaAngel合同パフォーマンス(写真提供|越谷アルファ―ズ)
AlphaVenus×キッズチアダンスアカデミー AlphaAngel合同パフォーマンス(写真提供|越谷アルファ―ズ)

「学校の中でダンスが必修化されたり、コロナ禍で起きたダンスブームもあって実はリトルクラス、キッズクラス、ジュニアクラスに加えて、4月開校でアドバンスクラスを設け高校生を対象に、よりチアリーダーとして模範になる立ち振る舞い、下級生の目標となるパフォーマンス力も身に着け、チアリーダーとしての全てをより深く学んでもらう環境を作りました。それほど、ニーズがあると我々は考えています」

社会人の日常に刺激を与える活動

――これからチアリーダーを目指す人達へのメッセージは。

(Minoriさん)

「自分が目標を達成して自分に自信を付けるために、チアリーダーの活動以外にクラブの活動でもある越谷の街での早朝ごみ拾いやチラシ配りなど何でもやります。でもそれは、B1昇格をして、そこで自分がパフォーマンスをすることを実現するために重要な活動だと思えています。チアリーダーは幅広く活動して、表からは見えない世界が多いので、いろいろな視点で興味を持ってもらえれば嬉しい」

(Arisaさん)

「普段ダンスを中心に活動していると、ステージで踊ってもダンスはお客様が自分の前にいるのが基本です。でもチアリーダーの場合360度お客様がいるのでまた違った緊張感や得られるものがあります。そして、自分の好きなクラブがB1昇格して一緒に成長できるような環境は本当に素晴らしいので、環境という側面でも興味を持って欲しい」

(Yuukaさん)

「1年前自分がアルファ―ズのゲーム観戦をしていた時にチアリーダーの皆さんに憧れを抱きました。それが今一緒に活動できているという喜びは、一般の社会人では得られないように感じます。まだまだ辛いことも多いですが、自分を成長させることでファンを集めようという気持ちになれる活動はチアリーダー以外にないように思います。社会人としての日常にそんな刺激が欲しい方はぜひ興味を持って欲しい」

新時代のはたらく価値観を考えるきっかけに

チアリーダーの世界はまだ環境として充実しているとは言えないかもしれない。それでも働きながら自分の未来志向を軸に厳しい環境で活動するということに、大きな意義がありそうだ。

コロナ禍の在宅ワーク中心の生活の中で日々のやりがいを見失って、心が疲れる若者が多い中、今回取材したチアリーダー達の価値観は大きなヒントになる。実際に、彼女たちの周囲にはエリートビジネスマンの同期がいたり、プライベートが充実している友人も多いそうだが、それでも、自分の成長や自信のため、そして日々の生活に刺激を与えるという意味でもチアリーダーの活動は大きな後押しになっているということだ。

目の前の仕事や環境だけで悩むのではなく、視野を広げ、未来志向を展開してみることで今の活動が変わるかもしれない。

そして、ぜひチアリーダーのパフォーマンスを一度体感して頂きたい。そこで得る刺激で思考が変化したり、新しい発想が生まれるかもしれない。

はたらくを楽しもう。

はたらクリエイティブディレクター

はたらクリエイティブディレクター パーソルホールディングス|グループ新卒採用統括責任者、キャリア教育支援プロジェクトCAMP|キャプテン、ベネッセi-キャリア|特任研究員、パーソル総合研究所|客員研究員、関西学院大学|フェロー、名城大学|「Bridge」スーパーバイザー、SVOLTA|代表取締役社長、国際教育プログラムCAMPUS Asia Program|外部評価委員などを歴任。現在は成城大学|外部評価委員、iU情報経営イノベーション専門職大学|客員教授、デジタルハリウッド大学|客員教員などを務める。 ※2019年にはハーバード大学にて特別講義を実施。新刊「新しい就活」(河出書房新社)

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