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中村ゆりが39歳・独身で目覚めた母性

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜 スタイリング/道券芳恵

前クールでは衝撃のドラマ『ただ離婚してないだけ』でヒロインを演じ、現在は『SUPER RICH』に出演中の中村ゆり。39歳になった今年、女優としての進境はますます著しく、映画『愛のまなざしを』では“幻覚”の役に挑んでいる。長く放送されている日本生命のCMなど母親役も増え、自身は独身ながら「母性を実感できるようになった」という。

少しエロティックに動いてもいいかなと

カンヌ国際映画祭でW受賞した『UNloved』の鬼才・万田邦敏監督の愛憎サスペンス『愛のまなざしを』。精神科医の貴志(仲村トオル)は6年前に妻の薫(中村ゆり)を亡くし、患者の綾子(杉野希妃)が寄り添うようになる。しかし、綾子は貴志の薫への断ち切れない思いを知り、嫉妬心に苛まれて、薫の弟・茂(斎藤工)に近づき…‥。

――『愛のまなざしを』で演じた薫は亡くなっていながら、夫の貴志の前に現れる役ですが、貴志の心の表れといった感じでしょうか?

中村 そう思って演じました。貴志さんが見ている奥さんの幻覚ですよね。

――あまり演じたことがない役柄かと思いますが、いつもは考えないようなことを考えたりもしました?

中村 動きは難しかったですね。幻覚だからリアリティのある動き方をするわけでなくて、いきなりそこにいるとか。

――貴志の背中への手の触れ方や頭の撫で方も、人間であるような、ないような……。

中村 ああいうところはどっちにも見えるし、夫婦だった2人だから少しエロティックでもいい、というのはちょっと意識しました。

――やさしく「いい人を見つけて再婚すれば」と言ったり、強く責めたてたり、起伏がありました。

中村 すべて貴志さんの心に関わっているんですよね。自分を責めている表れ。それくらい、薫は貴志さんに強烈な影を残していて。目の前で命を絶った薫も罪深いですけど、それ以上に貴志さんは苦しみ続けて、他人には計り知れないものを抱えている。そういうふうに苦しんでいる人は、きっと今の世の中にたくさんいて、現代の闇のように感じました。

孤独に侵食されたのは理解できます

――綾子が部屋に入ってきたときには、薫は高笑いをしていました。

中村 あれも貴志さんの心の表れですよね。本当は貴志さん自身が一番癒やされたいのに、周囲はそれを許さないし、自分でも許せない。そういう中で、綾子のような女性と出会ってしまって。彼も拠りどころがほしかったけど、罪悪感を抱えていて、幻聴で薫が笑っているのが聞こえたんだと思います。

――演技として、笑い方は考えたんですか?

中村 彼が追い詰められているわけだから、怖いほうがいいかなと思いました(笑)。

――「どうして私の気持ちを考えてくれなかったの?」と貴志を責めたてるところでは、薫にも実際「夫のために尽くしたのに……」という絶望感があったのでしょうか?

中村 薫はそういうことを言えなかったんだと思います。言えていたら、救われていた気がします。だから、貴志さんの「言ってほしかった」という願望のように感じました。でも、事実はまた違うかもしれない。薫も優秀な医者でしたけど、夫のために自分の人生を犠牲にしたとは考えてなかったと思います。たぶん、全然関係ないことで病んでいて。なのに、貴志さんは自分を責め続けている。残された側には残酷ですよね。

――そんな貴志は、中村さん自身の目にはどう映りました?

中村 自分の中のとてつもない孤独にどんどん侵食されて、判断力がおかしくなってしまって。でも、彼がそうなった理由は理解できます。人生にとてつもないことが起きてしまったわけですから。もし妻をああいう形で亡くしてなかったら、綾子には全然惹かれなかったかもしれない。やさしいから寄り添ってしまうんでしょうね。逆に、綾子の行動は「何してるの!?」という感じがします(笑)。

――中村さんは他の役のことも考察しているんですね。

中村 自分の役より他の役のほうが客観的に見られます。貴志さんと綾子のような共依存のカップルも、現代には多い気がしました。お互いの闇をえぐり合って、離れられなくなっていて。

良くないときに手を離す相手とは結婚しません

――薫が貴志と結婚した理由に関して、「私がいないとあなたは1人ぼっちだから」というくだりもありました。そういう心情はわかりますか?

