電磁レールガンの開発を継続する日本防衛省
8月31日に発表された令和4年度防衛予算概算要求でも掲載されてましたが、日本防衛省は電磁レールガンの開発研究を継続します。アメリカ軍が電磁レールガンの研究をずっと行ってきた上で有望ではないと判断して最近になって取り止めたのとは対照的な判断となっています。
令和3年度 事前の事業評価 評価書一覧:日本防衛省
9月2日に防衛省から「令和3年度 事前の事業評価」が発表され、「将来レールガンの研究(本文PDF)」という項目で電磁レールガンの研究内容が記されています。概算要求では極超音速対艦ミサイル迎撃用の対空砲として紹介されていましたが、事前の事業評価では対空だけでなく対地・対艦も行うことが明記されています。
電磁レールガン(対空):極超音速誘導弾への対処
日本の官公庁におけるいわゆる「ポンチ絵」はあくまで大まかなイメージになります。この図ではVLS(垂直ミサイル発射機)から対空レールガンが発射されているように見えますが(赤い線)、実際にはその前方に搭載されてある主砲をレールガンに置き換えることになるでしょう。
従来の通常の火薬式の主砲では極超音速で突入して来る目標への対応は困難ですが、速度が速く射程の長い対空レールガンなら対応できるという目論見です。レールガンの開発上の問題点は連射性能および連射した場合の砲身の耐久性になります。
青い線とその先にあるのは対空ミサイルです。煙突から出ているように見えますが、実際には後部のVLSから発射されたという想定です。対空ミサイルと対空レールガンで多層的な防空を構築します。
対艦用の極超音速兵器はロシア軍がスクラムジェット極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」を開発中で実戦配備寸前の段階です。中国軍はまだ計画が明らかにはなっていませんが、極超音速滑空ミサイル「DF-17」を対艦用に改造する可能性があります。また既に中国軍が実戦配備したとされる対艦弾道ミサイルに対しても有効な対空装備となり得ます。
なお対空レールガンのイメージ絵を見る限り近接爆破を行わない直撃方式の運動エネルギー弾であると見られます。
電磁レールガン(対艦・対地):目標に対する回避困難な打撃
対艦用途として艦載の他に地上移動車両への搭載がイメージ絵に描かれています。ケーブルで繋がっている後方の車両は電源車になるのでしょう。地対艦ミサイルがある現在では「沿岸砲」は廃れた種類の兵器で、今も残しているのはロシア軍の130mm自走沿岸砲「A-222ベーレク」があるくらいですが、日本自衛隊は長射程の電磁レールガンにより沿岸砲の新たな価値を見出そうとしています。
電磁レールガンの砲弾は小さく高速で連射されるので、「長射程かつ迎撃困難・回避困難になる」という利点が謳われています。
そして驚くべきなのは「高速度弾丸により艦艇を浸徹」と、電磁レールガンの砲弾で敵艦を貫通させるつもりだという点です。艦内部で起爆させるのではなく貫通させるということは、炸薬を搭載していない実体弾による運動エネルギー兵器ということなのでしょうか? 詳しい説明はこの事前の事業評価には書かれていません。
対空弾での直撃式は前例も多く分かるのですが、対艦兵器で起爆しない実体弾をぶつけるというのは古い木造船の時代まで遡ります。
電磁レールガン「高速度弾丸により艦艇を浸徹」
高速弾で敵艦の内部で起爆するように信管を調整するのは確かに難しく、装甲のある空母を想定した場合と装甲のほとんど無い駆逐艦では適切な起爆タイミングが異なってきます。このため、旧ソ連海軍では超音速対艦ミサイルに着発信管(瞬発信管)を採用して船体貫通後起爆を敢えて狙いに行きませんでした。通常弾頭は成形炸薬弾(P-500バザーリト対艦ミサイル)や榴弾(P-700グラニート対艦ミサイル)を採用しています。
しかし日本自衛隊のレールガンの小さな砲弾では表面起爆では大きな打撃を与え難いと判断されて、いっそ徹甲弾で貫通させる方向となったのかもしれません。あるいは主目標は揚陸艇など小艦艇を想定し、大型艦には牽制程度を考えているのかもしれません。
隔壁が多重にある艦船は貫通させるだけではなかなか沈まない上に、重要箇所を貫通されない限り致命傷は負い難いのですが、過去の事例では戦闘機の機銃掃射で駆逐艦が穴だらけにされて沈んだ例もあります。
なお今回の事前の事業評価「将来レールガンの研究」では対地攻撃の様子の説明図がありません。もしも対地でも実体弾を使うとした場合はどうなるのでしょうか。考えられるのは着弾寸前に多数の子弾(クラスター弾規制条約に触れないタングステン・ロッドの非爆発性子弾)を放出する方式です。これはアメリカ軍も電磁レールガンを研究していた頃に構想していた方式です。
あるいは対地では炸薬を持つ弾頭を使うのでしょうか。現時点で判明してる情報では、まだ分かりません。