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デジタル性暴力の闇 動画流出をなぜ防げないのか?法改正の課題を問う。

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長
画像はイメージです。

■ 性行為動画が流出するリスク

 デジタル社会の今、性行為の動画が流出するリスクが高まり、現実のものとなっています。

 最近、著名人の動画が流出したのでは?ということがSNSで話題になりました。

 その真偽は不明ですが、女性の動画が流出したことは厳然たる事実です。

 たびたびニュースになる動画流出は、氷山の一角にすぎません。

 FC2やX Videoなどをみると、日本人と思われる女性の性行為動画が氾濫しています。

 中には本人同意の動画もあるかもしれません。

 しかし、私のもとには「全く同意してない性行為の動画がサイトに勝手にアップされている」「自分の性行為動画を高額で販売されている」という相談が後を絶ちません。

 さらにFc2やPornHubなどの有料コンテンツとなると、お金を払わない限り、チェックもできないのですが、一体どんな世界が展開されているのでしょうか。

 自分の性行為や性器を含む体がこっそり撮影され、それがインターネット上の様々なサイトに掲載され、多くの人に見られたりする、または高額譲渡の対象となっているかもしれません。

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■ デジタル性暴力

 

 自分の性行為や性的な姿態が、インターネットを通じて拡散し、不特定多数の人に半永久的に見られるかもしれない被害は、実際の性被害にも勝るとも劣らない深刻な影響を被害者にもたらします。

 「デジタル性暴力」という言葉で表される人権侵害です。

 性行為動画の流出は女性にとって本当に恐怖であり、信用、名誉、プライバシー侵害であるばかりでなく、親やボーイフレンド、夫等の近親者に見られたら現在や将来の生活すら崩壊しかねないという重大問題です。

 動画拡散を恐れて、暴力的な男性と別れられない、性暴力をされ続ける、など、現実の女性に対する暴力にもつながります。さらに著名人の場合、活動に大きな支障があるでしょう。

 しかし、スマホで簡単に録画してネットにアップできる現在、誰もが無縁ではありません。

 この問題に有効な対策はないのでしょうか?

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■ 「リベンジポルノ法」とは?

 日本にもこうした事態を防ぐ法律がないわけではありません。

 それがいわゆる「リベンジポルノ法」、正式名称「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」です。

 その第3条は

第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

と書かれています。

 そこにいう私事性的画像記録とは何か?

 以下のような姿態が撮影された画像その他の記録(電磁的記録を含む)とされています(第2条)

一 性交又は性交類似行為に係る人の姿態

二 他人が人の性器等(性器、肛こう門又は乳首をいう。以下この号及び次号において同じ。)を触る行為又は人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

三 衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの

 ただし、第三者が閲覧することを認識した上で、撮影対象者が任意に撮影を承諾し又は撮影をしたものは除外されます。

 つまり、本人の承諾を得ずにこっそり撮影したものをネットにアップした場合は、「交際相手からのリベンジ」という限定された場合でなくても、この法律で犯罪となります。

 問題はそのことが多くの人にそのことが知られていないことです。

 リベンジポルノ法という略称が普及したために、多くの被害者が自分の問題を解決する法律だと認識していないのです。

 FC2やX Videoに勝手に動画を掲載することは犯罪ですので、是非、被害にあった方は警察に相談してほしいと思います。

■ 「リベンジポルノ法」の限界

 一方、「リベンジポルノ法」では、性行為動画などの盗撮被害を防ぐのに大きな限界があります。

 第3条をさらに詳しく見ていきましょう。

第三条 

1 第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

2 前項の方法で、私事性的画像記録物を不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者も、同項と同様とする。

3 前二項の行為をさせる目的で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を提供し、又は私事性的画像記録物を提供した者は、一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

4 前三項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

 これらの規定には以下のような問題があります。

●問題点1:「第三者が撮影対象者を特定することができる方法」という限界

 第3条1項は、「第三者が撮影対象者を特定することができる方法」という限界があります。ですので、顔を写さない性交シーンや裸体、または性器だけであれば犯罪に該当しないことになっていますが、このような限定の理由は何でしょうか?

