米Meta「メタバースから撤退」は誤り
4月24日、Twitterで「メタバース」がトレンドに入り、米Metaがメタバース事業から撤退するとの憶測が広まっていたようです。
その元となった記事には追記がされており、誤報といえそうですが、こうした見方が広まる背景を考察してみます。
コスト削減に追われるMeta
今回の騒動の元になった記事には、英国のMetaからのコメントが追記されており、「メタバース・ビジョンに向けた計画は中止していない」と明確に否定しています。
主要な海外メディアはメタバース撤退などとは報じておらず、またMetaの株価にも大きな動きはみられません。
そのため、Metaがメタバースから撤退するという見方は誤りといえそうですが、こうした見方が広まる背景として、メタバースへの期待感が下がっていることが考えられます。
Metaが置かれている状況をあらためて整理してみましょう。Metaは2021年にFacebookから社名を変更し、メタバースに社運を賭ける姿勢を示したものの、盛り上がりに欠ける展開が続いていることはたしかです。
しかし、もともとMetaはメタバースの立ち上げを5〜10年単位での計画としており、収益に貢献し始めるのは2030年代との見通しを示していました。
また、MetaのSNS事業は投資家の期待を大幅に下回っているとはいえ、Twitterのようにいつ潰れてもおかしくない状況にはありません。2022年1月〜12月には営業利益として約3兆9000億円を計上しています。
問題は、景気減速に伴うデジタル広告市場の伸び悩みやSNS事業におけるさまざまな逆風により、SNSで稼いでメタバースに投資するというスキームの雲行きが怪しくなってきたことにあります。
コロナ禍において、MetaのSNS広告売上は前年比20〜30%増の勢いで伸び続けたのに対し、最近は前年割れが続いており、営業利益は伸び悩んでいます。その一方で、メタバースを含むReality Labs部門の赤字は増加傾向にあります。
その結果、2022年初頭に約330ドルだった株価は11月に約90ドルまで下落。投資家やアナリストからの吊し上げをくらったザッカーバーグ氏は2023年を「効率化の年」と位置付け、大規模な人員削減に踏み切っています。
もちろん、従業員には何の罪もないわけですが、テック業界では人材の囲い込み競争が激化し、Metaも肥大化していたとみられます。年収19万ドル(約2600万円)で雇われたのに仕事がなかったという元従業員は、その象徴といえそうです。
この効率化の取り組みに加えて、米国におけるインフレ(と利上げ)が落ち着きそうな兆しが見えてきたことから、2023年に入ってMetaの株価は復調傾向にあります。
Metaはまだまだ成長が期待される立ち位置にいることから、利益を株主に還元するのではなく、新規事業に投じることは妥当といえます。ただ、そのペース配分をちょっと考えてほしいというのが投資家の要求といえそうです。
SNSでもメタバースでも「AI」は重要
Metaは1-3月期の決算を日本時間で4月27日朝に発表する予定です。ここで何が出てくるかは分かりませんが、これまでの流れを踏まえると「AI」に大きな注目が集まるのは間違いなさそうです。
いま、AIといえば「生成AI」を連想する人が多いかと思いますが、ChatGPTや画像生成AIが流行る前からMetaはAIに取り組んでいます。これはAIがSNSでもメタバースでも重要な要素技術となっているためです。
SNSでは、米国で最大のライバルであるTikTok規制の風潮が高まっており、Instagramのリールをテコ入れするチャンスとなっています。そこで広告主向けに、生成AIで広告を作れるツールを提供できれば、魅力の1つになりそうです。
また、最近のMetaは映像を解析するモデルを作るための新たな技術を発表しています。これは将来的にメタバースでの活用が期待されていることから、メタバースを視野に入れたAI技術への投資はむしろ加速しているともいえます。
つまりAIにスポットライトがあたることで、一時的にメタバースの存在感が下がったように見える可能性はあるものの、Metaの長期的なビジョンは変わらないと筆者は予想しています。
追記:
Metaの決算発表でマーク・ザッカーバーグCEOは「AI」と「メタバース」の両方に注力していることを強調。メタバースを実現するというビジョンから遠ざかっているとの見方は正確ではないと語っています。