「彼は私のお気に入り」板倉滉を愛するオランダ人解説者
「俺はクラブとまだ何も話してないですよ」。そう、板倉は繰り返す。しかし、フローニンゲンは昨年12月頃から板倉の退団を見越して動いている。
冬の移籍市場で、フローニンゲンはテ・ウィーリク(28歳)というセンターバックを獲得したが、彼の場合はダービー・カウンティ(イングランド・チャンピオンシップ)で出場機会を無くしていたため、即効性のある補強として古巣のフローニンゲンがとったもの。『板倉の後継者』の本命は、オランダ2部リーグのアルメレ・シティでプレーするバルカー(22歳)だった。
早くチームに馴染ませるため、フローニンゲンは冬の移籍市場でバルカーを獲得しようとしたが、それをアルメレ・シティが拒んだ。アルメレ・シティとバルカーの契約は今季いっぱいで切れる。新シーズン、フローニンゲンは移籍金ゼロでバルカーを獲得することが内定した。
※バルカーの獲得を発表するフローニンゲン公式ユーチューブチャンネル(契約は来季から)
昨秋辺りから、「今季限りで板倉がフローニンゲンを退団するだろう」ということが報道されていた。
オランダリーグで安定したプレーを披露し、リーグを代表するセンターバックの一人になりつつある板倉に対し、保有権を持つマンチェスター・シティはより高いレベルでプレーさせたいという意向を持っていること。また、マンチェスター・シティが4シーズンも続けて板倉をフローニンゲンに貸し出すことは現実的でないこと(今季いっぱいで板倉はフローニンゲンで2シーズン半所属したことになる)から、フレデルスTDも「板倉の後継者探しをする」と認めていた。
板倉の名前をオランダ全国区に押し上げたのは、解説者・コメンテーターのハンス・クラーイ・ジュニア氏だろう。
昨年末、オランダテレビのサッカートーク番組は、フェイエノールトのセンターバック、セネシの移籍について討論していた。すると、クラーイ・ジュニア氏が「セネシの後釜はすでにエレディビジにいる」と語り始めた。
「それは板倉。彼は本当に本当に本当にいい選手。とても速く、大きく、両足でボールを扱う。マンチェスター・シティは『フローニンゲンはもう彼のことを(来季は)使うことはできない。我々は彼を一段上のレベルでプレーさせたい』と言っている」
翌日、板倉が練習場に行くとチームメートから「お前、フローニンゲンに集中しろよ(笑)」といじられた。何も知らない板倉は「それ、何?」と聞いて、テレビで自分のことが話題になっているのを知った。
2週間前、2月24日のフェイエノールト戦で、フローニンゲンは0対0で引き分けた。私が板倉と試合後のインタビューをしていると、中継を終えたクラーイ・ジュニア氏が「ハロー」と言って近づいてきた。
クラーイ・ジュニア「今、テレビの放送で私は『アヤックス、PSV、フェイエノールトは寝ている。板倉はオランダでベストのディフェンダー。アヤックス、PSV、フェイエノールトは今度の夏、板倉を獲得しにいかないといけない』と言ったんだ」
板倉「それは嬉しいですね」
クラーイ・ジュニア「マンチェスター・シティからのローンなんだよね?」
板倉「そうです。だけど来シーズンのことは、僕にもわからないんです」
クラーイ・ジュニア「私は試合後のフラッシュインタビューで、ファン・ヒントゥム(DF)に聞いたんだよ。『私の“お気に入りの選手(板倉のことを指す)”が君の横でプレーしているんだ。彼はアヤックスやPSVでプレーするクオリティーがあるかな?』って。そしたら『イエス!』って答えてくれた」
板倉「本当? ありがとう」
クラーイ・ジュニア「君は空中戦は強いし、スピードはあるし、小細工をせずにしっかり味方につなぐ。いいね!」
クラーイ・ジュニア氏は昨年11月8日のフェイエノールト対フローニンゲン(2対0でフェイエノールトの勝利)後も「いつか君とインタビューがしたい」と言って板倉と挨拶をしてきていた。板倉の移籍が話題になる前のことだ。純粋にクラーイ・ジュニア氏は板倉のことを気に入っている。それは間違いない。
1月17日のトゥエンテ戦後、板倉はこう言っていた。
「俺は(移籍について)何も言ってないですよ(苦笑)。何も言ってないけれど、記事に出ているし、日本と違って面白いことに、普通に(フローニンゲンの)強化部も言うじゃないですか。チームメートからもいじられますよ。だけど、自分はまったくブレてません。今は毎試合、毎試合、集中してやってますから全然問題ありません。周りがどうこう言うのはよくあることです」
前節、2月28日のフォルトゥナ戦では1対0の勝利に貢献し、全国紙『アルヘメーン・ダッハブラット』の週間ベストイレブンに選出された。今や、板倉は週間ベストイレブンの常連である。
そんな板倉のことを、フローニンゲンのバイス監督も「滉にはもっと長くフローニンゲンでプレーして欲しい」と願っているが「きっと夏には素晴らしい移籍が待っているだろう」と現実を受け入れようとしている。