“日本一の親不孝者” 籠池佳茂氏は 森友事件を何も知らない
森友学園の籠池前理事長夫妻の長男、籠池佳茂氏。彼がツイッターで大騒ぎしています。森友事件で命を絶った財務省近畿財務局職員、赤木俊夫さんの遺書と手記が公表され、数多の新事実が明らかになったから。何ら真相解明が行われていないこと、遺族が真相解明を望んでいることが明らかになったからです。ところが、その騒ぎ方があまりにもけしからんのです。
「この話は解明されている。今更蒸し返す話ではない」と書いた上で、あろうことかこんなことを書いています。「故人は既に労災認定されている」…赤木さんは公務員だったので労災ではなく公務災害の認定ですが、まあそれは彼の知識がないだけだからよしとしましょう。それより彼は、赤木さんが公務災害と認定されたから、妻が補償金をもらったから、もういいだろうと言いたいのでしょうが、そんな発言が許されますか?
そもそも妻の昌子さん(仮名)はお金がほしくて裁判を起こしたのではありません。俊夫さんがやらされた森友事件の公文書改ざんを巡る真相を知りたいからです。訴状にもそう明記されていますし、報道もされています。彼は訴状はもちろん、ろくに記事も読んでいないとしか思えません。
さらに彼はこんなことを訴えています。「本当に森友の真相究明をするなら私を国会に呼んで下さい。事の経緯を全て話します」…もはや看過できないレベルに達しています。
彼のツイッター画面には「森友学園騒動は朝日新聞社の捏造報道が発端です。総理夫妻に責任はありません。左翼に洗脳された両親を救い出したい」と書かれています。私が「近畿財務局職員の三回忌に森友事件の本丸を考える」という記事を3月9日、Yahoo!ニュースに出した際、複数の方から「佳茂氏に話を聞くべきだ」という趣旨のツイートを頂き、それに何人もの方が「いいね」やリツイートをしています。
でも、佳茂氏は森友事件について何を語れるというのでしょう?
佳茂氏は森友事件を語る資格はない
そもそも彼は長らく両親と絶縁していました。森友事件の焦点となる国有地の取り引きと不当な値引きが行われた頃は一切関わっていませんから、その実態を知るよしもありません。
彼が両親の元に戻ってきたのは3年前。朝日新聞の報道が端緒になって森友事件が政治問題になり、森友学園が小学校の認可申請を取り下げた時です。朝日新聞の報道は彼が言うような“捏造”ではもちろんなく、朝日新聞はその後、森友事件をめぐる公文書改ざんの報道で新聞協会賞を受賞しています。その改ざんを近畿財務局で無理矢理やらされたのが赤木俊夫さんでした。
佳茂氏が両親の元に戻ってしばらくして、籠池前理事長が国会で証人喚問されます。関係者が集まって事前に対応を協議しましたが、彼は話にちっとも加わろうとしなかったと、協議に参加した人が証言しています。学園の運営も理事長を継いだ長女の町浪さんが中心で、彼はまったくタッチしていません。
つまり佳茂氏は森友事件の真相、国有地値下げの経緯を何も知らないし、森友学園の内情も知りません。森友事件について「総理夫妻に責任はありません」と断言できる根拠は何もないし、「この話は解明されている」と言える根拠も何も知らないはずです。知らないのに知っているかのような本を出すのは読者への裏切り行為、もっと言えば“詐欺商法”と非難されても仕方ないでしょう。彼は語る資格のないことを語っているのです。
安倍首相夫妻と森友学園の関わりは…
安倍首相の妻の安倍昭恵さんが問題の国有地に建つ小学校の名誉校長に就任していたことは紛れもない事実です。昭恵夫人付きの政府職員がこの国有地をめぐり財務省に連絡を取ったことを示すFAXがあるのも間違いなく事実です。
籠池前理事長は「昭恵夫人を通して小学校について安倍首相にも相談していた。昭恵夫人が『安倍晋三からです』とはっきり言いながら100万円を寄付してくれたこともある」と証言しています。安倍首相はこれを否定していますが、真相は藪の中です。
これだけの状況があるのですから、「責任はない」と言い切るにはそれなりのきちんとした根拠が必要です。しかし佳茂氏はその根拠を示していません。
両親支持から180度態度を変えた
私は佳茂氏に一度お会いしたことがあります。籠池夫妻が補助金事件で大阪地検特捜部に逮捕・起訴され約300日間も拘置所に勾留されていた時。彼は大阪地検前で支持者の人たちと抗議行動に参加。「両親をすぐに出せ!」と声を上げました。