中村 人それぞれで、そういう方もいらっしゃるでしょうけど、薫が結婚して子どもを生んだのは、やっぱり愛していたからかなと。「あなたは1人ぼっちだから」というような単純な理由でなく、言葉にできない複雑なものがきっとあって。でも、絶対に貴志さんを愛して結婚したんだと思います。

――中村さんが結婚するとしたら、どんなことが決め手になりそうですか?

中村 お互い良いときも悪いときもあるだろうから、どんなときでも一緒にいたいと思えるか、ですかね。良いときだけ見ていても仕方ない。人生にはとんでもないことも起こるのは、私もだんだんわかってきたので。そういうときにパッと手を離すような相手なら、結婚しなくてもいい。結婚はそれくらい深い繋がりな気がします。あとは、自分が自分らしくいられること。若いときは好きな相手に合わせたりもしましたけど、今はあまり合わせたくない(笑)。お互い「自分は自分」くらいの自立した関係でいいと思います。

――薫を演じるうえで、悩んだことはありました?

中村 すごく考えたのは、直接そういう描写はありませんけど、子どもを残して逝くことがどれだけの苦しみだったのだろうかと。子どもは一番かわいいはずですから、ものすごい苦しみだったのは間違いないと思います。

子役の子が自然に愛おしくなって

――中村さんも子どもがいる役が増えましたよね。

中村 増えましたね。でも、20代の頃から多めだったかもしれません。その頃は自分がまだ精神的に子どもで、母性みたいなものに実感がなかったんですね。母親がものすごいものだとはわかっていただけに、自分が母親役を演じることに自信が持てなかったんです。でも、最近は母性というものが、感覚として理解できるようになりました。

――実際に母親にはなってなくても、年齢を重ねたことによって?

中村 年齢もあるでしょうし、私は犬を育てているからかもしれません(笑)。子役の子との時間の過ごし方も変わってきました。前は接し方がわからなかったのが、今は勝手にお世話しちゃうんです(笑)。それで甘えてもらうと、すごく嬉しくて。自然と愛しいものとして、接することができるようになりました。本当に子役の子がかわいいんです(笑)。親子のシーンでお芝居しているときの自分の表情もすごく変わったと、出来上がった作品を観て思います。

――リアルな親子感が出ていますよね。

中村 子どもって繊細だから、こっちがどんなスタンスかで変わるんです。フワッと包み込んであげると、パッと入ってきてくれる。人見知りの子でも、そういう信頼関係が築けるのは嬉しいです。

――長く流れている日本生命の泣けるCMも、撮影ではそんな感じでした?

中村 そうですね。普通にずっとおしゃべりしていて、すごく懐いてくれて、かわいかったです。

愛犬がとてつもなく楽しい時間をくれて

――インスタグラムでは、相変わらずワンちゃんだらけですね(笑)。

中村 たまに「犬ばかり載せて」とコメントで怒られます(笑)。私は小学1年生の頃からずっと、歴代の犬を飼ってきて、動物が大好きなんですね。自分の意志で生きられる環境でないからこそ、責任を持って飼いたいと思っているし、うちに来た以上は幸せにしてあげたくて。大げさに思われるかもしれませんけど、言葉を話せない分、いろいろなことを汲み取ってあげたいんです。痛いとか痒いとか言えないから、一生懸命観察しています。それに、子どもと違って社会に出さなくてもいいから、思い切り甘えさせてあげたい(笑)。とてつもなく楽しい時間をくれる存在で、すごく大切です。

――一緒に散歩に行くだけでも楽しいと?

中村 そうですね。生きているとストレスもいろいろある中で、動物は無垢だから、一緒にいると本当に癒やされます。こっちのほうが、いろいろ与えてもらっていますね。動物には打算もなくて、というか「おやつちょうだい」とかはありますけど(笑)、本当に美しくて尊い存在だなと、いつ見ても思います。

自粛中はミシンを無心でかけてました

――休みの日も愛犬と過ごすことが多いわけですか?

