Yahoo!ニュース

世間の関心は「集団的自衛権」より「都議会の性差別ヤジ」?

木村正人在英国際ジャーナリスト

「冷戦思考」で対立する主要メディア

集団的自衛権の行使を限定的に容認する憲法解釈変更の閣議決定を受け、共同通信社が1~2日、世論調査を実施したところ、安倍政権の支持率は47.8%、不支持率は40.6%となり、不支持率が第2次安倍政権で初めて40%を超えたそうだ。

集団的自衛権の行使容認に反対する声は54.4%、賛成は34.6%にとどまったという。そこで筆者もブログでアンケート調査を実施してみた。

都議会の性差別ヤジではBLOGOS、ヤフーニュース個人、自分のブログを通じた調査に対して30時間以内に663件(現在時点では801件)が寄せられた。

今回はヤフーニュース個人、自分のブログで37時間以上が経過した時点(ロンドン時間3日午前9時、日本時間同日午後5時)で回答数は175件。BLOGOSにアンケートが転載されなかった。

このため、両者を比較するのは妥当ではないが、集団的自衛権の行使を限定的に容認するという問題が、「冷戦思考」にとらわれた主要メディアや旧社会・共産党系が大騒ぎするほど、世間の関心を集めているのかどうかは疑わしい。

BLOGOSでも「集団的自衛権」関連のエントリーのランキングは思ったほど高くない。安倍首相が高い支持率を維持したいのなら、男女の機会均等を促進するウーマノミクスに真剣に取り組む方が賢明といえるだろう。

「第三の道」を進もう

筆者は「安全保障は国際基準に合わせる」「独善につながる恐れがあるナショナリズムは排除する」ことが、アジアの安定と繁栄につながると考えている。

「アジアの世紀」を生きる次世代の未来を考えると日本は右にも左にもとらわれない「第三の道」を進むことが重要だと確信する。

筆者のアンケート調査結果を紹介しよう。回答数が175件と少ないのであまり参考にならないが、いくつかの示唆を読み取ることができる。

集団的自衛権の行使を限定的に容認する閣議決定の直後に、安倍政権を支持するかどうか聞いてみた。

筆者は従軍慰安婦をめぐる河野談話の見直しや靖国神社参拝など安倍政権のナショナリスティックな面を批判してきたが、「安倍政権を支持する」が65%にのぼった。

画像

集団的自衛権について「認める」「認めない」の二者択一ではなく、「全面的に認める」「必要最小限の範囲で認める」「絶対反対」の三択で尋ねたところ、「全面的に認める」が32%、「必要最小限の範囲で認める」が36%で、「絶対反対」は21%にとどまった。

画像

有権者は現実的

集団的自衛権が意味する範囲は広すぎるため、二者択一で質問すると拒絶反応が出やすい。しかし、筆者の調査では「全面的に認める」「必要最小限の範囲で認める」が計68%に達しており、3分の2以上が日本の自衛力を強化しないと中国の台頭など東アジアの変化に対応できないと考えていた。

次に安倍首相は閣議決定を受けてどうすべきなのか、3つの選択肢を示して質問してみた。

「日米同盟を強化、歴史問題を封印して日米韓の安全保障トライアングルを機能させる」が51%、「靖国神社参拝を続けて、中国や韓国との関係をさらに悪化させる」が18%、「中国の南京虐殺紀念館、慰安婦像の前で跪いて両国との関係改善を図る」はわずか8%だった。

画像

「安倍政権を支持しない」と答えた人の中でも、「日米同盟を強化、歴史問題を封印して日米韓の安全保障トライアングルを機能させる」という回答が一番多く26件。「中国の南京虐殺紀念館、慰安婦像の前で跪いて両国との関係改善を図る」の13件の倍だった。

筆者にはヒステリックに対立する主要メディアに比べ、有権者は現実的に対応しているように感じられる。

靖国問題

今後の靖国参拝が安倍政権の行方を大きく左右するのは避けられない。筆者が「今後2回、3回と安倍首相が靖国参拝を続けると日本は完全に孤立する」と書いたところ、いくつかの反論をいただいた。

それぞれの国家には戦没者の追悼という道徳的義務がある。日本人が戦没者の追悼をしなければ一体、誰が行うのか。筆者が暮らす英国の研究者やジャーナリストから靖国問題で糾弾されると、涙をこらえきれなくなることがある。

戦争が終わって70年近くも経つのに、「日本は敗戦国として裁かれ続けている」という悔しさと疎外感。これが安倍首相の靖国参拝を支持する国内世論の根っこにある。

その一方で、第二次大戦中、タイとミャンマー(旧ビルマ)の泰緬鉄道に絡む戦争捕虜(POW)問題を含む日英和解に筆者が参加した経験からすると、靖国問題がいまだに大きなトゲとなって日英間に突き刺さっていることがわかる。

その最たるものが、靖国神社の遊就館に展示されている泰緬鉄道のC56型蒸気機関車31号車だ。英国人の目にC56がどのように映るのか。その犠牲になった戦争捕虜1万2400人の屍が脳裏に浮かんでくるのではないか、と筆者は思う。

靖国神社は戦後、1宗教法人として出直す時、戦争の生き残りが集まり、他の誰とも共有できない体験を語り合う場として自らを「再設計」したように思えてならない。遊就館は、報われなかった戦争を肯定的にとらえることができる舞台装置といえるだろう。

