高校サッカー東北新人は尚志が制す。「絶対王者・青森山田不在」の中、新鋭校も躍動した意義ある3日間に
「子どもたちのために」開催した大会で
1月29日から31日にかけて福島県のJヴィレッジを舞台に第21回東北高校新人サッカー選手権大会が開催された。
東北の多くのエリアでは、この時期は「必死に雪かきをしてピッチの4分の1だけ使って練習して、また積もったら雪かき」(明桜・原美彦監督)という状態。東北新人大会は、そうした時期にあっても雪が積もることがほとんどないJヴィレッジで芝生の上のサッカーを子どもたちに味わってもらおうと創設された大会だ。2011年の東日本大震災を受けて宮城県や福島県の別会場で開催された時期もあるが、前回大会からJヴィレッジへの「帰還」を果たしている。
過去8回の優勝を誇り、4連覇中の青森山田など4校がコロナ禍で参加を辞退して12校でのトーナメントとなった今大会は、地元福島の尚志が地力の高さを見せて5年ぶり3度目の優勝を飾ることとなった。「『青森山田がいないのだから優勝して当然』と言われる中で優勝できたことは意味がある」とプレッシャーを撥ね除けた選手たちを称えた仲村監督は、同時に「これから取り組まなければいけないことだらけの内容だった」と苦笑い。ただ、まさにこうした課題を持ち帰れることが、公式大会の真剣勝負をする意義でもある。
多数のピッチを備えるJヴィレッジで開催される東北新人大会は試合の合間にBチーム戦も行われ、敗者同士も親善試合を組んでマッチングしていく形式を採用している。雪の上でしかサッカーができないチームも多い時期に、こうした大会に参加できる意味は大きく、東北地域のレベル底上げに一役買っていると言える。
コロナ禍での開催決行となったが、仲村監督は「大会関係者はもちろん、Jヴィレッジの施設の方々が『東北の高校生たちのために』と、本当のプレイヤーズファーストを考えて決断してくれた」と語る。他県の指導者から「子どもたちにとって貴重な場。感謝しかない」(明桜・原監督)、「本当にありがたいし、子どもたちにも本気で感謝してプレーしようという話をしている」(花巻東・清水康也監督)といった言葉が聞かれたのも、中止という判断もあり得る状況での開催だったゆえだろう。
選手たちもそれぞれ多くを得た様子だった。たとえば準優勝の東北学院・佐藤春樹主将は「(準決勝勝利後)バラバラだったチームが一つになって戦えて、感動して泣いてしまった」と笑って振り返りつつ、「絶対やれる」というチームとしての手応えを掴んだ模様。一方、個人の課題として持ち帰る部分を問うと、ビルドアップから競り合い、リーダーシップにまで及ぶ多彩な課題が次々に挙がってきて、「次の練習」に向けての強いモチベーションを得た様子でもあった。まさにこうした感触を各チームの選手たちが抱けることこそ、地域を越えて開催される大会の意義だと感じることができた。
目立った尚志の強さと新鋭校の台頭
大会の結果自体については、新人戦という段階、そして雪によるハンデを抱える地域とそうでない地域というこの大会独特の差もあることから今年の勢力図をそのまま反映したものではない。ただ、選手を入れ替えながら戦っても崩れることなく、そして内容が悪いなら悪いなりの試合をして勝ち切った尚志の強さは一段抜けていた。梅津知巳コーチは「冬休み期間に1年生はルーキーリーグに出ていて、学年間の融合がまだまだで、ぶっつけ本番の部分があった」と明かすが、そうした過程ゆえの競争意識の高さがポジティブに作用していた印象もある。
その中で国見の黄金時代に故・小嶺忠敏監督の下でコーチを務めていた原美彦監督が率いる明桜、元日本代表主将の柱谷哲二氏をテクニカルアドバイザーに迎えた花巻東の両新鋭が4強入りして新風を吹き込んだ。また日本代表GKシュミット・ダニエルの母校としても知られる東北学院も初めての決勝進出。地力のある選手たちが揃った期待の世代が、前評判に違わぬ結果を残すこととなった。橋本俊一監督は、県大会決勝で破っている仙台育英を含めて「ビビるような相手ではない」ことを選手たちが肌で感じられたことを大きな収穫として挙げており、今季のブレイクスルーが期待される準優勝となった。
ただ、予選敗退のチームを含め、新人戦の結果やパフォーマンスは先のステージでの活躍を保証するようなものではない。大会で得た自信や課題をどう消化し、どう日々のトレーニングに繋げていくかでまた明暗も分かれていくことだろう。