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「ほぼトラ」はなくなった。女性蔑視で墓穴を掘れば、トランプはカマラ・ハリスに惨敗する!

山田順作家、ジャーナリスト
”ハリス旋風”が吹き始めた(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

■ビヨンセ『フリーダム』が起こした“ハリス旋風”

 相手がカマラ・ハリス副大統領(59)に代わってから、ドナルド・トランプ前大統領(78)の形勢は悪くなった。各種世論調査では、日を追うごとにハリスのポイントが高まっている。

 政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」の最新の平均支持率によると、トランプはハリスを1.7ポイントしか上回っていない。ジョー・バイデン大統領(81)につけていた3ポイント差は縮まった。

 また、「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)の世論調査では、トランプ対ハリスは49%対47%となり、これは誤差の範囲。WSJはイーブンになったと論評している。また、献金も一気に集まり、1週間で2億ドルを超え、トランプ陣営の献金額を超える勢いになっている。

 まさに“ハリス旋風”が起こったと言えるが、この旋風を巻き起こしたのが、ビヨンセ(42)の『Freedom(フリーダム)』だ。この曲は「BLM」(ブラック・ライブズ・マター運動)の象徴となった曲で、これをCMに使ったことから、ハリス人気は急上昇した。

■「居眠りジョー」にならって「笑うカマラ」

 この状況から、共和党内では危機感が芽生え、トランプに人種差別表現や女性蔑視表現を使ったハリスへの個人攻撃をやめさせようという動きが出てきた。

 というのは、トランプは、ハリスを“crazy”(頭がおかしい)“nuts”(いかれてる)と呼んだうえ、“dumb as a rock”(岩盤バカ)と揶揄。そして、口を大きく開けて笑うことをバカにして、“Laffin' Kamala”(笑うカマラ)というあだ名を付けたからだ。

 これは、バイデンを“Sleepy Joe”(居眠りジョー)と呼んだのと同じやり方だ。

 しかし、このやり方をハリスにすると、黒人はもとよりカラード全般、そして女性の反発を招く。とくに、女性層の支持を得られなければ、当選などおぼつかない。

 ところがトランプは、自分がヒラリー・クリントン前上院議員(76)に勝った前々回の大統領選で、いくら女性蔑視発言をして批判されても負けなかったことから、いまもこれを続けている。

■ヒラリーとカマラ・ハリスでは属性が違う

 思い出されるのは、トランプがヒラリーに言い放った、露骨すぎる女性蔑視の暴言だ。2015年12月の選挙集会で、トランプはヒラリーがオバマ元大統領(62)に敗れた予備選を引き合いに出して、こう言った。

 「彼女(ヒラリー)は勝つと思われていたのに、シュロング(schlong)された」

 シュロングはアシュケナージ系ユダヤ人の言語のイディッシュ語(Yiddish)で「男性器」の意味。トランプはこの言葉を「やられちまった」という意味で使ったのだ。

 このときは、猛烈な反トランプ運動が起こったが、結局は選挙結果に影響しなかった。そのため、トランプ自身は「なにを言ってもかまわない」と思っているのだろう。

 しかし、ヒラリーとハリスは違う。

 ヒラリーは白人のエリート女性であり、女性差別、人種差別の構造があるとしたら、そのピラミッドの頂点に位置していた。また、そのややお高い印象から一部の女性からは嫌われるところがあった。

 これに対して、ハリスはインド系の母親とジャマイカ出身の黒人の父親との間に生まれたカラードであり、エリートとはいえ、ピラミッドの下部に位置している。

 つまり、2人の属性はまったく違うのに、同じ目線で揶揄したりからかったりしたら、たちまち、「人種差別主義者」(racist)「女性差別主義者」(misogynist)と非難され、間違いなく全女性、全非白人を敵に回してしまう。

■ハリスは「DEI採用」された「無能なバカ」

 トランプがこの調子だから、共和党のトランプ親派のティム・バーチェット下院議員(テネシー州選出、59)は、彼女を“DEI vice president”と呼び出した。DEIとは、「D」(Diversity:ダイバーシティ:多様性)、「E」(Equity:エクイティ:平等)、「I」(Inclusion:インクルージョン:包括)のこと。

 つまり、バイデンがかつてハリスを副大統領候補に指名したのは、単にカラードだったからと言うのだ。

 「DEI」は人を雇ったり、登用したりするときの「ワク」で、「DEI採用」と言われると、それは能力と関係なく採用されたことを示唆する。つまり、俗に「無能なバカ」と言っているのと同じになる。

 これに対して、共和党のダスティン・ジョンソン下院議員(サウスダコタ州選出、47)は「私がハリス副大統領に反対するのは、彼女の属性ゆえではなく、彼女が行ったことゆえだ」として、「このような醜態(個人攻撃)は偉大な国にふさわしくない」と批判した。

■非白人女性議員4人に「もともといた国へ帰れ」

 “ハリス旋風”が吹き始めてから、トランプも焦りを見せ始めているというが、かといって、自分のやり方を変えるような男ではない。なにしろ、彼は人の助言を聞かない。

 そこで、以下、トランプがいかに人種差別発言と女性差別発言を繰り返してきたか、ざっと振り返ってみたい。

 2019年7月、トランプは民主党の非白人女性議員4人に対して、「もともといた国に帰り、犯罪まみれの国を立て直すのを手伝ったらどうか」と言ったが、これはいくらなんでも度が過ぎていた。

