待っていても男女差はなくならない、音楽界の改革 クオーター制の国ノルウェー
北欧ではジェンダー差別を解消するための対策として、特定のグループの人数を積極的に割り当てる「クオータ制」が有名です。
北欧諸国の音楽業界では、アーティストだけに限らず、舞台裏でも男性が権力を握りすぎているとして、以前から批判が高まっていました。
性別に限らず活躍しやすい環境をつくるためには、どうすればいいか?
北欧の音楽界では、変化が起きています。
毎年、冬にノルウェーの首都オスロで開催されるフェス「ビーラルム」(by:Larm)。日中は業界関係者のためのカンファレンスが盛りだくさんで、夜間は市民も楽しめるコンサートとなっています。
私はもう10年間ほどこのフェスを取材していますが、毎年のカンファレンスでは、業界での「女性の少なさ」が必ずテーマとなっています。
特に、舞台裏では、契約などに携わるのは男性が圧倒的に多め。音楽界でお金を動かし、最終的な決定権を持っているのは男性です。
「もう女性の少なさには我慢ができない」。23回目を迎えるビーラルムは、ジェンダーバランスを「50:50」にすることを目標として掲げ、見事にその数字を達成しました。
本来は、男女の割合を半々にする目標年は2022年でした。しかし、スタッフの努力で、その目標は2年早く、2020年に達成されたのです。
代表のヨアキム・ハウグランド氏は、2019年にノルウェーの経済紙のインタビューでこう語っていました。「2020年にジェンダーバランスを半々にできないようだったら、辞任を考えている」と。
スタッフはもう動くしかありませんでした。可能か不可能ではなく、やるしかなかったのです。
女性アーティストの割合を55%に
結果、昨年よりも、ステージに立つ女性アーティストは19人多く、52人に。
カンファレンスのスピーカーは、153人中81人にすることができました。
女性アーティストの割合を55%に、女性スピーカーの割合を54%にしたのです。
このことは、ノルウェーの公共局NRKなどでも「ビーラルムでジェンダーバランス初」と、大きなニュースに。
私はビーラルムの広報エイリック・エグネス氏に取材をしました。
#MeTooで理解が深まった
業界のジェンダー格差は前から批判があったが、特に#MeTooが起きてから、ジェンダー差別の理解がさらに深まり、大きな動きにつながったとエグネス氏は話します。
「ビーラルムは、音楽業界の未来を反映する催しです。ここで見ることは、業界のこれからを意味しています。だからこそ、ジェンダーバランスにおいては、他者に明確なシグナルを送る必要がありました」
今回の取り組みには、業界の男性たちからもポジティブな反応ばかりだったそうです。
「女性アーティストを増やすことは、それほど難しくはありませんでした。女性だからではなく、能力も評価されて選ばれています」
男女差が明確だった講演者リスト
「より大きな課題となったのは、カンファレンスで話す女性の割り当てを増やすことでした。カンファレンスのジェンダーバランスは、明らかに、アーティストのプログラムよりも、以前から大きな差がありました」
「女性を増やした結果、フェス史上最高のプログラムができたと思っています。以前よりも幅広い意見を聞くことができるようになりました」
フェス全体の雰囲気も変わったそうです。
「さらに居心地のいい雰囲気で、誰もが安心して参加できる環境づくりにつながりました」
ジェンダーというテーマに敏感なメディア
ノルウェーでは、政界だけではなく、各業界でのジェンダーバランスの議論が進む背景に、メディアがこのテーマにとても敏感だという日本との違いがあります。
ネットで検索しても、音楽祭での男女差を取り扱う記事は、簡単に大量に見つかります。
一例(ノルウェー語)
- 「フェスのアーティストで女性はたったの5人に1人」(byas)
- 「音楽祭はクオーターされるべきだ」(公共局NRK)
- 「ジェンダーバランスを規範に」(Dagsavisen)
- 「ベルゲンフェスとナットジャズの舞台に立った10人中8人が男性」(BergansTidende)
- 「今年のオスロ・ワールドフェスでは、5人中3人のアーティストが女性」(VartOslo)
- 「ジェンダーバランスという要求を達成できなければ、公的補助金はもらうべきではない」(公共局NRK)
フェスの会場のジェンダーバランスを、日本のメディアはこれほど熱心に取り上げているでしょうか?
ビーラルム広報のエグネス氏は、50:50を掲げた目標と成果に、関係者は満足しており、今後もこの積極的な取り組みを継続していくと語りました。
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Text: Asaki Abumi