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中山秀征が語るタレントの矜持

中西正男芸能記者
4年ぶりにライフワーク的コンサート「ヒデライブ」を開催する中山秀征さん

 日本テレビ「シューイチ」の司会、そしてバラエティー、芝居など幅広く活動する中山秀征さん(56)。新型コロナ禍でストップしていたライフワーク的コンサート「ヒデライブ」(11月30日、ヒューリックホール東京)も4年ぶりに開催します。あらゆる仕事をする“タレント”という道を歩む中で求められる覚悟とは。

代わりはいくらでもいる

 2019年以来「ヒデライブ」を4年ぶりに開催することになりました。

 コロナ禍でライブも開けない。街歩きのロケもできない。毎日のように仕事仲間と飲みに行っていた僕が真っすぐ家に帰るようになった。

 そんな中、今一度自分の足元を確認する時間ができた。それは強く感じています。自分の仕事の根っこは何なのか。何が大切なのか。見つめ直すきっかけになったなと。

 タレントって「自分がやりたいこと」も大切なんですけど「与えられた時にできるか」。これが非常に大切になんです。「これをやってくれる?」と言われた時に「できない」と言ったらそれで終わり。そして「できる」と言った以上は「やるしかない」のがタレントなんですよね。

 それとね「自分がやりたいこと」以外の、ある意味「やらされること」もすごく大事なんです。気づいてなかった自分を教えてもらうことになりますから。それを重ねていくと、いわゆる「引き出しが増える」ということにもなりますし、やったことがなくてもその引き出しの中身を使って、何とか対応することができるようにもなりますしね。

 かつて立川談志さんに言われた言葉があるんです。

 「ヒデ、オレらの仕事は囃されたら踊るんだよ。『やってくれよ』と言われたら『あいよ』とやるのが芸人なんだ。そこで『いやいや、自分はそういうタイプじゃないから』なんて言うヤツは辞めちまえってことだ」

 頑なに自らの道を歩んでらっしゃるイメージのある談志さんですけど、人前で何かをやる仕事を選んだ以上はその思いを持っておく。ベースとしてそこがおありだったと思いますし、この言葉は大きなものとして存在しています。「できない」と言ったら、代わりはいくらでもいる。そんな世界でもありますしね。

 さらに言うと、もし、その時点ではできなくても、期日までにできれば「できます」はウソじゃなくなるわけです。ウソも方便じゃないんですけど、堂々とそれをやりきる勇気があるのか。やり続ける覚悟があるのか。この仕事の肝の部分はそこだとも僕は思っています。

 ずっとフジテレビで放送されていた「新春かくし芸大会」(1964年~2010年)。僕も20年以上、出していただきましたけど、あれも言ってしまえば、本当の意味のかくし芸ではなく「期日までに何とかできるようになった芸をお見せする場」ですから(笑)。

 1カ月で津軽三味線を弾けるようになる。フラフープの世界チャンピオンがやっている技を全部できるようになる。ありとあらゆるヨーヨーの技を身につける。その道の一流の方が何十年もかけてつかんだ技術をも短期間で覚える。何が何でもやり遂げる。そんな積み重ねをしていくことで、中山秀征というタレントのリズムが出来上がっていったんでしょうね。

 そうやって期日までに何とか作ったかくし芸が、結果、自分の財産になり、本当に芸になっていくんです。これも本当にありがたいことです。

作りもの

 テレビにも本当に長くお世話になってきましたけど、テレビが出すものの種類がこの30年くらいでも、大きく変わってきたと感じています。

 今のテレビは“作りもの”がなくなっている。僕らが見ていた頃のテレビには、この“作りもの”がたくさんありました。例えば、志村けんさんのコント番組なんかはそれの最たるものでしょうし。

 逆に、1992年に「DAISUKI!」(日本テレビ)が始まった頃は「3人で街をぶらぶら歩いてるだけの番組なんて、何やってんだ」と言われました。

 そう言われたのは、当時は“作りもの”がたくさんあったからです。その感覚からすると「釣った魚を生のまま塩で食べるみたいな番組、何が料理なんだ!」みたいな声が出たのも当然だと思います。

 ただ、それが少しずつ「調理の手間もないし、それはそれで美味しいし、新鮮だし、喜んでもらえるならいいんじゃないか。お金もかからないし」という味が増えてきました。そして、今はその味が主流になりました。

 なので、今は“作りもの”のレシピを知らない若いディレクターさんも多いんです。そもそも、そんなものを作る発想もないのかもしれない。「昔のテレビはお金があったから」というあきらめもあるのかもしれない。

 でも、むしろ、今の方があらゆる技術も上がっているし、実は今の方がはるかに作りやすいんです。タレントのポテンシャルも上がっている。起こったことを見せるのではなく、作ったものをお見せする。ただ、それを作ろうという機会と機運がない。

 だからこそ、それを知っていて、それが好きな僕なんかが何かやる意味があるのかなと。「ヒデライブ」もそうなんですけど、歌って、おしゃべりして、コントもして「こういう形もあるんだよ」を見せる。それがかつての「今夜は最高!」(日本テレビ)みたいな番組につながったら、それこそ最高なんですけどね(笑)。

 さらに、これはもう一歩入り組んだ話になるのかもしれないですけど、今流行っているものをやるということは、その流れの最後尾につくということです。流行っているということは、すでにその味を出しているお店がたくさんあるということですから。もうレシピがあるから簡単ではあるんですけど。

 でも“鶏口牛後”じゃないですけど、何とか牛のしっぽにつかまっているよりも、鶏の頭を目指す。鶏がいずれ牛になれば、牛の頭になるわけですから。そんな考えも自分の中にあるんですよね。

 歳のことを言うのもアレですけど、僕は一つの目標として60歳という節目を意識しています。そこまでに「ヒデライブ」も完成形にしておきたいと思いますし、それをテレビの世界に持っていきたいとも思っています。

 「またいつか、落ち着いた時に」なんて考えてたら、どんどん歳をとっていきますしね。とにかくやるしかない。ずっと“かくし芸前”みたいな人生ですけど(笑)、それが自分の生き方になっていると思いますし、これからもこの道を歩んでいこうと思っています。

(撮影・中西正男)

■中山秀征(なかやま・ひでゆき)

1967年7月31日生まれ。群馬県出身。ワタナベエンターテインメント所属。俳優を志して劇団に入団し、日本テレビ系「火曜サスペンス劇場 狙われた女教師」で82年に芸能界デビュー。85年、松野大介氏とお笑いコンビ「ABブラザーズ」を結成する。コンビ解消後はタレントとして活動。92年から出演した日本テレビ系「DAISUKI!」で、松本明子や飯島直子らとの息の合ったやり取りでも注目を集める。現在、日本テレビ系「シューイチ」でMCを務める。11月30日に東京・有楽町のヒューリックホール東京で「ヒデライブ2023~令和もDAISUKI~」を開催する。飯島直子、松本明子、はるな愛らも出演する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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