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都会を代表する秋の虫の地位を不動のものにした外来のアオマツムシ

天野和利時事通信社・昆虫記者
都会を代表する秋の虫になった外来のアオマツムシ

 秋の夜。街中の公園を散歩していて、リーリーリーと甲高い、大音量の虫の音に包まれたことはないだろうか。スズムシでもコオロギでもない、聞いたことのない虫の音。「いったい何者なのか」と、疑問を抱いたことはないだろうか。その虫の正体は、横暴な外来昆虫第3弾のアオマツムシだ。

 大音量で知られる秋の虫の代表は、かつてはクツワムシだったが、都市近郊ではあのガチャガチャという鳴き声を耳にすることが、ほとんどなくなった。代わりに登場してきたのがアオマツムシだ。クツワムシは体が大きいので、あの大音量も納得なのだが、アオマツムシはさして大きな虫でもない(スズムシよりやや大きい程度)のに、ともかくうるさい。

羽を広げて鳴くアオマツムシのオス。その音量はすさまじい。
羽を広げて鳴くアオマツムシのオス。その音量はすさまじい。

 何度か捕まえてきて、飼ったことがあるが、たった1匹でも、こいつと一緒の部屋ではとても眠れない。室内での飼育はやめた方がいい。マンション生活なら、ベランダに出していても、お隣から苦情が来る。公園などでやつらが集団で鳴き出すと、セミの大合唱より騒々しい。

 原産地は中国と言われ、1900年ごろから国内の記録があるので、日本滞在歴は長い。しかし急増し始めたのは1970年ごろからという。昆虫記者が都心でこの騒音を気にし始めたのは2000年ごろだった。田舎に行くとあまり目につかなくなるので、都会派の虫なのだろう。

鳴き声(羽をすり合わせて出す音)は伊達ではなくメスを呼ぶ求愛行為
鳴き声(羽をすり合わせて出す音)は伊達ではなくメスを呼ぶ求愛行為

ほーら、メス(手前)が寄ってきた。すさまじい音量の成果ですね。
ほーら、メス(手前)が寄ってきた。すさまじい音量の成果ですね。

どうやら無事カップル成立のようです。
どうやら無事カップル成立のようです。

 アオマツムシは樹皮下のほか、人工物の隙間にも産卵するらしく、基本的に樹上生活者なので、土の地面が少ない都心の公園や、道路脇の並木でも、何の苦もなく繁殖できる。

 そんなアオマツムシは、コンクリートジャングルの中で暮らす都会人にとって良き相棒なのかもしれない。童謡「虫の声」のような風情はないものの、遠くで鳴くアオマツムシの声は、都会人の心を潤すかもしれない。在来種の本家マツムシは急減していて、店で買うと値段は定番商品のスズムシの何倍もする。これに対し、アオマツムシは無料で、近所で簡単に捕まえられる。

 下の写真が本家のマツムシ(メス)。今ではマツムシと言えば、アオマツムシのことと思っている人も多いらしい。

地味な本家のマツムシ
地味な本家のマツムシ

店で売られている秋の虫の代表はこのスズムシ。
店で売られている秋の虫の代表はこのスズムシ。

 しかし、これだけは、しつこく警告しておく。「安眠を望むなら、アオマツムシを家に連れ帰るべからず」。まあ、アオマツムシを飼おうなどと思うのは、昆虫記者などごく少数派なので心配には及ばないだろう。でも「怖いもの見たさ」ということもあるかもしれない。

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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