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44本のホームランを打たれた36歳の投手が、年俸1000万ドルの契約を得る。迎え入れたのは…

宇根夏樹ベースボール・ライター
ランス・リン(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 今シーズン、大谷翔平は、44本のホームランを打った。一方、ランス・リンは、44本のホームランを打たれた。

 それぞれ、ア・リーグ最多と両リーグ最多。そのうちの2本は、同じホームランだ。5月31日に、大谷はリンと3打席で対戦し、2打席目と3打席目にホームランを記録した。この試合は、マイク・トラウト(ロサンゼルス・エンジェルス)もリンからホームランを打っている。ちなみに、今シーズン、大谷が打たれたホームランは18本だ。

 今オフ、大谷とリンは、どちらもFAになった。2人のうち、リンの新たな球団は、早くも決まったようだ。ESPNのジェフ・パッサンやニューヨーク・ポストのジョン・ヘイマンらが、セントルイス・カーディナルスとの契約合意を報じている。ヘイマンによると、2024年が年俸1000万ドルで、2025年は解約金100万ドルの球団オプション。1年1100万ドルということだ。出来高を含めると、2年2600万ドルになり得るという。

 今シーズンのリンは、被本塁打が多かっただけではない。シカゴ・ホワイトソックスとロサンゼルス・ドジャースで計183.2イニングを投げ、防御率5.73を記録した。この防御率は、150イニング以上の58人中、ワースト2位。ジョーダン・ライルズ(カンザスシティ・ロイヤルズ)の防御率6.28(177.2イニング)に次ぐ。FIPのワースト2も、5.62のライルズと5.53のリンが並ぶ。ライルズは、今オフのFA市場には出ていない。来シーズンは、2年1700万ドルの契約2年目だ。

 リンは、夏にドジャースへ移った後、11登板で64.0イニングを投げ、防御率4.36を記録した。ただ、被本塁打は16本を数えた。移籍前後を比べると、9イニング平均は2.11本と2.25本、対戦した打者にホームランを打たれた割合は5.2%と5.9%なので、移籍後のほうが悪化している。現在の年齢は36歳。来年5月に37歳の誕生日を迎える。

 もっとも、リンは、実績のあるベテランだ。今シーズンを除くと、11シーズン中7シーズンで規定投球回をクリアし、その7シーズンとも防御率4.00未満を記録している。そのうち、2014~15年、2017年、2020年の4シーズンは、防御率3.50未満だ。

 2008年のドラフトで全体39位として指名され、2017年のオフにFAとなるまで、リンは、カーディナルスに在籍していた。メジャーリーグ1年目の2011年は、ワールドシリーズの7試合中5試合にリリーフ登板。カーディナルスは、現時点では最後となる優勝を飾った。デビッド・フリーズが立役者となった、あのシリーズだ。

 カーディナルスは、リンについて、前回の在籍時のような投球は無理でも、ローテーションの一角を担うことはできる、と考えているのかもしれない。今シーズンの奪三振率9.36と与四球率3.28からすると――ドジャースに移籍後は奪三振率6.61ながら――その可能性はなくもない。その前の2シーズンは、2021年が157.0イニングで防御率2.69、2022年は121.2イニングで防御率3.99だった。

 しかも、カーディナルスは、先発投手を切実に必要としている。この夏は、FAまで数ヵ月の2人、ジョーダン・モンゴメリージャック・フラハティをトレードで放出した。200勝に到達したアダム・ウェインライトは、開幕前から予定していたとおり、シーズン終了とともにユニフォームを脱いだ。マイルズ・マイコラススティーブン・マッツはいるものの、若手のマシュー・リベラトーリザック・トンプソンは、どちらも、ドラフト1巡目の資質をまだ開花させていない。

 リンを迎え入れたのは、最初の一歩といったところだろう。ここから、リン以上に期待できる先発投手を手に入れようとするはずだ。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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