「手段の目的化」に陥らない!――「本当に本当に分析」とは?
「なぜなぜ分析」という言葉があります。何らかの問題が起きたとき、『真因』を見つけるうえで「なぜ?」を5回以上唱えるべきだ、という考え方です。いっぽう、仕事をやった気になっている人に対して、本来の『目的』を見つけてもらうために「それで?」を5回以上唱えるやり方を、私は「それでそれで分析」と呼んでいます。
上司:「社内のコミュニケーションを活性化するために何か対策しろと言ったはずだ」
部下:「はい。コミュニケーション活性化のためにどうすべきか、打合せを繰り返しました」
上司:「それで?」
部下:「え? それで……? ええっと……。それで、もっと相互理解を深めようという話になりました」
上司:「それで?」
部下:「そ、それでですね。それで……打合せは終わりました」
上司:「それで?」
部下:「それで、その、ええと……。それで、次の打合せをしないといけないと思っています」
上司:「それで?」
部下:「それで、私がその打合せの日程を決めます」
上司:「それで?」
部下:「全員と打合せをして、今度こそはキッチリとやるべきことを決めていきます」
上司:「それで?」
部下:「それで、次回の打合せの後は、きっちり行動に落とし込んでやり切っていきます」
上司:「そうか、頼んだぞ」
このように「それで?」を繰り返すことで、相手の思考を未来に向けることができます。この「それでそれで分析」はいろいろな応用ができます。たとえば「手段の目的化」に陥っている人にも使えます。
上司:「今期の売上がダウンしている。どうするつもりだ?」
部下:「はい。営業支援システムを導入し、営業活動を見える化していくつもりです」
上司:「それで?」
部下:「え? それで? それで……営業活動が見える化することで、営業が自分でどこに問題があるか気付くと思います」
上司:「それで?」
部下:「そうすることで営業が主体的に問題を解決し、受注件数も増えていきます」
上司:「それで?」
部下:「受注件数が増えれば自然と売上がアップするはずです」
上司:「……」
確かに、「それで?」を繰り返すことで「システムの導入」という手段にではなく、その先の真の目的に意識をフォーカスさせることができるでしょう。ただ、「システムの導入」 → 「活動の見える化」 → 「気づきの誘発」 → 「主体的な問題解決」 → 「受注件数のアップ」 → 「売上アップ」となるのでしょうか? 本当にそうなるのでしょうか? ここが重要です。確かに思考は未来に繋がっていくでしょうが、ひとつひとつの言説が論理的に繋がっているかを確認しなければなりません。
ですから「それでそれで分析」に「本当に?」を加えます。「それで?」「本当に?」を状況に応じて繰り出すのです。言われたほうはたまったものじゃありませんが、相手の頭を整理させるのには効果的です。
上司:「今期の売上がダウンしている。どうするつもりだ?」
部下:「はい。営業企画部ではブログを書こうと考えています」
上司:「それで?」
部下:「ブログを書くことで、ブログの訪問者に私たちの商品をアピールできます」
上司:「それで?」
部下:「そうすることで売上がアップします」
上司:「本当に?」
部下:「えっ?」
上司:「本当に?」
部下:「え、ええと……。ブログで訪問者が増えますから、そりゃあ……。いや、待てよ。た、確かに、そう簡単に訪問者が増えるんだろうか……」
上司:「それで?」
部下:「訪問者はそう簡単に増えないと思いますので、もっと研究しないといけません」
上司:「それで?」
部下:「そ、そうですね。正直言って、ブログでやっても簡単に商品は売れないような気がしてきました」
上司:「それで?」
部下:「そこでフェイスブックページをやったらいいと思います。それならブログよりも簡単に集客できるでしょうから」
上司:「それで?」
部下:「それで……。集客できたら、商品も売れると思います。そうすることで売上がアップして……」
上司:「本当に?」
部下:「え?」
上司:「本当に?」
部下:「本当にって……? うーん……。どうなんでしょう……。そうか、フェイスブックページもブログと同じか……。うーん」
「手段の目的化」に陥っている人は、目的を果たすことに意識が向いていないため、その手段と目的とが正しく繋がっているか? 本当にそれをすることで次の展開へとスムーズに移行するのか? を考えていません。ですから「本当に?」と問い掛けられると、ほとんどの人が混乱してしまうのです。
部下:「フェイスブックページで集客できたら、商品も売れると思います」
上司:「本当に?」
部下:「はい。ただし半年間ぐらいは時間をください。だいたいそれぐらいの期間、正しく更新していくことで閲覧者は1万人を超え、順調に商品も売れていくと思います」
上司:「本当に?」
部下:「はい。競合他社の取組みを見ると、閲覧者は5万人を超えているので、当社が今からスタートさせても1万人の閲覧は堅いと思います」
このように定量的な数字で物事をとらえていれば、「論拠」と「主張」は繋がっていると考えられます。こう答えられる人は「手段の目的化」に陥ってはいません。
「会議をします」「資料を作ります」「システムを導入します」「ブログを書きます」「イベントやります」……などと、いつも手段を目的化ばかりして、真の目的を理解できていない人には「それでそれで分析」とともに「本当に?」を5回以上唱える「本当に本当に分析」を加えると効果的でしょう。
もちろん、詰問調で問いただそうとすると関係を悪くするだけですので、十分に気をつけるべきですね。