長野県の森を、愛知県の自治体が整備するってどういうこと? 川の上流と下流に位置する自治体同士の交流
上流の自治体と下流の自治体が「つながる」
6月12日、13日の両日、東京都内(千代田放送会館)で「水源地未来会議」が開かれた(主催・国土交通省)。目的は川の上流と下流に位置する自治体同士の交流事例を共有し、水源地域の振興を活発にすること。
会議では18の事例が紹介されたが、そのうち森林環境譲与税に関連する施策が3つあった。
たとえば、木曽川流域に位置する長野県王滝村、同県木曽町、愛知県大府市は、水源林の保全・育成に関する連携を行っている。
大府市は、2010年から大府市職員互助会と王滝村が森林の間伐活動を通じた交流を開始。2014年には市民団体による森林間伐活動がはじまり、2015年には市民公募型の森林間伐ボランティア・バスツアーがはじまった。
さらに今年から「森林環境税」の課税がはじまることを契機とし、木材の活用に注力する木曽町にも交流を働きかけ、昨年7月、王滝村、木曽町、大府市の3自治体が「水源の森林の保全・育成に関する連携協定」を締結した。
木材の利用を通じた脱炭素
3自治体の取り組みは以下のようにまとめることができる。
1)木材の利用および利用推進
・大府児童老人福祉センターを王滝村、木曽町の木材を使い木質空間を創造
・大府市の工務店が木曽町の間伐材を使ってミニカーづくりイベントを開催
2)水資源の涵養および水源の森林保全・育成の啓発
・子ども会大会おおぶスタイルワークショップで、木曽町産ヒノキを活用した木製カッティングボード製作体験
・王滝村自然体験ツアー
3)木育の推進
・おもちゃ美術館の整備
4)木材の利用を通じた脱炭素の啓発
・大府市の事業者がJ-クレジット制度(省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量をクレジットとして国が認証する制度)を活用し、王滝村、木曽町の森林の保全・育成を行う。大府市の事業者の脱炭素経営が進む。
生活圏としての流域
3自治体は木曽川流域に位置する。水平でない土地に雨が落ちたとき、水は傾斜にそって低いほうへ流れていく。流れは集まってやがて川となり、最終的には海に注ぐ。流域とは、降った雨が地表や地中を流れ、やがて一筋の川として集まり海へ出ていく範囲である。
明治期以前、人の暮らしは流域にあった。舟運が発達し、上下流で人、物、文化の交流があった。明治期以降、自動車や鉄道が発達すると都市と地方が直接道路で結ばれ、人、物、文化の流れが変化し、流域という概念は希薄になった。
ところが現在、水災害の頻発などによって再び流域が注目されている。
水の管理は流域を単位として行うのが自然だろう。気候変動によって水の動きが変われば、利水、治水、木材生産、食料生産などに影響が出る。
大府市の92996人(令和6年5月末)の暮らしを支える水道、農業用水、工業用水は、上流に水源がある。森林には、水資源の貯留、洪水の緩和、水質の浄化などの働きがあり、上流の森林を保全することは、自分たちが使う水を守ることでもあるわけだ。
流域の課題を上下流が連携して解決
流域の課題を上下流が連携して解決することもできるだろう。一般的に上流域の課題には、集落運営、森林荒廃、耕作放棄地、鳥獣害の深刻化、生活支援、仕事創出などがある。一方で、下流域の課題には、エネルギー(温室効果ガス削減)、食料、災害の増加などがある。
王滝村は人口655人(令和6年3月1日)。村域の96%を森林が占める。間伐が必要な森林が多いが、担い手が圧倒的に不足している。
木曽町は人口9924人(令和6年6月1日)。町域の90%以上を森林が占める。王滝村と同様に担い手不足から、私有林は管理が遅れた山林が増加し、有害鳥獣の被害が増えている。利用可能な森林が十分に活用されていない。
一方、大府市の事業者には温室効果ガス削減という課題があるが、自社内での削減には限度がある。そこでJ-クレジット制度を活用し、王滝村、木曽町の森林の保全・育成を行うわけだ。
このように流域の自治体が連携することで、新しい解決方法を見出せる可能性がある。参加者はさまざまな事例を共有し、活発に意見交換していた。