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静岡豪雨、2週間以上も「報道されない」山間部の被害と今後の生活不安

関口威人ジャーナリスト
静岡市葵区の山間部にはまだ手付かずの被災地域もある(10月9日、筆者撮影)

 台風15号の影響で静岡県に記録的な豪雨災害が発生してから2週間以上が過ぎた。一時、静岡市清水区で6万戸以上に影響した断水は解消されたが、その分、全国的な報道もすっかり止まってしまった感がある。しかし、現地に入るとまだまだ「報道されない」深刻な被害や大きな不安を募らせる住民の姿を目の当たりにする。そうした住民たちを支えるボランティアや支援団体の動きを交えて、現状と今後の見通しをお伝えしたい。

葵区の山間部に点在する被災地域

 清水区に隣接する静岡市西部の葵区。JR東海道新幹線・静岡駅のすぐ西を南北に流れるのは一級水系の安倍川だ。今回、その安倍川本流域も土砂崩れや内水氾濫で多くの被害が出ているが、さらに北西の支流・藁科川(わらしながわ)沿いにも被災地域が点在しているという。

静岡市の中でも葵区は山間部が奥深く、安倍川や藁科川の上中流域に被害が点在して全容がまだ分かりにくい。清水区でも山側の住宅地で生活再建に不安を募らせる住民が多い(筆者作成)
静岡市の中でも葵区は山間部が奥深く、安倍川や藁科川の上中流域に被害が点在して全容がまだ分かりにくい。清水区でも山側の住宅地で生活再建に不安を募らせる住民が多い(筆者作成)

 10月9日、静岡市中心部から国道362号線を北上。並行する藁科川には、根こそぎ流されたであろう木の幹や枝があちらこちらに絡みついていた。そして「清沢橋」を渡って「清沢」地区に入ろうとすると、護岸沿いの道路が50メートルほどにわたって崩落していた。

葵区の清沢地区で崩落した藁科川沿いの国道362号。上下線で通行を止め、山側の集落を通る細い道を片側交互通行の迂回路にしている(10月9日、筆者撮影)
葵区の清沢地区で崩落した藁科川沿いの国道362号。上下線で通行を止め、山側の集落を通る細い道を片側交互通行の迂回路にしている(10月9日、筆者撮影)

 国道は通行止めとなり、その山側の集落を通る細い道が片側交互通行の迂回路となっている。高低差はかなりあるので、上り坂はエンジンをふかさなければならない。道沿いの家に住む女性は「車が危なくて孫を歩かせられない」と気をもんでいた。

 ただ、この集落では家屋自体に大きな被害は出ていないという。迂回路を抜けて国道に戻り、さらに奥に進むと、すっかり様相が変わった。

 国道沿いに寄り合う集落の裏の沢から大量の土砂が崩れ落ち、少なくとも3軒の家屋に流れ込んでいた。そのうちの1軒は1階の窓が土砂で半分埋まるほど。他の家の脇にも土砂やコンクリートのがれきが山積みになっている。

清沢地区の集落に流れ込んだ土砂。住民たちが2週間かけて撤去作業を続けていたが、限界が近づいている(10月9日、筆者撮影)
清沢地区の集落に流れ込んだ土砂。住民たちが2週間かけて撤去作業を続けていたが、限界が近づいている(10月9日、筆者撮影)

住民だけでの土砂撤去にも限界

 「これでも、2週間でだいぶ片付いた方なんです」

 こう状況を説明してくれたのは、清沢地区自治会連合会会長の前田万正(かずまさ)さんだった。

 前田さんによれば、この地域には95歳の一人暮らしのおばあさんらもいたが、幸い全員の無事は確認された。ただし、「夜中の雨で避難は難しく、あと1時間長く降っていたら命も危なかっただろう」と振り返る。

清沢地区では土砂で1階の窓の半分が埋まった家屋もあり、地域の人たちが手作業で土砂をかき出していた。沢の水から取っていた生活用水もパイプが破損して使えなくなっているという(10月9日、筆者撮影)
清沢地区では土砂で1階の窓の半分が埋まった家屋もあり、地域の人たちが手作業で土砂をかき出していた。沢の水から取っていた生活用水もパイプが破損して使えなくなっているという(10月9日、筆者撮影)

 そして、土砂の撤去や復旧作業を地域の人たちだけでやっていたものの限界があり、「ボランティアにも入ってもらった方がいい」という声が高まった。この日は、相談を受けた静岡市災害ボランティア本部(センター)からスタッフの松山文紀さん(災害NPO MFP)が現地入り。状況を確かめた松山さんは「大きな重機は入れない場所なので、小さな重機と手作業で進めましょう」と、連休明けからのボランティア派遣を調整することに。前田さんは「人が多いと活気づく。涙が出そうだ」と喜んでいた。この地域の状況は、地元でもほとんど報道されていないという。

清沢地区の状況を自治会連合会長の前田万正さんから聞き取る静岡市災害ボランティア本部(センター)スタッフの松山文紀さん(左)(10月9日、筆者撮影)
清沢地区の状況を自治会連合会長の前田万正さんから聞き取る静岡市災害ボランティア本部(センター)スタッフの松山文紀さん(左)(10月9日、筆者撮影)

 松山さんは「今回の災害の全容はまだ分からない。土砂崩れや内水氾濫の被災地域が広域に点在していて、件数が多い。市のボランティアの登録者は3700人ほどいるが、1日に来る人数はニーズに対して圧倒的に足りず、専門的なNPOと合わせて作業をしても年内はかかるかもしれない」と長丁場の見通しを示した。

