冷暖房完備の部屋で学生スポーツ(高校野球を含む)中継を観戦したくなるのは、なぜか?
人気ある大学、高校スポーツ
全国高等学校野球選手権大会をはじめ、テレビ中継のある高校スポーツ、箱根駅伝などのいくつかの大学スポーツは多くの視聴者を惹きつける人気あるイベントだ。
よりレベルの高い身体能力やプレーを観戦したいのであれば、プロの試合や代表戦、国際大会を観るほうがよい。しかし、高校生や大学生のスポーツをより好んで視聴するスポーツファンもいる。
筆者にとって、高校生や大学生スポーツ大会の観戦は新しい才能に出会う機会であり、それを楽しみにしている。それに、若い人の躍動感ある身体活動は、観ているだけのこちらの身体や脳も活性化してくれるような気もする。
トーナメント方式の一回勝負のおもしろさを好むファンもいれば、郷土の学校や母校の戦いぶりに力が入るという人もいるだろう。
夏の高校野球大会は大変な暑さの中、高校球児たちがプレーする。テレビ観戦する人たちは冷房の効いた室内で、というケースが多いのではないか。なぜ、大人たちはクーラーのある部屋で炎天下で開催される高校野球のテレビ中継を観るのだろうか。
米国の大学アメリカンフットボールから
米国の研究者が、冷戦時代における米国の大学生アメリカンフットボールがどのように捉えられ、どのような役割を果たしていたのかを調査したものがある。
DISCIPLINE AND INDULGENCE(JEFFREY MONTEZ DE OCA,RUTGERS UNIVERSITY PRESS)という書籍だ。
このなかに大変、興味深い考察があり、日本の高校、大学スポーツのテレビ中継に求められているものと重なる部分があるのではないかと思ったので、少しご紹介したい。
冷戦時代の早い時期(1947-1964)には、米国は楽観的なムードに包まれていたという。第二次世界大戦に勝ち、貧困の解消、欲しいものを手に入れられるようになってきた。多くの人が豊かさを享受できるようになった。
ところが、消費者として豊かさを享受できる生活は、いつしかソフトで軟弱な若者を大量に生み出すのではないかという懸念につながっていく。前の時代には、若い男性たちは汗水流して働いていたのに、モノが手に入りやすくなった便利な時代の若者は軟弱になっていくと不安視された。
しかし、米国では、より便利でより豊かな生活は市場経済、資本主義の恩恵によるものと考えられ、共産主義への警戒から否定できないものだった。若者の軟弱化の懸念と同時に、若い世代がよる便利な生活を手に入れることも認めなければいけないという葛藤があった。
ちょうど時期を同じくして、テレビの普及とテレビ中継技術の発達がしてきた。家にいながらにしてスタジアムの特等席に座っているかのような映像を見ることができるようになった。富裕層だけでなく一般の労働者たちもテレビを購入し、家にいながらにしてスポーツ中継を楽しめるようになった。
テレビ画面に映る学生アメリカンフットボールの選手は、豊かな時代にあっても、昔と同じように軟弱になることなく、たくましく試合をしている。アメリカンフットボールをしている学生たちはいつの時代であっても変わりなく、倒れても立ち上がる。このことに大人側は満足する。
なぜか。
アメリカは市場経済の恩恵を受けて豊かになった。若い人たちもそれを楽しんでいる。それでも、もし、ソ連や東側と戦いが勃発しても「いざという時には立ち上がることができる若者たちがいる」ということを学生アメリカンフットボールに求めていたのではないか、という考察だ。
もしかしたら、日本でも高校や大学スポーツの人気の裏に、より便利になっていく社会や世界状況にあって、いざとなれば無報酬であるのに、暑さや寒さをものともせずに、チームのために、身体の極限まで戦うことのできる若者像を求めているのではないだろうか。
大人たちは技術進歩の恩恵をうけ、冷暖房完備の部屋で指一本で動くテレビやデジタル端末で中継を見ているけれども、若い選手たちは便利すぎる生活のなかでも、これだけのことができるのだ、と。
変化を迫られた米国の高校アメリカンフットボール
スポーツは多様な楽しみ方ができる。見る側も違法や迷惑行為でない限り、どのような楽しみ方をしてもよいと思う。だから、高校生や大学生は報酬を得ることもないのに、暑さや寒さや過酷な環境をものともせず、身体の極限までプレーしていることを、観戦者が楽しむというのも自由だと思う。
しかし、いくら若いといえども、学生選手も生身の人間であり、身体を酷使することによるケガや病気のリスクはある。
米国では長年「アメリカ人男性のあるべきイメージ」を担ってきたアメリカンフットボールも変わりつつある。脳震盪の後遺症や熱中症による死亡事故がクローズアップされて以降、高校生のアメリカンフットボールの練習に制限を設けるようになってきていることも付け加えておきたい。