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ベレーザがアジアチャンピオンに王手。韓国女子リーグ7連覇中の仁川現代に2-0で勝利!

松原渓スポーツジャーナリスト
植木(上段右から3人目)と、小林(上段一番左)のゴールで勝利した(筆者撮影)

 韓国・龍仁市で開催されている「女子クラブ選手権2019 FIFA/AFCパイロット版トーナメント」に、なでしこリーグ王者として出場している日テレ・ベレーザ(ベレーザ)は、11月28日(木)の第2戦でWKリーグ(韓国女子サッカーリーグ)7連覇中の仁川現代製鉄レッドエンジェルズ(仁川現代)と対戦。

 2-0で快勝し、1勝1分で1試合を残して首位に立った。

 日本、韓国、中国、オーストラリアのアジア4カ国のリーグ王者が集まった今大会は、実質、現在のアジア女子ナンバーワンクラブを決める大会と言える。

「今、自分たちがやっているサッカーに自信があるし、これがどこまで通用するのかを(国際大会で)試せる機会は初めてなので、本当に楽しいです」

 試合後の取材エリアで、MF三浦成美は喜びを噛み締めるように言った。

 ベレーザは23日の皇后杯2回戦から、6日間で3試合を戦っている。三浦はボランチとして3試合にフル出場してきた。韓国は真冬のような寒さで、この試合は夜7時のキックオフだったため気温は2℃まで下がった。それでも表情は晴れやかで、声は弾んでいた。

「初戦の後よりも疲れていないんですよ。やっぱり、勝つっていいなぁと思います。中1日ですが、疲れはそれほど感じていません。試合がいっぱいできることが楽しいですから。次も勝って、ぜひ優勝して終わりたいですね」

 ベレーザは初戦で、中国スーパーリーグ王者の江蘇蘇寧足球倶楽部(江蘇蘇寧)と1-1で引き分けた。一方の仁川現代は、初戦でオーストラリアのメルボルン・ビクトリー(メルボルン)に4-0で大勝している。ベレーザと仁川現代の試合前に行われた試合で江蘇蘇寧とメルボルンが1-1のドローに終わっていたため、実質、この試合に勝った方が優勝に王手をかける重要な一戦だった。

 初戦から4名を入れ替えた仁川現代は、先発11名中6人が今夏のフランス女子W杯のメンバー。

 一方、ベレーザは初戦から3人を入れ替えている。スターティングメンバーはGK山下杏也加、最終ラインは右からDF後藤若葉、DF土光真代、DF松田紫野、DF宮川麻都。MF三浦成美がボランチに入り、インサイドハーフは右がFW籾木結花、左がMF長谷川唯。右サイドハーフにFW小林里歌子、左サイドハーフにFW植木理子、1トップにFW田中美南が入る4-3-3のフォーメーション。後藤、松田、植木の3名が大会初先発となった。

仁川現代は今季、WKリーグで25勝5分で無敗優勝を果たしている(筆者撮影)
仁川現代は今季、WKリーグで25勝5分で無敗優勝を果たしている(筆者撮影)

 両チームともに、ボールを保持しながら試合を進めるスタイルだ。序盤は互いに様子を伺いながら主導権争いが続いたが、自分たちのスタイルを貫くことができたのはベレーザだった。

 フリーの味方がいればシンプルに生かし、相手がプレッシャーをかけてこなければ、一人ひとりがボールを運んで相手を引きつける。

 連動したポジショニングと個々のテクニックで淀みなくパスをつなぐベレーザに対して、仁川現代はボールの奪いどころを絞りきれずに全体の重心が下がり、攻撃はカウンターが中心になった。

 また、ベレーザは初戦で、引いた相手を崩しきれなかった反省をこの試合で生かした。前日は全員で初戦の映像を見ながら対策を練ったという。

 

 仁川現代はテクニックのあるFWチャン・スルギと、フィジカルが強く得点力のあるブラジル出身のFWベアトリス・ザネラット・ジョアンが前線にいた。そのため、カウンターへのリスクを考えて攻撃は慎重にならざるを得ない部分もあったが、サイド攻撃では違いを見せた。

 緩急を効かせたドリブルや裏のスペースへの飛び出しで攻撃に深みを加えていたのが、右サイドの小林だ。

 前半8分には前線で奪って右サイドの角度のない位置から力強いドリブルで決定機を作り、24分には、植木のクロスにファーサイドでボレーで合わせたが、惜しくもサイドネット。

「初戦でも相手ペナルティエリアの深いところまでえぐることを意識していましたが、試合後に(ミーティングで)そこのエネルギーが足りないという課題が出ました。それは自分の役割なので、もっと深い位置までえぐっていくことを意識してプレーしました」(小林)

 前半、数回あったチャンスをものにはできなかったが、繰り返されるジャブは確実に相手の集中力と体力を削り取っていった。

 三浦が「いける」と感じたのは、後半の立ち上がりだったという。

「後半の立ち上がりから、相手(のペース)が落ちた感じがしたんです。ボールを持てるという感覚があって、スペースがありました」(三浦)

 中1日の連戦に加え、やりたいサッカーをさせてもらえないストレスも重なったのだろう。持ち堪えていた仁川現代の守備をこじ開けたのは、植木だった。

 49分、自らのシュートでコーナーキックを獲得すると、長谷川がニアサイドに入れたボールに、中央から猛スピードで走り込んで頭で合わせる。ボールは敵味方が交錯する密集を抜け、ファーサイドのポストに当たってゴールネットを揺らした。