この時、私はNHKの記者として取材にあたっていました。抗議行動後、彼と短時間ですが話す機会があり、名刺をお渡ししました。当時、彼はまだ両親の側に立って安倍政権を批判していました。その後、態度を180度変えて、安倍首相支持、両親批判に回ったのです。
もっとも籠池夫妻自身、もともと安倍首相シンパだったのが、事件をきっかけに安倍首相に切られたとして180度態度を変え、今では安倍首相批判の急先鋒に立っているわけですが。
佳茂氏から対談の申し込みはない。逃げているのは彼の方
私が3月9日にYahoo!ニュースに出した「近畿財務局職員の三回忌に森友事件の本丸を考える」という記事に対し、「佳茂さんが対談を申し込んでいるのになぜ応じないのか?」という趣旨のツイートを頂きました。同趣旨のツイートはこれまでも頂いているのですが、私は彼から直接対談の申し入れを受けたことはありません。
彼はツイッターで、東京新聞の望月衣朔子記者、朝日新聞の南彰記者(現新聞労連委員長)と私の3人との対談を提案したことがあるようです。しかし私は対談について彼から何も受け取ったことはないし、電話でもメールでも申し出を受けたことはありません。接触もありません。にも関わらず私が「対談から逃げた」と思っている方が多いようです。
対談に限らず、他人に何かを依頼したり提案したりする場合は、直接相手に申し入れるのが社会人の常識というものです。彼はそういう常識を持ち合わせないのでしょうか? あるいは本当に対談に応じられると困るから、彼の方こそ逃げているのでしょう。
佳茂氏は両親に巨額の借金を返すべき
佳茂氏にはさらに重大な疑問があります。籠池前理事長は2月、補助金詐欺事件の一審判決を前にライターの赤澤竜也氏と共に「国策不捜査」という本を出しました。その本によると、そもそも籠池夫妻が佳茂氏と絶縁したのは彼が事業名目で夫妻に借りた2500万円を返済しなかったから。森友事件が起きて彼が戻ってからも、夫妻が将来、補助金事件の保釈金にあてようと預けた現金のうち900万円を使い込んでしまったというのです。
これが事実なら佳茂氏は一刻も早く両親に返済すべきです。両親は保釈金や裁判費用の工面で苦労しているのですから。違うというならきちんと反論すべきですが、彼がこの件で反論したという話は聞いたことがありません。
親に“たかる”「日本一の親不孝者」
ですが実際に彼がしているのは「両親は安倍首相に謝れ」と言い募ること。象徴的だったのは安倍首相が去年の参議院選挙の応援で大阪に街頭演説に来た時。籠池夫妻が演説会場を訪れると、佳茂氏は「おい、籠池!「安倍さんに謝れ!」長男・佳茂より」というプラカードを掲げて、両親が演説を聞くのを妨害しました。両親を呼び捨てにするプラカードを掲げて…
籠池夫妻については、今のスタンスを評価する声、かつての教育方針や言動を批判する声、様々にあります。それについて私の考えはYahoo!ニュースに出した先の記事に書いた通りです。以下にリンクを貼りますが、一言で言うと「どちらにもくみせず、あくまで籠池夫妻への捜査や裁判が不当なものでないかという視点で取材する」というものです。
https://news.yahoo.co.jp/byline/aizawafuyuki/20200309-00166759/
長男、佳茂氏について私が籠池前理事長に尋ねると、ぽつりと「お恥ずかしい限り。不徳の致すところです」という答えが返ってきました。自らを恥じ入るばかりで長男を責める言葉はありません。親として我が子を悪くは言いたくないという思いがにじんでいました。
一方、佳茂氏の言動は、両親に借りたお金を返さない、預かった資金を使い込む、両親が“洗脳されている”と公然と批判する、両親を貶める形で名前を使って本を出す…これらのことが事実なら「親にたかっている」と言われても当然の行為ではないでしょうか? 違うと反論しないのなら事実だとみなされても仕方ないでしょう。
そんな佳茂氏には謹んで“日本一の親不孝者”という称号を贈りたいと思います。いささか時代がかっていますが、これほど彼にふさわしい言葉はないでしょう。佳茂氏は恥じ入って発言を慎むべきです。もっと言えば、あなたを信じて本を買った皆さんにおわびして返金すべきです。少なくとも印税収入で早く両親に返済すべきです。
それでも、彼が謝ってくれば、籠池夫妻はまた受け入れるのでしょう。親心で。
【執筆・相澤冬樹】