NISA恒久化、上限引き上げまでに金融庁がやるべきこと
岸田首相の「資産所得倍増プラン」の実現に向けて、金融庁がNISA制度の恒久化に動き出したと報じられました。NISA制度は一般NISAとつみたてNISA、ジュニアNISAなど少額投資非課税制度の総称です。未だ1120万口座(2022年3月末)と浸透しているとは言い難い制度ですが、さらなる制度浸透に向けて、金融庁に進めてほしいことを考えました。
NISA口座の保有者に占める投資未経験者の割合は、一般NISAが47.9%、つみたてNISAが88.1%となっています。一般NISAの方が制度のスタートが早かった影響もありそうですが、一般NISAは20代から80代まで幅広く利用されていて、つみたてNISAは20代~40代が利用者の大勢を占めています。一方で、口座数は人口の10%にも満たないため、浸透しているとは言えません。似た制度のiDeCoも加入者数は251万人(2022年6月末時点)にすぎず、両制度合わせてようやく人口の1割程度が利用している現状から、日本人の投資に対する距離感がわかると言えそうです。
NISA制度について詳しく知りたい方は金融庁のサイトをご覧ください。
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/index.html
■口座開設窓口の一本化
現在、NISA口座の開設は多くの証券会社や、証券口座開設のできる銀行で窓口が設けられています。従って、どこの金融機関でNISA口座を開設すべきか、というところから考える必要があります。
最適解はありませんが、何に投資したいかによって選ぶべき金融機関が異なります。金融機関選びで頭を悩ますことのないよう、証券業界が横断的に口座開設の窓口を一本化する方が消費者にとってわかりやすいでしょう。
その場合、証券会社ごとに異なる取扱商品のラインナップを集約する作業が必要になります。特に投資信託は証券会社によって取り扱い数に偏りがありますから、NISA口座では金融庁の基準に適合する商品はすべて投資できるよう整備する必要があります。
■対象ファンドの取捨選択
つみたてNISAでは200種類以上のファンドが長期投資に向いているとされています。またネット証券を中心に180種類のファンドが選べるようになっていますが、それほど多くの商品ラインナップは必要ありません。
商品は各資産ごとに、また参照する株式指数ごとに1つあれば十分です。つみたてNISA銘柄の選定基準の1つである信託報酬の低いファンドを選べばよいでしょう。信託報酬の他にも、トラッキングエラーという指標も選定対象として、株式指数との連動制の高い商品も含めて絞り込んでいくとより良いでしょう。
信託報酬を下げるには、規模を拡大していくほかありませんから、すでに大きいファンドが有利になります。
■つみたてNISA運用母体を創設
上記のようなことを実践するには、証券会社に任せておくわけにはいきませんから、一般NISAとつみたてNISAのお金を公的に運用するような仕組みがあってもいいでしょう。
もしくは、公的年金に連動して運用できるファンドを組成するというアイデアもあります。銘柄選びについてわからない人は、公的年金連動ファンドを積み立てていくような仕組みがあれば、より便利な制度になりそうです。
■ライフプランに沿った目標額の設定
現在のつみたてNISAに満額投資すると投資額は800万円です。投資元本が2.5倍になれば2000万円受け取れる計算です。この金額が妥当かどうかは居住地域やライフスタイルによります。
すでに保険加入はライフプランを検討して加入する流れが当然となっていますが、つみたてNISAの加入目的の1つに老後資金対策があるとすれば、加入者一人ひとりが将来いくら年金が受け取れるか、その場合老後資金がいくら必要かを簡単にシミュレーションできる仕組みが必要です。
現在は積立投資の成果を図るページhttps://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/moneyplan_sim/
がありますが、さらにバージョンアップさせる必要があるでしょう。
他にも、他の人はどんな割合でどの資産クラスに投資しているのか、他の投資家の利回りはどれくらいか、といった数値を公表することも必要です。企業型DCであれば、企業ごとの利回りが共有されていて、貯蓄一辺倒の人に対して多少の危機感をあおる効果もあるようです。
投資可能なファンドが統一されることで、どのようなポートフォリオが成果を生むかを可視化することで、初心者がマネしやすい環境を整えるとよいでしょう。
■リスク・リターンのシミュレーションが必要
投資経験の有無にかかわらず、なんとなく投資している人が多いのが現状だとすると、将来の資金目標にたどり着けるかどうか、投資期間中に検討することができません。
しかし、実際はファンドごとに過去のリターン、リスクが開示されていますから、あるファンドに20年投資した場合の期待リターンと、その場合の想定されるリスクは計算ができます。
例えば、毎月3.33万円20年間積み立てた場合、投資元本800万円は
想定運用利回りが3%であれば1093万円、同様に5%で1369万円、7%で1735万円、9%で2224万円となります。
つみたてNISAは非課税期限が20年後に到来するため、個々の投資タイミングの成果が出るのに、30年~40年ととても長いスパンで考える必要があります。
その際、早めに目標額に到達させたい人や、長期間安定して資産を増やしたい人など、ニーズに応じて資産配分を調整し、資産配分ごとの期待リターンと想定リスクがすぐに表示されるような仕組みがあると便利です。また、期待リターンは年率×期間で算出できますが、想定リスクにどのような意味があるのか、投資家が理解できるような解説が必要でしょう。
■金融所得課税の税率変更
税制優遇という措置は、飴と鞭でいうところの飴(メリット)ですが、もう少し踏み込んだ課税制度の変更という手段もあります。貯蓄から投資へという流れに逆行しないよう、貯蓄に対する税率を増やすという方法があります。
現状、金融資産から生み出される資産である、預貯金の利子、株式の配当金・譲渡所得は約20%の税率です。そこで、元本が確保され資産家ほど高額な預貯金があると考えられますので、預貯金の利子に対する税率を上げる(たとえば50%にする、など)方法があるでしょう。
この場合、高額資産を保有している人には不利になりますが、資産保有の少ない層に対するデメリットは限定されます。そもそもほぼゼロ金利の状態ですから、金利上昇まで不満は出ないでしょう。
証券税制も、枠を広げるのであればNISA以外は30%にする、あるいは給与や年金と合算して税率を決める総合所得、累進課税にすると一部の資産家以外からは不満は出ないでしょう。
富裕層・資産家を狙い撃ちにした増税の是非も考える必要はありますが、富裕層に対する増税と資産形成層に対する減税を織り交ぜることで、多くのNISA口座開設を見込めるかもしれません。