ヒットメーカー・三木康一郎監督 不倫コメディドラマ『じゃない方の彼女』は「笑わさなくていい」
秋元康企画・原作の話題のドラマ『じゃない方の彼女』を手がける
現在テレビ東京で放送中の、秋元康企画・原作の話題のドラマ『じゃない方の彼女』(出演:濱田岳、山下美月他/月曜23時6分~)。どこにでもいる普通の生活を送ってきた大学准教授(濱田岳)と、妻“じゃない方”の女子大生(山下美月)との道ならぬ恋をコメディテイストで描く不倫コメディだ。この、今までになかった全く新しい不倫コメディの演出を手掛けるのは、映画『トリハダ-劇場版—』(2012年)『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』(2016年)、『旅猫レポート』(2018年)、『弱虫ペダル』(2020年)、『10万分の1』(2020年)他や、ドラマ『東京ラブストーリー』(2020年)、『来世ではちゃんとします1.2』他、数多くの話題作を手がけるヒットメーカー・三木康一郎監督。三木監督にこのドラマについて(三木監督演出回は残り、第10話と最終回)、そして仕事をする上で貫いているその流儀、演出のポリシーを聞かせてもらった。
「僕も男女関係でいうと、どちらかといえば“じゃない方”で生きてきたので、楽しみながら作っています」
まず、自身のことを「じゃない方で生きてきた」と語る監督に、“じゃない方”という言葉をどう捉え、撮影に臨んだのかを聞かせてもらった。
「最初にタイトルと企画を聞いた時、“じゃない方”という言葉はもちろん知っていましたが、そこを突いてくるんだって感心しました。でも結局僕も、どちらかというと、じゃない方だと思うし、男女関係でいうとずっとじゃない方を生きてきたので、主人公の(小谷)雅也君の気持ちはすごくわかる。だから女性が主人公の作品は、僕はあまり正解を持っていないので、ある程度は女優さんに託しますが、今回は正解をいっぱい持っているので(笑)、雅也君のお芝居に関しては、すごく楽しみながらやりました」。
「雅也(濱田岳)がちゃんとやればやるほど面白い」
そこに存在するだけで思わずクスッとしてしまう、濱田岳演じる雅也のリアクションが、このドラマ全体の大きな空気を作っている。濱田はどんな役もこなせる、器用な役者というイメージがパブリックイメージになっているが、実はそうではないと監督が教えてくれた。
「結局雅也君はずっとリアクションのお芝居なので、笑って欲しいと思ってやっている部分と、でもあまりコメディっぽい方向に逸脱しないように、追い込まれたり喜んだり、怖いなって思った感情をリアルに表現してもらうところは、そんなに笑わそうとしなくてもいい、とずっと言ってきました。結局雅也君がちゃんとやればやるほどがおかしいので、そこで自然と面白さはついてくると思ったので、あまり派手に笑わそうという感じはなしでやりました。濱田さんはクタクタだって言っていました(笑)。濱田さんは器用って言われていますけど、家で相当考えて、練って現場に臨んでいると思います。それを現場で今思いついたようにやっているという感じです」。
「山下美月さんには、彼女が演じる怜子とほぼ同じ歳なので、あまり作らないで、ストレートに感情を出して欲しいとお願いしました」
雅也が務める大学に通う野々山怜子(山下美月)との偶然の出会いが続き、「偶然が3回続くと奇跡が起こるらしいですよ」と、怜子にロックオンされる。しかし愛する妻も子供もいる雅也は怜子と距離を取ろうとするが、“天然魔性”とでもいうべき怜子の言動や行動に、徐々にその沼にハマっていってしまう。怜子演じる山下美月を、どのような女優と捉えているのだろうか。
「今回初めてお仕事をさせていただいたのですが、撮影をしてくうちに、そういう表情するんだとか、男性に対して話し方ひとつとっても、こういう風にやるんだっていうのはやっていきながら発見がありました。怜子は一応小悪魔キャラクターですが、本人には、至って誠実で、自分の感情に素直で、真面目とまではいかないけど、ちゃんと芯の通った女性を演じて欲しいと言いました。小悪魔とか、男性をたぶらかす意識とかはなくても大丈夫という話をしたと思います。最初の方は、彼女なりにあざとい女性ってこうだろうというお芝居をやっていたと思いますが、僕はちょっと違うと思って。だったらもうちょっと普通に若い女性がやりそうな感じで、意識しないでやって欲しいと伝えました。彼女と怜子の年齢もほぼ同じなので、だからあまり考えないで、若い時って何に対しても真っ直ぐだったりするので、あまり作らないで、ストレートに感情を出してください、と」。
「面白いから、笑えるから観て!という感じで作っていなくて、全員が懸命に取り組んだものが熱量となって伝わっていると思う」
雅也の大学の先輩であり、悪友でもある片桐修一を演じる山崎樹範、雅也の母で人気恋愛小説家・小谷弘子を演じるのはYOU。雅也の妻・麗を演じるのは小西真奈美、他に強烈なキャラクター、多士済々の役者陣が揃い、不倫コメディでありながらも奥深い物語が展開されていく。
