なぜ、今年は多くのお笑いコンビが解散したのか。その根底にあるものとは
12月12日、漫才コンビ「和牛」が解散を発表しました。
2016年から18年まで3年連続「M-1グランプリ」で準優勝。実績も知名度も実力も十分。あとは円熟期を迎えるだけ。そんな中での発表だけに、大きな衝撃を与えました。
「和牛」のみならず、今年は「コウテイ」、「ジュリエッタ」、「コマンダンテ」、「ゾフィー」、「ANZEN漫才」ら多くの人気コンビ、実力派コンビが解散しました。
なぜ、解散が相次いだのか。
仕事柄、そこに対する考察や理由付けを求められることもありますが、味もそっけもない返しをするならば「共通項や理由なんてない」。これが唯一の正解だと考えます。
コンビそれぞれの精緻極まりない形。芸人さんの世界の気が遠くなるほどの奥行き。難解さ。努力だけではどうしようもない、全てを残酷に押し流す現実。
いろいろなことがそれぞれのコンビに起こり、それぞれのコンビの判断で解散を選ぶ。ここに、安易な共通項などあるわけがありません。
それが大前提です。
ただ、一つの事実として、多くの芸人さんが言っている現実もあります。「芸人の数が多すぎる」。これは頻繁に聞くワードでもあります。
オール巨人さんや西川のりおさんら大御所の皆さん。そこまでいかなくとも、50代、60代のベテラン芸人さんに話を聞いた時に、みなさんがおっしゃるのが「今の子はホンマに大変やと思う」という言葉です。
「ダウンタウン」や「トミーズ」「ハイヒール」らを生み出した吉本興業の芸人養成所「NSC」ができるまでは、芸人の世界に入るには基本的に弟子入りしか方法がありませんでした。
一人の師匠が一人の弟子を取る。お弟子さんを何人も取ることもありますが、それでも、そういったレベルでの人数増です。
ところが、NSCは学校です。年間数百人が大阪校だけでも入ってくる。もちろん、東京にもNSCはありますし、吉本興業以外にも大手プロダクションが養成所を持つことが当たり前になっていった。その中でも世に出るのはごく一部ですが、ひとまず“裾野”はすさまじいまでに広がりました。
さらに、ここ20年ほどで起こっているのが“チャンピオン過多”現象です。
2001年スタートの「M-1グランプリ」から始まり、ピン芸の「R-1グランプリ」、コントの「キングオブコント」、女性芸人対象の「THE W」、中堅芸人対象の「THE SECOND」など全国レベルの賞レースが次々に誕生しました。
面白い芸人が世に出る。そのための場として、賞レースは非常に大切なシステムです。どの賞レースも苛烈ですし、そこで勝ったチャンピオンの値打ちはすさまじいものです。
ただ、今の5つの大会だけでも、当たり前の話ながら、年間5組のチャンピオンが誕生します。優勝こそできなかったものの、準優勝して大きなインパクトを残した人もいる。正式な賞レースではないものの、若手の登竜門的な場になっている「おもしろ荘」などもある。
要は、チャンピオン、もしくは準チャンピオン的な人がどんどん生まれています。1年間でそういった存在が10組生まれるとしたら、10年間で100組。何かしらの肩書を持っている芸人さんだけで、それだけの組数がいることになります。
ただ、劇場にしろ、番組にしろ、出られる芸人さんの数はその増加率からは程遠く、せいぜい微増くらいです。となると、若手は若手、中堅は中堅で、何かしらの壁にぶつかることが多くなる。その結果、身の振り方を考えることにもなります。
とはいえ、コンビの解散はそれぞれの事情で、それぞれが考えた結果。この大原則は変わりません。
そして、芸人さんにとって一番大切な面白さをネタで競う賞レースの存在を誰も否定はできません。
それが現実。現実ではあるものの、面白い芸人さんを世に出すためのシステムとして「笑いに勝ち負けをつける」。芸人さんを世に出すために必要不可欠な方法論として確立されたことの積み重ねが、芸人さんの“生態系”に変化を与えている。もし、それがあるとしたら、皮肉なことでもあり、致し方ないことでもあり、どこまでも難しい話でもあります。
それでも、賞レースで勝てば、スターへの道は広がる。それは事実です。答えの出ない世界で、答えを出すのも芸人さんの馬力。
そこを信じつつ、一つの過渡期を感じもする。2023年とはそんな年だと考えています。