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なぜ松本人志、さまぁ~ず、バナナマンがキングオブコントの審査員に選ばれたのか?

ラリー遠田作家・お笑い評論家
(写真:毎日新聞デジタル)

2015年9月24日、コント日本一を決める大会「キングオブコント2015」決勝戦のネタ披露順と審査員が発表されました。ここで注目されたのは審査員の顔ぶれです。ここ数年、「キングオブコント」では、準決勝で敗退した芸人100人による審査が行われてきました。ところが今回、初めて新しい審査システムが導入されたのです。それは、出場芸人以外の審査員が審査をするという形です。その顔ぶれは、松本人志(ダウンタウン)、さまぁ~ず、バナナマンの5人。5人とも確固たる人気と実力を兼ね備えた大物芸人です。この大胆なシステム変更が行われた理由はいったい何でしょうか? 理由は大きく分けて3つ考えられます。

1つは、従来のシステムの欠点を解消したかった、ということでしょう。どんな審査システムにも一長一短があります。従来の予選敗退芸人100人による審査にも、いくつかの欠点がありました。その中で最も代表的なものは、審査する芸人と視聴者との間に意識のズレが生まれやすい、ということです。

準決勝で敗れた芸人の多くは、決勝に進んだ芸人とほぼ同じ立場で、普段は同じようなライブに出て切磋琢磨し合っている仲間です。ということは当然、お互いの手の内は知り尽くしています。どういうネタを持っていて、今年はどういうネタで勝負をかけているのか。お互いのことがほとんどすべて分かっている状態なのです。

その場合、「昔からやっている鉄板ネタ」と「最近新しく作ったネタ」のうち、芸人同士だとどうしても後者を高く評価したくなるのです。そのような偏りを減らしてなるべく公正な審査をしたい、というのが制作者の判断だったのでしょう。もちろん、芸人は笑いのプロですから、そういった要素も考慮した上で、これまでにもできる限り公正な審査をしてきたかもしれません。それでも、どういうネタなのかすでに知っている芸人と、まだ知らない視聴者との間には、その評価や印象に微妙な差が出てしまうのは避けられません。その差を少なくするためには、お笑いライブをほとんど見ていないような格上の芸人が審査員を務めるのが最善策だと思われたのでしょう。

もう1つは、松本人志さんを審査員にすることで大会の権威を高めようとした、ということです。松本さんのお笑い界における圧倒的な影響力とカリスマ性については今さら記すまでもありません。特に、「キングオブコント」に出場するような芸歴5~20年程度の芸人の大半にとって、松本さんは絶対的な笑いの権威です。そんな松本さんが審査員としてネタをきちんと見てくれる、そして評価をしてくれるというのは、出場する芸人たちにとって何よりも貴重な機会なのです。

松本さんの影響力が強いことを示す証拠が1つあります。普通、この手のお笑い賞レース番組では、司会者は審査員や観客と一緒に壇上で芸人たちの披露するネタを見守るものです。「M-1グランプリ」でも「R-1ぐらんぷり」でも、そういう演出が採用されてきました。ところが、ダウンタウンの2人がMCを務めていたこれまでの「キングオブコント」では、そうではありませんでした。司会のダウンタウンは、コントが始まると舞台裏に引っ込んでしまうのです。そして、ネタが終わると再び舞台に現れます。

なぜそんなことをする必要があるのか? それは、ダウンタウンが表に出ていると、2人がどこで笑うか、何を面白いと思っているかということがあきらかになってしまい、それが会場にいる芸人の審査に影響すると考えられるからです。いわば、松本さんのカリスマ性があまりにも大きすぎるために、このような例外的措置がとられてきたのです。今年の「キングオブコント」では、従来の枠を破り、松本さんが初めて芸人たちのコントをまっすぐに見て、評価を下します。そのこと自体が歴史的な大事件なのです。

第三の理由として、視聴率を取りたいから、というのももちろんあるでしょう。「キングオブコント」の視聴率は年々下降していて、2014年には過去最低の8.3%(関東地区)を記録しています。ゴールデンタイムの特番としてこのままでは存続が危ぶまれる状態です。もともと、これから世に出るような若手芸人が登場する大会である以上、一般からの注目度が落ちてしまい、数字が伸び悩んでしまうのは避けられません。視聴率をアップさせるための手段として、さまぁ~ず、バナナマンという好感度の高い芸人2組を審査員に選んだのでしょう。

「キングオブコント2015」の決勝戦がTBS系全国ネットで放送されるのは10月11日。リニューアルされた審査システムで生まれ変わったこの大会で優勝するのは、果たしてどのコンビなのでしょうか?

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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