栽培される山菜は、本当に“山菜”か?
そろそろ山菜の季節。
すでにフキノトウやツクシなどを味わった人もいるかもしれない。これからはタラの芽、ノビル、ワラビ、ゼンマイ、葉ワサビ、ヨモギ、タンポポ、ユキノシタ、ヨメナ、ノカンゾウ、そしてタケノコ……やはり春は、山菜の季節だ。そのほろ苦い味覚は、早春の山の香りである。こればかりは、「旬」が大切。
とは言え、以前は食べたければ自分で山に入って採取しなければならなかった。野山近くに住んでいなかったら、なかなか味わえなかっただろう。しかし、最近はスーパーの野菜売り場にもタラの芽やフキノトウがトレーにたくさん詰められて並んでいる。野山を歩いて採集するのは、趣味なら楽しいが、出荷するとなると大変な作業だろう。
この山菜は、どこで、誰が採集しているのか?
あっさりネタバラしをすると、わざわざ野山で採集されるものは少ない。今や多くの山菜が栽培されているのである。自然に生えていた山菜が、商品として人気が高まるにつれて、次々と栽培の対象になっている。
たとえばタラの芽は、タラの木を畑や休耕田などに移殖して生やし、芽の出るところを早めに切り取って、発泡スチロールの箱に並べて水に浸しておき、芽の伸び具合を見ながら毎日収穫するのだ。ときに暖房するなどして、芽の出具合を調整する。
ワラビや葉ワサビ、ヨモギなどもハウスの中の畝で栽培されている。
栽培される山菜は何十種類に及び、全国各地の市場に出荷されているのだ。
山菜の収穫は、山野に自生するものを採る山採りのほか、家に近い山や休耕地に山菜を移殖して収穫を楽にしたもの、そして畑やハウスなどで本格的に栽培したものがある。とくに最近は、栽培ものが増えている。
山菜は、比較的育てやすいうえ軽くて出荷しやすいから、高齢者の手がける作物として人気が出ている。希少価値があるから売値も悪くないからだ。また市場は、安定供給を求める。そこで山菜を栽培する農家が増えてきたのだ。自分の畑やハウスで栽培するのなら、収穫も楽になるうえ、収量も多く安定するわけである。
栽培法の研究も進んだ。根茎の移植や挿し木による増殖のほか、日照の調節やハウスの温度管理によって収穫期間を早めたり延長させる技術も登場した。
また品種改良も行われている。たとえば通常アク抜きをしないと食べられない山菜も、最近では生食できるものが各地で栽培され始めた。味だけでなく、生長が早くて繁殖力のある種を選抜する。トゲの少ないタラの木を増殖すれば作業もしやすい。
山菜の栽培が広がる背景には、農家にとって山菜が有望作物であるだけではなく、山から天然の山菜が減っているという実情もある。
たいていの山菜は、土手のような開けた草地やまだ葉が生い茂っていない森の木々の下に生える。地表に射し込む春の光を受けて芽を出すのだ。
しかし最近は、間伐や草刈りが行われず落葉樹が減り照葉樹に覆われると、春になっても林内は暗いままだ。それでは山菜は生えない。そのうえ過疎・高齢化の進む農山村では、山に入って採取する人も減ってきた。これでは出荷量が安定しない。
日本人の野菜消費量は減少傾向にあるが、山菜は消費量が比較的伸びている分野だ。山菜は、季節感のなくなった一般の野菜に比べて「旬のもの」という感覚も人気の秘密かもしれない。しかし、栽培されると、本当に「旬」を守れるのだろうか?
また山菜の魅力は、ちょっと癖のある苦みやえぐみだ。この風味を演出するアクは、身体に悪くはないのだろうか。
実は適量なら身体に悪いどころか健康にいい。山菜は薬草の一種でもあるほどだ。
一般にアクと呼ぶのは、鉄や亜鉛、銅、ヨウ素、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウムといったミネラル分。その含有バランスが理想的なので、それを食べることはミネラルの補給に向いているのだ。ただし生長すると、身体に悪いアルカロイドなど有機化合物の合成が進むものもある。だから「食べ旬」を守ることが大切なのである。
現代の野菜は、収量や味、耐病・耐寒性など特定の性質を強めるよう品種改良されてきたため、ミネラルバランスが崩れがちだ。そのうえ同じ土地で繰り返し栽培を続けると、土壌のミネラル分もアンバランスになり、作物にも影響を与える。
ということは、山菜を栽培化が進むと、その二の舞にならないだろうか。
山菜には、旬を守ってほろ苦さの効能を活かすとともに、季節感を大事にしてほしいものである。