英国にも退役軍人が集う地域の集会場がある。兵士はどこの国でも自分の悲惨な戦争体験を家族にも同僚にも語りたがらない。理解し合えるのは同じ極限状況を体験した戦友だけなのだ。

顕彰施設か、追悼施設か

ストラウブ元米国務省日本部長は「日本に靖国神社参拝をする権利がないと主張する者は米国政府関係者の中には誰一人いない。しかし、詳しい事実を知ればいずれも腹を立てるだろう」と発言したことがあるが、これは英国にも共通する。

戦没者追悼という国民の道徳的義務をいいことに、「戦勝国の裁きには応じられない」「アジアを解放するための戦争だった」という独特の史観が都合よく靖国神社に混入された。

靖国神社が英霊の「顕彰」施設ではなく、戦没者の「追悼」施設として生まれ変わる抜本的な改革に取り組まない限り、靖国をめぐる喧騒は収まらないだろう。靖国は中国や韓国だけでなく、かつての交戦国にとっては非常に繊細かつ微妙な問題であり続けている。

安倍首相が2回、3回と靖国参拝を続ければ、どうして日本は孤立するかと言えば、欧米の主要国は「火遊びが好きな安倍首相のナショナリズムと無人の尖閣問題」に付き合わされるより、中国との経済関係という実利を優先させた方が得策と考えているからだ。

先の大戦が「アジアの解放のための戦争」という考え方に世界は賛同しないだろう。天皇陛下や各国首脳が追悼できるように抜本的な靖国神社の改革が行われるまで、安倍首相は参拝を控えるのが最善策と筆者は考える。

(おわり)

「集団的自衛権行使容認の閣議決定を受け、安倍首相はどう振る舞うべきでしょう?」に対するその他の主な回答

・首相は現在までの主張を続ければいい。

・どの国とも敵対せず、八方美人的な外交をするべき。

・「海外派兵しない」が本当であることが理解されるよう行動する。

・韓国、中国を除いた日米とアセアンで同盟を。

・今は靖国参拝は控える、中国とは対話の道を模索し(ただし尖閣での妥協はない)、韓国はほっとく、米国とは普天間の問題を含めて関係強化。

・参拝はしないが、してもおかしくはないというポーズが必要。将来的には分祀を外交カードにする。

・正しいことを当たり前に、国益を最優先に毅然と行動し日本国を導く。

・戦争をしない国をアピールする。

・戦争反対。

・中韓を除く対外関係の更なる事実上の同盟強化。

・中国や韓国との関係を悪化させないような長期戦略を立てつつ靖国神社参拝を続ける。

・日米同盟を強化。しかし韓国はこのまま中国に回帰していくと思われるので、韓国とは手を切り、米・日・東南アジアでの同盟を目指す。また、NATOとも関係を強化。

・日米同盟を強化する一方、戦後の平和国家のあり方を変えないことを何度も何度も事ある度に繰り返し宣言する。

・味方を増やす。

・民主主義が機能している、まともな国と同盟を結ぶ。日英同盟の復活を望む。

・目立たないこと。

・靖国へは行かない、武力より前に外交努力で貢献できる国であることをアピールする様努める。

・靖国神社への参拝は自粛するが、中国と韓国とはつかず離れずの距離感で付き合う。日本的な弔いについて理解を得る努力を続ける。

・靖国神社参拝しながらも歴史問題を封印して日米韓の安全保障トライアングルを機能させる。

・歴史修正主義、復古的ナショナリズムを封印する。機が熟すまで集団的自衛権の行使も完全に控えるべき。

・歴史問題の第三者による早急な検証。

「集団的自衛権の行使容認をどう思いますか?」に対するその他の主な回答。

・現状の論理が一貫しない集団的自衛権行使容認は評価に値しない。

・憲法改正の手続きによって国民の意見をくみ取った上で「必要最小限」の範囲がより明確になるよう法整備した上で認める。

・解釈改憲は邪道、憲法改正すべき。

・憲法改正にて正々堂々と国軍にする。ネガティブリストで行動する。

・反対だが、どうしても容認したいならば正当な手順を踏んで、憲法を改正するべきだ。

・適切な範囲で認める。

・個人的には、反対。賛否は、別にしても、憲法を、改正するか、最低でも、国政選挙で信を、問うべき。

・外国がなんと言おうと変える必要はなかったと思っています。今までだって圧力かけられ叩かれ苦しい道を堪え忍んできたわけだから、これからもそうするべき。

・最小限にする必要はないが地球の裏側まで出て行って米軍を護衛するのは「自衛」では無いから自衛とそうでないものの線引きをした上で認める。(そうすれば短絡的な反対論も出しにくくなる)

・英語にて差がでない個別・集団の国内論議をすすめ、平和を守るための国の自衛力行使を明確にする法整備と国内外の説明を続ける。

・集団自衛権は認めるべきだが、『解釈』によっては断固として認めない。憲法改正するべき。 解釈で良いなら日本は立憲国家ではない。

・矛盾するようですが、憲法九条との解釈併用を。国益を第一にダブル・スダンダードの外交展開を。

・憲法改正により決めるべき。

・国連での活動以外は全面的に認めた上で、国連での活動参加については閣議決定を行う。

・憲法の規範性の整合を!

・集団的自衛権、個別的自衛権と分けることなく、日本の防衛に必要なことをすれば良い。アメリカ国民に日本防衛の必要があると思わせなければならない。そう思わせるところまで日米防衛協力を進めるべき。

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事