 このようなプライバシーの漏洩が一生消えない心の傷になりかねい重大さを考えれば、このような限定はなくすべきです。

●問題点2: メール送信での拡散や、売買取引が犯罪とされていない。

 第3条2項は、不特定多数の者への提供を犯罪としていますが、友人知人へのメール送信や、特定の人への譲渡は禁止されていません。

 クローズドのコミュニティでの回覧も、それが「多数」と評価できない限り、規制することができません。

 こうした規定をかいくぐって、性行為動画を特定の人に高額で販売し、巨額の利益を得ている者もいます。

 こうした案件で被害者からご相談を受けてきましたが、被害者は多数に及びます。しかし、刑事事件で立件するのもハードルが高く、被害弁償もなかなか実現しません。

 こうした被害は有料サイトを舞台に起きるので、多くの場合女性は知らず、男性の友人が有料サイトに登録してこれを見ない限り、被害者が被害に気が付かないことも多いのです。

 そして、何らかの形で流出して初めて被害を知ることになってしまうのです。

 特定の者への販売や送信も犯罪とすべきです。

●問題点3: 親告罪となっている。

 この犯罪は親告罪となっており、被害者が告訴状を作成して受け付けられないと捜査が始まりません。

 刑法の性犯罪規定も親告罪でしたが、被害者にとって「告訴」のハードルが高いため、2017年の刑法改正で親告罪でなくなりました。

 なぜ、「リベンジポルノ法」もこれにあわせて親告罪でなくする改正をしないのでしょうか?

 立法府の怠慢ではないかと思います。

 そもそも、こうした事案は、まだ多くの警察で経験が浅いのか、被害相談をしても受け付けてくれず、告訴まで進まないケースを多く見てきました。

 そのため、弁護士を雇って告訴手続をしなければならないことになり、被害者にとっては大きな負担です。

 親告罪でなくすることによって、第三者からの通報も可能とすべきです。

 非親告罪化と併せ、相談を門前払いにしないでしっかり対処してほしいと願います。

●問題点4: 処罰が軽すぎる

 第3条が示す通り、処罰は3年以下、1年以下などと大変軽く、初犯では執行猶予がついてしまうような軽い刑罰とされています。

 これでは、被害の重大さに全く見合いません。性行為がオンラインで拡散することは深刻なダメージを女性に与えます。

 厳罰化を検討することは喫緊の課題です。

●問題点5: 盗撮行為そのものが犯罪とされていない。

 そもそも現行刑法では、盗撮行為そのものが犯罪とされていません。各都道府県の条例などで盗撮行為を処罰する規定がありますが、内容はまちまちであり、公的な場所やトイレ、ロッカールームなどに限定されている場合が多いのが現状です。

 そして刑罰も大変軽いのです。

 性行為をした相手から、そのあとで「動画を撮影した」と告げられ、その流出におびえて生活する女性は本当にたくさんいます。

 拡散されることを恐れて、DVやストーカー被害にあい続けたり、性被害にあい続けたりするのです。

 そして、「いつか自分の動画がポルノサイトにアップロードされてしまうのではないか」という恐怖にずっとおびえ続けるのですが、現行法では、実際に拡散されたことが証拠上も明らかでない限り、処罰されないのです。

 また、刑罰規定がないので、盗撮された動画を回収、削除するすべもありません。

 これは早急に解決すべきです。

●問題点6: 撮影対象者が任意に撮影を承諾し又は撮影をしたものは除外される

 法律は、撮影対象者が第三者が閲覧することを認識した上で、任意に撮影を承諾し又は撮影をしたものは犯罪にならないとしています。

 しかし、漠然と第三者が閲覧するかもしれない、ということを告げて撮影の承諾をとったからと言って、それでどんな拡散をしても許されるのでしょうか?無理やり脅されて性行為をさせられたうえ、やむなく同意させられた場合やAV出演強要のような場合もあります。

 ネット上の拡散がもたらす被害の深刻さを考えれば、どんなかたちで露出するか、について個別の同意が必要ではないでしょうか?

