暑い夏がくる プールの存在意義 そして今年の水難事故防止教育はどうすればよいか?
新型コロナウイルス感染拡大の抑制のためにとられてきた休校などの自粛。緊急事態宣言が39県から解除されて、学校にも子供たちの笑顔が戻りつつあります。そして、今年も暑い夏がやってきます。今の時期は各自治体の教育委員会で夏休み前のプール授業の実施可否について議論されているところですが、聞こえてくるのは「今季はプールで水泳授業を行わない」という決定ばかりです。そしてそのまま、プール開きをしないで夏休みを迎えてしまうのでしょうか。(5月23日9:00一部追記)
プールの存在意義
昔は多くの子供たちが水難事故で命を落としました。わが国での中学生以下の子供の溺死数を警察庁の統計で確認しましょう。昭和54年(1979)には全国で1,044人の子供が1年間に水難事故で命を落としていたのに、平成30年(2018)にはそれが22人となっています。大幅に減少しています。
この間、学校やスイミングスクールで水泳教育が盛んに行われて、泳げる子供が増えました。しかしながら、泳げる子供は溺れないかというと、それは正しくありません。実は昭和の時代から、夏休みに学校プールの開放や公共プールの営業が進みました。そのため、子供同士や親子で川や海に行く機会が減ったので、それも併せて子供の溺死防止につながったのです。
したがって、暑い夏に子供の命を水難事故から守ることもプールの大事な役割ととらえ、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えつつ、暑い夏の期間にはプールをできるだけ積極的に開放することが望まれます。
学校の水泳授業の取扱い(スポーツ庁・文部科学省通知)
スポーツ庁政策課学校体育室と文部科学省初等中等局幼児教育課は本日(5月22日)付で「今年度における学校の水泳授業の取扱いについて」という事務連絡を各都道府県・指定都市教育委員会学校体育主管課などに通知しました。
それによりますと「学校プールについては、学校衛生基準(平成21年文部科学省告示第60号)に基づき、プール水の遊離残留塩素濃度が適切に管理されている場合においては、水中感染のリスクは低いと指摘されています」と書かれています。また「児童生徒の健康と安全を第一に考えて、地域の感染状況を踏まえ、密集・密接の場面を避けるなど、下記の事項を十分に踏まえた対策を講じることを前提として、水泳の授業を実施することは差し支えないと考えます」として記以下に具体例を示しながら対策を伝えています。
この事務連絡は学校プール等を利用した水泳授業を想定していますので、水泳授業関係者はスポーツ庁ホームページに掲載の事務連絡でご確認ください。
ういてまて(着衣泳)教室の対策
せめてういてまて教室だけでも実施して、夏休みを迎えたいです。プールを使った実技ができなくても、動画による学習、体育館等を使った「エアーういてまて教室」(6月中旬頃発表予定)も手段としてあり得ます。
もしプールを使えるようであれば、5月22日付の事務連絡の記以下に記載されている具体例を受けて、これから予定が組まれるういてまて教室では、次のようなことに留意されて、実施計画を策定されるとよろしいかと存じます。
1.プール水の遊離残留塩素濃度については、プールのどの部分でも基準の濃度となるように管理すること。
学校衛生基準によれば、「遊離残留塩素濃度は、0.4 mg/L以上であること。また、1.0 mg/L以下であることが望ましい」とされています。プールのどの部分でもという点では、プールの対角線上3点以上を選び、表面及び中層の水について測定し、すべての点で基準を満たしていることを確認します。これを毎学年1回で実施します。
それに加えて屋内プールについては、通常は炭酸ガス濃度を一定以下にするように換気設備の設置が義務付けられているので、換気装置を適切に運転することが求められます。
2.検温や健康状態により学習前の児童生徒の健康状態を把握し、体調がすぐれない児童生徒の参加は見合わせる。
ういてまて教室は、外部講師により実施されることが多いので、教室が始まる前に学校内で事前に検温と健康状態の把握が行われなければなりません。
3.不必要な会話や発声を行わない。プール内でも人との間隔は2 m以上を保つこと。
事前の動画学習(動画については水難学会で発行しています)をして現場での説明をかなり省くことができます。ただし、背浮きで救助を待っている友達に「ういてまて」と声をかけたり、「119番通報をお願いします」と他の友達に依頼したりするときには、声を出すことが練習になるので、不必要な会話には当たりません。
25 mプールであれば、実技の時にはコース毎に1人がプール内で立つようなイメージです。
4.児童生徒が手をつないだり、体を支えるなどの行動を回避する。ビート板の使いまわしは避けて、使用後に消毒を行うこと。
図1のように背浮きの練習の時には接触することになるので、今年に限っては持参したペットボトルを浮き具として、1人で浮き具を使った背浮きの練習をします。
また、そのペットボトルは手から離さないようにするか、参加者全員が使い捨ての薄いグローブをはめて誰でも触れるようにするかします。練習後は自宅に間違えず持ち帰るようにします。
5.点呼を取る際に、バディーシステムは感染リスクに十分注意します。プールサイドで児童生徒が互いに手をつないだり、密着して座らないこと。
バディーを取る時には、2 m以上の身体的距離を確保しつつ、自分たちの番が来たら、同時に挙手してお互いを確認します。あるいは名簿方式で点呼を取るように形態を変えることも考えます。
6.ゴーグルやタオルなどの私物の取り違えや貸し借りしない。
ういてまて教室では持ち物が多いので、ここはかなり注意します。最も多いのは浮き具用ペットボトルの貸し借り、そして水中で履く靴やサンダルの貸し借りです。
7.着衣と靴の持込みについては少し注意する。
地域によっては、衣服や靴あるいはサンダルもプールに持ち込みたくないという場合が考えられます。その場合には、水着+靴(サンダル)あるいは水着のみのういてまて教室の実施も可能です。この場合、例年と違い少々教えるための技術が必要になります。
さいごに
以上、子供たちの安全をより深く考えて、今年の夏のういてまて教室は、例年と実技で変わる部分があります。具体的な内容につきましては、6月中に水難学会の各指導員に本部から伝達する予定にしています。現段階ではういてまて教室の実施日の打ち合わせ程度になりますが、いつも水難学会の指導員から指導を受けている学校は、指導員にお問い合わせください。また、知り合いの指導員がいない場合には水難学会にお問い合わせください。
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