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『ブギウギ』スズ子(趣里)が、大和礼子(蒼井優)から受け継いだ「大切なもの」

碓井広義メディア文化評論家
趣里さんが演じるヒロイン・福来スズ子(番組サイトより)

大和礼子と飛鳥明子

福来スズ子(趣里)が所属する、梅丸少女歌劇団のトップスターだった、大和礼子(蒼井優)が亡くなってしまいました。

とても残念ですが、こればかりはどうにもなりません。

大和のモデルとなったのは、実在の松竹楽劇部のトップスター、飛鳥明子です。

開業医の父を持ち、高等女学校を卒業後、楽劇部に入団。

クラシックバレーの名手であり、関西クラシックバレーの草分けであり、伝説のプリマドンナでした。

練習も一人で黙々と行うストイックな人で、考えているのは常にステージのこと。

踊りだけでなく、日常の立ち居振る舞いも「美しくあるべき」というのが信条でした。

彼女も退団後、若くして亡くなっています。

蒼井さんが演じた、凛として美しい大和礼子が、見事に飛鳥明子と重なっていました。

後に笠置シヅ子は、すべてのエネルギーをステージに向ける大先輩を回想し、「神様みたいに思っていた」と雑誌のインタビューで語ったほどです。

ドラマの福来スズ子にとっても、敬愛する大和礼子はそんな存在でした。

彼女から多くのことを学び、何度も励まされてきました。

大和の言葉で振りかえってみます。

プロであること

先輩をサポートするスズ子たち後輩が、舞台裏で大きなミスをしてしまった時のこと。

大和は、そのミスによっていちばん迷惑をこうむるのは、先輩たちではなく、「お客さま」なのだと諭(さと)します。

「お客さまはね、現実から離れたくて劇場に来てるの。そのお客さまに、私たちは一瞬でも現実を感じさせちゃダメ。それはプロじゃない」

生きる力

さらに後日・・・

「私、お客さまは現実を忘れに劇場に来るって言ったけど……それだけじゃない。現実に立ち向かう力をもらいに来るの。生きる力」

観客に「生きる力」を届けるという大和の思いは、スズ子にしっかりと伝わりました。

それでも、まだまだ自分に自信が持てないスズ子。

何より、「個性」が足りないという焦りが、スズ子を苦しめます。

自分の個性

そんな時も、大和は・・・

「焦っちゃダメよ。自分の個性みたいなものはね、いつか必ず見つかるから。続けていれば。でも……続けることが、いちばん大変なんだけどね」

後輩に抜かれたり、同期に差をつけられたり、スズ子たちは日常的に競争にさらされています。

自分に見切りをつけて、辞めていく仲間も少なくありません。

続けること、やめないこと

演出も担当することになった大和は、厳しい稽古に耐えるスズ子たちに向かって、こう言いました。

「誰もやめさせたくないの。みんなで、楽しくやりたい。稽古もつらいし、才能ないのもつらいけど、やめてしまうことがいちばんつらいでしょ。だから……みんな続けてほしい。やめないでほしい」

その後、「桃色争議」の責任をとって退団した大和が、スズ子たちの舞台を観に来てくれたことで、久しぶりの再会が実現します。

自分を変える

結婚し、お腹に子どもがいる大和は、スズ子にこんな言葉をかけてくれました。

「物足りなくなっちゃってるんじゃない? 今の自分に。でもどうしていいのかわからない」

図星でした。

大和が続けます・・・

「私ね、この子が生まれたら、私の何かが変わりそうな気がするの。踊りとかそういうことも含めて、自分がどう変わるのかすごく楽しみ。何か生活の変化が、歌や踊りに出ることもあるような気がする」

そして、東京へ

そんな大和の葬儀に出席し、はな湯に戻ったスズ子。

母・ツヤ(水川あさみ)たち家族に、あらためて「東京へ行きたい」という自分の思いを伝えました。

「ワテ、大和さんみたいになりたいんです。あんなふうにお客さんを釘付けにするスターになりたいんです!」

ツヤは、答えます。

「行ってきなはれ。東京で思い切り歌って踊ってきなはれ!」

家族の応援はもちろん、加えて大和という存在、その「教え」と「励まし」も、スズ子の背中を押してくれたのです。

いわば、志(こころざし)のリレーでした。

来週からは、いよいよ「東京編」。

新たな「こころズキズキ、ワクワク」(作詞・鈴木勝、作曲・服部良一『東京ブギウギ』)が待っています。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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