「今こそ湿地を再生する時」。日本で消滅した湿地は琵琶湖2つぶん。湿地と私たちの暮らしの関係とは?
世界湿地の日、今年のテーマは「今こそ湿地を再生する時」
2月2日は「世界湿地の日」。湿地の大切さを考える日である。1971年のこの日に「ラムサール条約」(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)が締結されたことから、毎年2月2日を『世界湿地の日』とすることになった。ラムサール条約での湿地の定義は広く、湿原、湖沼、河川、干潟、マングローブ林、サンゴ礁、ダム湖、水田などを含んでいる。
「世界湿地の日」は毎年テーマが定められている。
テーマの多様性は、湿地の役割の多さを表現している。湿地はさまざまな生き物にとってなくてはならない。
人間にとっての重要性を考えると、まず、淡水を供給してくれる。地下の帯水層に水を補給する役目もある。次に、食糧の供給をしてくれる。魚のほとんどは一定期間を湿地で過ごし、水田で栽培される米は多くの人の主食となっている。
汚れた水をきれいにする働きもある。湿地にはたくさんの微生物群集がすみ、植物が生えている。これらの生物は水のなかの有機物を分解したり、水のなかの二酸化炭素を吸収し酸素を供給したりする役割を果たしている。
治水能力も高い。湿地は、自然界のスポンジのような働きで降った雨を吸収し、表面に広く水をため、河川の氾濫を抑える。気候変動にともなう豪雨災害に対応するには、ダムや堤防だけなく、流域全体に視野を広げた治水対策が必要になる。
さらに湿地を健康に保つことは温暖化防止につながる。湿地に十分な酸素がないと生活排水などに含まれる有機物は水底に溜まりヘドロとなる。ヘドロからは温室効果ガスのメタンガスと一酸化二窒素が発生する。メタンガスの温暖化能力(地球温暖化係数=二酸化炭素を基準に他の温室効果ガスの温暖化能力を示した数字)は二酸化炭素の25倍、一酸化二窒素の温暖化能力は二酸化炭素の298倍ある。
森林破壊や湿地の劣化を促す政策・補助金をやめ、湿地の復元をすすめる
今年のテーマは「今こそ湿地を再生する時」。過去200年の間に、湿地は農地やインフラ開発のために埋め立てられた。世界の湿地の約90%が劣化または消失し、過去50年間だけでも35%が消失。2000年以降、その速度は加速している。
日本ではどうか。国土地理院の調査によると、明治・大正時代には約2110平方キロメートルあった湿地が、現在では約800平方キロメートルに減ったとされる。消滅した湿地は琵琶湖2つぶんにもなる。
歯止めをかけないと湿地が果たしていたさまざまな役割が失われ悪影響が生じる。そこで2022年11月に開催された「ラムサール条約会議」では「持続可能な開発目標」を達成するうえで、湿地が果たす重要な役割が言及された。さらに 12月に開催された「国連生物多様性会議」では、「劣化した内陸水域の少なくとも30%を回復し、健全な淡水生態系を保全すること」を盛り込んだ協定が締結された。
世界湿地の日に際し、国連環境計画(UNEP)の海洋・淡水部部長であるレティシア・カルバリョ氏は「森林破壊や湿地の劣化を促す政策や補助金をやめ、すみやかに湿地の復元をすすめる」と述べている。
「世界湿地の日」に湿地の役割をいま一度考えてみたい。