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王将位通算4期の渡辺明王将にスーツ姿の鬼軍曹・永瀬拓矢王座が挑む七番勝負開幕 第1局は角換わり

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月10日9時。静岡県掛川市、掛川城・二の丸茶室において第70期王将戦七番勝負第1局▲渡辺明王将(36歳)-△永瀬拓矢王座(28歳)戦が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 近年の王将戦では定番となった掛川対局。渡辺王将は過去5回ここで対局し、全勝しています。一方、王将戦七番勝負初登場の永瀬王座は、こちらでの対局も初めてとなります。

 対局がおこなわれるのは掛川城内の茶室。よく晴れた朝、外の庭園からは鳥の鳴き声が聞こえてきます。

 コロナ禍で緊急事態宣言が再度発令され、大変な状況下。将棋連盟は公式戦対局を続ける方針を発表しています。

スーツ姿の挑戦者

 床の間を背にして上座にすわる渡辺王将は和服姿。

 一方、永瀬挑戦者は予告通り、スーツ姿です。

 両者が対戦した2017年度棋王戦五番勝負では、永瀬挑戦者は和服姿でした。しかし2020年度から、永瀬挑戦者はタイトル戦でもスーツで臨むようになりました。自身にとっては和服よりもスーツの方が対局しやすい、という合理的な理由からのようです。

 スーツでタイトル戦に臨んだ元祖は加藤一二三九段。また対局中に栄養補給で多くバナナを食べる元相も加藤九段です。永瀬挑戦者は加藤九段の系譜につらなる求道者タイプなのかもしれません。

 1988年度王将戦は南芳一王将に島朗竜王が挑戦しました。このとき島挑戦者は竜王戦同様、全局スーツで通しています。

 羽生善治九段(永世王将)を中心とする黄金世代の中で、いち早く王将戦七番勝負の舞台に登場したのは故・村山聖九段。1992年度王将戦第1局、谷川浩司王将が凛とした和服姿なのに対して、村山挑戦者はネクタイをゆるめたスーツ姿で、そのコントラストが印象的でした。村山挑戦者は第3局から仕立てたばかりの和服で対局に臨んでいます。

掛川対局始まる

 本局、記録係を務めるのは伊藤匠四段(18歳)。同学年の藤井聡太二冠(18歳)よりもわずかに早く生まれている、現役最年少棋士です。遠からぬうち、記録係ではなく挑戦者としてタイトル戦の舞台に登場することもあるかもしれません。

 七番勝負の第1局なので先後を決める振り駒がおこなわれます。伊藤四段は畳の上に白布を敷いて準備をします。

 本局、振り駒をおこなうのは松井三郎・掛川市長。5枚の歩を放ったところ、表の「歩」が5枚出て、渡辺王将の先手と決まりました。

 盤側には将棋連盟会長の佐藤康光九段(51歳)と立会人の森内俊之九段(50歳)が座っています。どちらも黄金世代の大棋士。王将位獲得は、佐藤九段2期、森内九段1期です。

 9時。森内九段が声を発します。

「定刻になりました。渡辺王将の先手番で対局を開始してください」

 一呼吸をおいて、渡辺王将は初手、飛車先の歩を突きました。

 対して永瀬挑戦者も同様に飛車の前の筋を一つ進めます。

 ここで関係者、報道陣は退出。その間、渡辺王将は茶碗にお茶をついで一服しました。

 盤上はまず角換わり。そこから渡辺王将、永瀬挑戦者ともに銀を中央、中段に進める相腰掛銀となりました。両者の対戦でも多く現れている、現代最前線の戦型です。

 41手目。渡辺王将は中段に桂を跳ねました。桂はあともどりのできない駒。前に進んだ以上は不退転の決意で攻める意思をあらわしています。1日目午前から風雲急を告げる激しい展開となってきました。

 王将戦七番勝負は2日制で持ち時間は8時間。1日目は昼食休憩をはさみ、18時に手番の側が次の手を封じて、指し掛けとなります。2日制未経験の永瀬挑戦者が、初めて封じ手をするかどうかも注目されます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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