 承諾は、撮影時ではなく、公開時に事前にとること、また、承諾に関する立証責任は被告人側に課すことが必要でしょう。

■ 捜査が長引く理由

 性行為の動画がネットに流出し、リベンジポルノ法に基づいて警察に告訴しても、捜査がなかなか進展しないケースは少なくありません。加害者の特定をするためにはインターネット事業者の協力が必要ですが、協力に応じない事業者が多いのです。

 特に海外に拠点のあるサイト運営会社は警察から任意の協力を求めても、当該サイト利用者の個人情報を提供しようとせず、捜査は難航します。そして、犯人が特定できない限り、性行為動画の削除もできないままとなるのです。

これは被害者にとっては、捜査の遅延という意味でも、自分の動画の露出が長引くという意味でも二重の苦痛です。

 これを解決するためには、

 

1 本人の意に反する性行為動画である蓋然性が高いことを認識しつつ、漫然と掲載を続ける事業者は幇助犯として処罰する

2 いわゆるリベンジポルノ法違反やわいせつ物頒布罪について、国外犯(国民と否とを問わず)規定を創設する法改正をする

3 ポルノ犯罪に関する司法共助を強化する

 という対策が必要になるでしょう。

 

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■ インターネット事業者やクレジットカード事業者の責任

 こうした被害がなぜ続くのか。

 インターネット事業者(プロバイダー、レンタルサーバー業者)やクレジットカード事業者の責任も重大です。

 本人の意に反する性行為動画である蓋然性が高いことを認識しつつ、漫然と掲載を続けるレンタルサーバー業者の責任は重大です。

 そもそも、責任をもって被写体となった人の同意を確認する体制を構築しないまま、漫然と性行為動画の掲載を放置することの社会的責任が問われるでしょう。女性に対する人権侵害のリスクが高いのに、何ら有効な対策を打たないのは、重大な問題といえます。

 FC2を舞台に、アダルトサイトを運営して稼ぐことを指南するブログまでありますが、金もうけのためのデジタル性暴力を助長することになっているのではないでしょうか。

 また、FC2等のクレジット決済には、'''Visa JCBなどが利用されていますが、こうした大手クレジットカード会社は人権に関する責任を厳しく問われるはずです。

 決済→ https://domain.fc2.com/guide/payment/

 漫然と事態を放置せず、デジタル性暴力を予防するための具体的な措置を講ずるべき'''ではないでしょうか?

 さらに、最近ではビットコインを決済手段とした、ロリ系とされるサイトや、盗撮専門サイトが立ち上がっていますが、児童ポルノや盗撮などの犯罪との実際の関連が懸念されます。

 警察にはしっかり取り締まりをしてほしいと思いますが、プロバイダーの責任も重大です。

 企業の社会的責任を果たすため、明確な対応を求めたいと思います。

■ 法務省において早急な検討を。

 現在、デジタル庁の新設など、国を挙げてデジタル化を推進しようとしていますが、デジタル化がもたらす負の側面、特に女性や子どもに対する被害には適切な対策を確立することが急務です。

 上川法務大臣が就任されましたが、刑法の関連規定の改正、「リベンジポルノ」法の改正と被害に関する普及啓発、相談体制の強化などの取り組みを期待します。

 刑法性犯罪規定に関しては、以下の論点が今後議論される予定です。

性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方

○ 他人の性的な姿態を同意なく撮影する行為を処罰する規定を設けるべきか

○ 撮影された性的な姿態の画像の没収(剥奪)を可能にする特別規定を設けるべきか

 性暴力やAV出演強要被害とあわせて、さらに広範囲で女性と子どもを苦しめているデジタル性暴力について、早急な対応が求められています。(了)

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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