 このゴールで試合が動いた。仁川現代が攻撃に人数をかけざるを得なくなったことで、前半から厳しいマークを受けていた田中の周りにスペースができ始め、攻撃にリズムが生まれる。ザラネット・ジョアンを起点としたカウンターも怖さがあったが、その分チャンスも増え、試合の見応えは増した。

 前線にフレッシュなFWを投入して攻勢を強めた仁川現代のソン・チョンジョン監督に対し、永田雅人監督も75分にMF菅野奏音、85分にFW遠藤純、そして90分にはケガ明けのFW宮澤ひなたを投入して前線を活性化。

 そして、アディショナルタイムには、緩急の動きで相手のマークを外した小林が宮澤の折り返しにピタリと合わせ、2-0と試合を決定づけた。

【2試合から見えた収穫】

 初戦の江蘇蘇寧戦とこの仁川現代戦のいずれも、主導権を握って戦えたことは自信になるだろう。永田監督は試合後の第一声で、「相手に対してよりボールを多く持って試合を進めることができ、勝利できたことがとても嬉しいです」と、内容面も含めた手応えを口にした。

 その中で、田中(1位)、小林(3位)、植木(4位)と、今季の国内リーグ得点ランキングで4位以内に名を連ねた3人が決めていることも大きい。

 2試合とも、相手がスピードとパワーのあるFWを前線に配してきた中で攻撃時のリスクの掛け方に難しさはあったが、その中で1ゴール1アシストの小林が個の力を見せている。攻守の切り替えが早く、相手の変化に対応するスピードも早い。

 それでも、「後半、2点目をもっと早く取れれば、チームとしてもっと楽に試合を運べたと思います」と、まずは反省を口にし、次戦に向けて気を引き締めていた。

 初戦は途中出場で逆転ゴールを決められず悔しそうな表情を見せていた植木は、この試合は先発し、最高の形で期待に応えた。

「拮抗した試合では先制点がすごく大事ですし、今日はそのゴールを自分が決めることができて嬉しいです。ベレーザでコーナーから決めたのも、一本目(のコーナーキック)で決めたのも初めてだと思いますし、自分の引き出しも増えたかな、と思います」

 植木はスピードとドリブルを生かしたプレースタイルのイメージが強いからか、ヘディングのうまさは見落とされがちだ。幼少期から様々な球技に触れてきた植木は、父と弟の影響で野球のフライをキャッチする練習もよくしていたという。キャッチボールは、落下地点を予測するために必要な空間認知能力を高めると言われている。それがヘディングのタイミングにもつながっているのだろう。

 仁川現代の攻撃を無失点に抑えた守備陣の奮闘も光った。

仁川現代戦に先発した松田紫野(左)と後藤若葉(筆者撮影)
仁川現代戦に先発した松田紫野(左)と後藤若葉(筆者撮影)

 松田は下部組織のメニーナから昇格1年目、後藤はメニーナ登録でトップチームでの経験はまだ浅い。だが、2人とも最終ラインで土光と宮川とともに息のあったラインコントロールを見せ、攻撃面ではオーバーラップや縦パスなど、積極的にチャレンジする姿が頼もしく映った。本職ではないセンターバックで2試合をこなしている宮川のユーティリティ性もさることながら、平均年齢20歳の若い最終ラインを牽引し、ドリブルでの持ち上がりや正確なフィードで攻撃の起点になった土光はこの試合の影のMVPだろう。

【タイトルがかかるメルボルン戦】

 ケガ明けで大会初出場となった宮澤は、ピンポイントでのアシストで復活を印象付けた。この日が20歳の誕生日でもあったため、試合後はピッチ上でチームメートからバースデーソングで祝福された。ベレーザでの2年目を迎えた宮澤は、今大会での経験をこう語った。

「国内リーグとは強度や球際も違うと感じますし、(相手の)勝ちたいという気持ちが前面に出ていることも感じます。その中でもボール支配率の高さとかパスをつなぐ回数を見れば、ベレーザで取り組んでいることがアジアでも通用するんだなと自信になります。初代アジアのチャンピオンというタイトルはすごく大きいと思うし、みんな疲れているとは思いますけど、楽しい気持ちの方が優っていてオフの時間も元気いっぱいですね。1、2試合目はチームに貢献できなかった分、3試合目に出られたときには、チームに勢いをつけたいと思います」(宮澤)

 運動量の多い中盤でレギュラーを務める長谷川、籾木、三浦は、この過密日程のなかで負担も大きいはずだ。

 だが、冒頭の疲れを忘れたようないきいきとした三浦の言葉や、宮澤が語ってくれたオフの様子からも、次のメルボルン戦に向けた全員の高いモチベーションが伝わってくる。

 ベレーザはメルボルンとの最終戦に勝てば優勝が決まる。引き分け以下の場合は、江蘇蘇寧 vs 仁川現代の結果次第だ。

 11月30日(土)の12時キックオフ(日本時間も同じ)。試合は以下のAFC公式YouTubeチャンネルでライブ配信される。

vs メルボルン・ビクトリー(11/30 12:00~)

 江蘇蘇寧戦と仁川現代戦のフルマッチも以下のURLから見ることができる。

vs 江蘇蘇寧(△1-1)

vs 仁川現代製鉄(○2-0)

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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