 4人とはアレクサンドリア・オカシオ・コルテス議員(ニューヨーク州選出、34)、ラシーダ・タリーブ議員(ミシガン州選出、48)、アヤンナ・プレスリー議員(マサチューセッツ州選出、50)、イルハン・オマール議員(ミネソタ州選出、42)。

 オカシオ・コルテスら3人は、順にプエルトリコ系、パレスチナ系、アフリカ・セネガル系だが、アメリカ生まれだから帰る国などない。また、オマールはアフリカ・ソマリアからの難民だ。

 このとき、トランプは「ナンシー・ペロシは喜んで、すぐに無料渡航の手配してくれるはずだ!」とも言った。

 ナンシー・ペロシ(84)は、民主党の重鎮で下院議長(カリフォルニア州選出)。美貌で有名だが、トランプはこう侮辱したことがある。

 「彼女が議場にいるのを見たか? 本当に気持ち悪い。あれだけ(美容整形)手術をしたらな」

■「あの顔を見てみろ。誰があんなのに投票する?」

 トランプは「ルッキズム」(lookism)の塊である。

 女性を見かけだけで決めつける。前々回の予備選で指名を争った元ヒューレット・パッカードCEOのカーリー・フィオリーナ(69)について、「あの顔を見てみろ。誰があんなのに投票する? あれが次期大統領の顔だなんて想像できるか?」と侮蔑した。

 また、民主党の上院議員(マサチューセッツ州選出)で、かつて宿敵とされたエリザベス・ウォーレン(75)に対しては、「Pocahontas」(ポカホンタス)と呼んで揶揄した。

 「ときにポカホンタスと呼ばれる間抜けなエリザベス・ウォーレンはキャリアアップのため先住民のふりをした。極めつきの人種差別主義者だ」

 人種差別をしているのは自分のほうで、しかも、これはネイティブアメリカンをバカにした発言だ。

 さらに、MSNBCの情報番組『モーニングショー』の司会者ミカ・ブレジンスキー(57)に対しては、「昔会ったとき、低IQのクレイジーなミカは、フェイスリフト(顔のしわやたるみを取る手術)でひどく血が出ていた」と、ツイッター(当時)に投稿した。

 極めつきは、フランスのマクロン大統領(46)の24歳年上のブリジット夫人(70)に対して、初めて会った公の席で、「本当にいいスタイルをしているね」と話しかけたことだろう。  

■人種差別主義者というより「白人優位主義者」

 今度の大統領選挙の大きな争点とされるのが、移民問題である。トランプは、大統領に返り咲いたら、ただちに数百万人の移民を強制送還すると発言している。

 さらに、強制送還のために収容所を設置し、移民から生まれた子どもが自動的に市民権を得られる制度を廃止するとも述べている。

 彼は、差別というより、白人以外は人間ではないと思っている。前々回の大統領選挙時、トランプは、メキシカンは「麻薬中毒患者でレイプ魔」と言い放った。

 また、2018年1月の超党派の議員との移民問題ミーティングでは、大問題になった発言を繰り返した。

 このときは、民主党議員の1人が人道的受け入れの一時的な在留資格(TPS:Temporary Protected Status)でハイチにふれたとき、「なぜハイチ人がもっと必要なんだ。追い出せよ!」と切り出し、ハイチのほか、エルサルバドル、ニカラグアなどの中米・カリブ諸国やアフリカ諸国の人々を指して「肥溜(shithole)のような(汚い)国の連中」と言ってのけた。

 さらにトランプは、続けて「ノルウェーのような国からもっと連れてくるべきだ」と言ったので、「白人優位主義者」(white supremacy)であることがはっきりしてしまった。

■トランプが攻撃しそうなハリスの不倫スキャンダル

 このようなトランプを再び大統領に選ぶかどうかは、アメリカ国民の自由だが、世界は白人だけ、男性だけではできていない。

 ベストセラー『もしも世界が100人の村ならば』は、こう述べている。

 「その村には、57人のアジア人、21人のヨーロッパ人、14人の南北アメリカ人、8人のアフリカ人がいます。52人が女性で48人が男性です。70人が有色人種で30人が白人です」

 トランプの人種差別発言、女性差別発言はこれからも続くだろう。ハリスに対する個人攻撃で、彼が攻撃しそうなのは、彼女の若いときの不倫スキャンダルだ。

 これは、前回の大統領選で副大統領にハリスが選ばれたことに合わせて出版された『Profiles in Corruption: Abuse of Power by America's Progressive Elite』(by Peter Schweizer)に詳しく書かれている。

 ハリスは駆け出し弁護士だった20代のころ、31歳も年上の妻子がある元サンフランシスコ市長ウィリー・ブラウン(90)と交際し、彼の引きで検察官やカリフォルニア州の司法長官の地位に就いたというストーリーだ。トランプにとっては格好のネタだから、自分の不倫相手に口止め料を払ったことなど棚に上げて、ハリスを攻撃するだろう。

 しかし、それをやればやるほど、有権者の反感を買い、トランプはカマラ・ハリスに惨敗するのではないだろうか。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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