中村 犬に尽くしています(笑)。でも、何か食べに行くのも好きだし、お風呂も好きで健康ランドに行ったりもします。あと、状況が良いときは時間があれば旅行にも行って、自然に触れたり海に入ったり。普段都会にいると感じないことを感じたいんです。つき物がワッと落ちるので、そういう時間を大切にしていますし、それがあるから頑張れます。

――そうすると、去年の自粛期間はストレスが溜まりました?

中村 全然ストレスはなかったです。台詞を覚えないで良かったし(笑)、毎日お散歩していて、公園がすごく静かでした。木の葉がザワザワする音や鳥の声があんなに鮮明に聞こえたことはなくて、きれいだなと改めて思いました。

――女優さんには配信で映画をたくさん観ていた方が多いようですけど。

中村 それが、私は全然観なかったんです。仕事と関係あるものから離れて、ミシンをかけてました(笑)。「そういえば家にあったな」と引っ張り出して、無心になれるので、朝から晩まで、頼まれてもいないものをたくさん作りました(笑)。それは友だちに押し付けましたけど、本当に楽しくて充実していました。

女優になれた純粋な喜びを忘れないように

――仕事のほうも今年は連ドラ3本にレギュラー出演など、ますますのご活躍で。来年3月には40歳を迎えますが、女優として、どんな時期に入りそうですか?

中村 やり始めた頃と変わらず、もっと上手になりたいし、もっと純度の高い気持ちで取り組まなきゃと思っています。自分が女優になった頃に純粋に感じていたような喜びを、大事にしていきたいです。仕事だからとただ消耗して、モチベーションを維持するのが難しかった時期も正直ありました。でも、最初は女優という仕事の中で、いろいろなことに感動していたと思うんですね。『パッチギ!(LOVE&PEACE)』でもそうでした。

――中村さんが25歳の頃ですね。

中村 映画を観るのが好きだった頃は、普段は目を向けてもらえないような生活をしていた人たちが作品の一部になっていて、自分にとって闇だったものがフィーチャーされていたことに救われたんです。それが純粋に嬉しくて自分も女優を始めたのを、最近思い出すんです。最初の志は、今思えば美しいものだったと感じます。こうして忙しくさせてもらっている中で、その純粋な気持ちが薄れてしまったら、マンネリ化すると思います。

――だから、初心に帰ろうと。

中村 そうですね。自分より年下の人たちもどんどん増えてきたので、女優はいい仕事だと思ってもらえるようにもしたくて。自らそういう仕事の仕方をしていきたいです。

自分より周りの人たちに幸せでいてほしくて

――『愛のまなざしを』では、「私にとって幸せは何なのか考えてくれた?」という台詞がありました。中村さんにとっての幸せは何ですか?

中村 私は自分がどうかより、周りの人がどうかをすごく気にするんだと、最近気づきました。家族や大事な人たちがハッピーなことが、私にとっての幸せ。自分に焦点を向けるのは苦手なんです。

――女優さんをやっているのに?

中村 もっと自分に焦点を向けたいとは思うんですけど、たぶん寂しがり屋なんです(笑)。周りの人たちが良い状態でいてくれれば、自分も整うというか。逆に、家族も友だちも事務所の人もハッピーでいるためには、自分がたくさん頑張らないといけないこともあります。

――そういう立場ではあるでしょうね。

中村 自分の個人的な幸せは、たまに旅行に行くことと、おいしいものを食べるくらいです(笑)。

Profile

中村ゆり(なかむら・ゆり)

1982年3月15日生まれ、大阪府出身。

2003年に女優デビュー。2007年に映画『パッチギ!LOVE&PEACE』で全国映連賞女優賞などを受賞。主な出演作は映画『ディアーディアー』、『愛唄-約束のナクヒト-』、『影に抱かれて眠れ』、『DIVOC-12 海にそらごと』、ドラマ『パーフェクトワールド』、『今夜はコの字で』、『天国と地獄~サイコな2人~』、『ただ離婚してないだけ』など。ドラマ『SUPER RICH』(フジテレビ系)に出演中。11月12日公開の映画『愛のまなざしを』に出演。

『愛のまなざしを』

監督/万田邦敏

11月12日より全国公開

公式HP

(C)Love Mooning Film Partners
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芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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