清水区では生活再建を考えるミニ相談会

 一方、断水は解消されたものの床上・床下浸水が1500棟近く発生している清水区では、住民の生活再建に向けた支援の動きも始まった。9日夜に高部地区の柏尾自治会館で開かれたのは「今後の生活再建を考える無料ミニ相談会」。地元の柏尾自治会を、名古屋市の災害救援の認定NPO法人「レスキューストックヤード」などがサポートする形で開かれた。

清水区の高部地区・柏尾自治会館で開かれた相談会の企画・運営をサポートした名古屋のNPO法人「レスキューストックヤード」常務理事の浦野愛さん(10月9日、筆者撮影)
清水区の高部地区・柏尾自治会館で開かれた相談会の企画・運営をサポートした名古屋のNPO法人「レスキューストックヤード」常務理事の浦野愛さん(10月9日、筆者撮影)

 同法人常務理事の浦野愛さんによると、こうした相談会は仮設住宅の建設などにめどが付く被災1カ月ほどで開かれることが多く、約2週間後の今回は比較的早い時期での開催だという。しかし、「2週間というのは被災直後からの対応で頑張り続け、心身の限界を迎える山場の一つ。ここで先行きを見通せることで次の山をうまく乗り越えられる」(浦野さん)ため、準備の整った高部地区の2カ所(8日には押切新自治会館で「高部地区こども会」が中心となって開催)でそれぞれ約30人の住民が参加して開かれることになった。

 葵区で活動していた松山さんも清水区の会場に移動し、被災家屋の修繕や消毒の仕方などについて説明。「床上の見えるところから水は引いても、見えない床下に水が残り、来年になってカビが生えることがある。必ず床下の状態を確認して」などと呼び掛けた。

弁護士らが支援手続きの内容や見通し示す

 そして清水区在住の弁護士、永野海さんが生活再建の支援制度について話した。永野さんは東日本大震災で避難所の支援活動に当たり、その後の各地の災害でも、独自に被災者支援のチェックリストを作成して配布するなど、法律家の立場から熱心に防災に取り組んでいる。

相談会で被災者支援制度の基本について話す清水区在住の弁護士、永野海さん。地元の生活者の目線で「詐欺には地域全体で注意を」などと呼び掛けた(10月9日、筆者撮影)
相談会で被災者支援制度の基本について話す清水区在住の弁護士、永野海さん。地元の生活者の目線で「詐欺には地域全体で注意を」などと呼び掛けた(10月9日、筆者撮影)

 この日も罹災証明書の申請から住宅再建までの手続きの流れを示した上で、「日本の支援制度はたくさんあって分かりにくいけれど、ぜんぶ罹災証明書にひもづいている」「住宅の損壊度合いを判定する調査は、納得するまで点数の根拠を聞いて」「半壊は修理費用65.5万円がもらえるけれど、仮設住宅には入れない。どちらがいいかは慎重に考えて」などとポイントを指摘。

 また、「この時期に一番注意してほしいのは詐欺。これから詐欺師が家の修理をすると言ってやって来る。お金を払う前に絶対、私たち弁護士会や行政に相談を。ここの自治会は結束が強いので、払いそうな人がいたら全力で止めてあげて」などと住民の目線から分かりやすく、強く訴えた。

リラックスできる雰囲気作りで住民にも笑顔が

 柏尾自治会長の小林義明さんは「知らないことばかりで参考になった。今日は雨で来られない住民も多かったので、もっと知ってもらわないと」と感じ入っていた。会場では、名古屋から来たボランティアたちが熱いコーヒーを提供したり、被災地で行う「足湯」の活動もしたりして、リラックスできる雰囲気を作っていた。

 浦野さんは「最初は疲れた表情だった人も、帰るときには笑顔や安心した表情に変わっていた。この時期に民間としてやることに意味はあった」とした上で、「実際にはこれから個別の丁寧な対応が求められ、行政にも密接に関わってもらってワンストップの相談窓口ができることが必要。今回のやり方をモデルに他の地域でも展開してもらえれば」と話す。

会場ではバケツ1杯のお湯に足をつけてもらい、マッサージしながら話を聞く「足湯ボランティア」の活動も行われた(10月9日、筆者撮影)
会場ではバケツ1杯のお湯に足をつけてもらい、マッサージしながら話を聞く「足湯ボランティア」の活動も行われた(10月9日、筆者撮影)

 葵区の山間部などでも今後、制度面の問題解消や住民の心のケアが必要になってくるだろう。清沢地区では市の集落支援員が日頃から住民と行政をつなぐ窓口となっており、松山さんたちのようなボランティアとも連携した体制づくりが期待される。

 一方で、静岡の地域すべてが被害を受けているわけではなく、道路は問題なく通れ、観光客を待っている山間部もある。そうした情報が地元内外に、きめ細かく伝わるように願いたい。

 静岡市の災害ボランティアは、静岡市災害ボランティア本部(センター)が県内在住の中学生以上を対象に事前登録を受け付けている。

ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学)修了。中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で社会問題をはじめ環境や防災、科学技術などの諸問題を追い掛ける。東日本大震災発生前後の4年間は災害救援NPOの非常勤スタッフを経験。2012年からは環境専門紙の編集長を10年間務めた。2018年に名古屋エリアのライターやカメラマン、編集者らと一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」を立ち上げて代表理事に就任。

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