「今回は、ほら面白いから、笑えるから観て!という感じでは作っていないというか、みなさんもそういうお芝居をしていないし、全員がとにかく一生懸命やってくれたものが熱量として、伝わっているのではないでしょうか」。
「不倫は悪いイメージ。でも、人を好きになることは人間の心の中で一番多くを占めているもの。そこをクローズアップしたい」
企画・原作の秋元康はオフィシャルコメントで「ぐしゃぐしゃなラブコメができました」と語っているように、クスッと笑える部分はありながらも、純粋なラブストーリーとしての部分を色濃く感じる。
「世の中的には不倫は悪いイメージです。でもやっぱり人を好きになることというのは、人間の心の中で一番多くを占めているものなので、状況がどうあれ、悪いことではないと思うので、そこをしっかり立てていけば不倫というお題でもそんなに重くなく、いいことではないけど、人を好きになるということがどういうことなのかを描けると思いました。そこを全面に出していけば、ドロドロした不倫にならず、ちょっと笑えたりもするんじゃないかなと。音楽に関しても、あまりサスペンスとか怖いイメージの音楽ではなくて、優しい感じの音楽にしているので、ライトで優しい不倫ものになっているはずです」。
三木監督は自身の作品で、音楽の存在をとても大切にしているという。
「状況をポンポン見せていくような作品はあまりやってこなかったし、登場人物の心に寄り添って作っていくものが多かったので、そうなるとあまりセリフやシチュエーションで説明もしたくないので、その登場人物の感情を観ている人の心にしっかり植え付けていくには、音楽がすごく大きな割合を占めていると思っています。今回も雅也君が主人公なので、彼の感情に寄り添った曲を作って欲しいとリクエストしました」。
「『東京ラブストーリー』は、オリジナルを観ていない人達に届くように作っていきました」
名作『東京ラブストーリー』(FOD/Amazon Prime Video)のリメイク版も、三木監督の手によるものだ。
「実は『東京ラブストーリー』を見ていなかったんです(笑)。令和版だと言われて、今の若い人たちが何に反応するか、映像の雰囲気とか、どんなラブストーリーなら伝わるかを考えて作った気がします。オリジナルを踏襲するというか、あれに近いことをやるという方向にはならなくて、オリジナルを観ていない若い人たちに届くように作っていきました」。
「役者と向き合うのはもちろん、原作者の思いと向き合うことが大切」
様々なジャンルの映画とドラマを次々と手がける三木監督。今最も忙しい監督として色々な現場で役者と向き合うが、その監督が仕事をする上で一番大切にしていること、仕事の流儀とは?
「基本的に僕は自分のことをつまらない人間だと思ってるので、役者さんがやっていることを尊重したいと思っています。自分のアイディアをやってもらっても、たぶん自分が思っている以上のものにはならないと考えているので、できれば自分が想像してることと違うことをやって欲しいと思っています。結局物語にはストーリーがあるので、そこから外れないように調整するという感覚でやっています。僕が作って、僕の作品になっていきますが、結局原作があるものに関しては、原作者がどういう思いでその作品を作っているのかを掬わなければいけないし、そこは蔑ろにしてはいけません。役者さんと向き合いながら、原作者とも向き合い、その思いに深く寄り添うことが大切です。『じゃない方の彼女』も、秋元さんの考えや思いを辿っていくと、なんとなく答えが見えてきて、そこに自分なりのアイディアを入れていって、この軸がブレなければいいものになると思いました。僕発信の、自分がやりたい企画があって、自分の思いが全てになってくるとそこはまた考え方が変わってくると思います。やっぱり原作や企画があるものは、僕が監督だからといって好きなようにやることはできません。そこは一切考えず、原作者が作ったものが世間的に評価されて、面白がられているのであれば、それはどういうものなのかをしっかり把握しなければうまくいかないし、面白いものにならない。個性的な作品にはなっていかないと思います」。
「自分の中の正解が出るとつまらないので、現場で役者さんとセッションしながら面白いものを求める」
原作者の思いに寄り添いながら、現場も含めてその作品の制作過程で出てくる面白いものを掬い、ライヴ感、セッション感を大切にしながら作品を作り上げていく。
「とはいえ現場はキツイので、ある程度正解を持って臨まなければいけなくて、僕の場合はこういう方向になればOK、というなんとなくの正解を3つくらい持っていきます。後は現場の人たちに投げて、でも自分の中の正解が出るとつまらないなと思ってしまうので、さあどれが出てくるだろうって楽しみながら作っていきます」。