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マイク・ムスタカスと私。今日から地区シリーズ、ロイヤルズ-アストロズ戦。

谷口輝世子スポーツライター
ロイヤルズのマイク・ムスタカス(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

メジャーリーグは今日から地区シリーズが始まる。

米国時間8日(日本時間9日)は

ブルージェイズ-レンジャーズ

ロイヤルズ-アストロズ

2試合が予定されている。

アストロズは、昨シーズンのロイヤルズと似た面を持つ

ア・リーグ中地区で2位以下を突き放して地区優勝をしたロイヤルズと、ワイルドカードゲームでヤンキースに勝って地区シリーズ進出を決めたアストロズ。今季のアストロズは、昨シーズンにワイルドカードからワールドシリーズ進出を決めたロイヤルズと似た面を持つ。

ひとつは低迷期が長かったことである。ロイヤルズは昨シーズン、ワイルドカードを得てポストシーズンに進出し、勢いに乗ってワールドシリーズ出場まで突き進んだ。しかし、1985年にワールドシリーズに優勝してから、昨年までポストシーズンとは無縁。2004-06年に3年連続100敗している。アストロズもポストシーズン進出は2005年以来。2011年、12年、13年と3シーズン続けて年間100敗以上していた。

もうひとつは若い選手の多いチームだということ。AP通信によると、ロイヤルズは昨年のワールドシリーズ第1戦のロースターの平均年齢は29歳51日。アストロズのワイルドカード戦の平均年齢は28歳343日だった。

今年のロイヤルズは、勢いに乗るアストロズを受けて立つ立場にある。ロイヤルズの三塁手であるムスタカスはAP通信の取材に「(アストロズは)昨年の自分たちを思い出させるものがある。若く、ハングリーで、この大舞台にふさわしいチームだということをみんなに証明しようとしていた」と話している。

マイク・ムスタカスと私

ここからは大変に個人的な話になるが、お許しいただきたい。筆者はマイク・ムスタカスが9歳半から12歳までいっしょに暮していた。いつだったかムスタカスが他の選手に「いっしょに住んでいた人だ」と私を紹介したので、その選手はちょっと反応に困っていたようだったが、正確にいうと、私はドジャースにいた野茂氏らを取材するために、1998年2月から2000年夏までロサンゼルス郊外にあるムスタカス家の1部屋を借りていてたのだ。

ムスタカス家のなかで、当時、最もヒマにしていたマイク少年と私はよく遊んだ。プールで泳ぎ、バスケットボールやフットボールごっこをした。夕方から始まるマイク少年の野球の試合は、仕事時間と重なって、見に行くことができなかったが、野球チームのパーティーについていき、チームメートの家にもいっしょに遊びに行った。素直な性格で子どもらしいエネルギーあふれる活発な少年はとてもかわいらしく、このムスタカスの写真を他の人に見せてまわっていた。

少年時代のムスタカス。伯父のロブソン氏がメッツの打撃コーチをしていた。
少年時代のムスタカス。伯父のロブソン氏がメッツの打撃コーチをしていた。

私にとって弟のようであったムスタカスは07年に1巡目でロイヤルズから指名されて入団。2011年にメジャーリーグデビューした。メジャーリーガーとしてグラウンドに立つ姿を初めて見た私は、同じ家に住んでいたころの思い出がよみがえり、よくぞここまで来たものだとこみ上げてくるものがあった。その日は、記者としてムスタカスを見ることができず、記者席を出て、スタンドで観客に混じって、しばらく彼のユニホーム姿を眺めていた。

それからも、ボールが当たれば、ケガをしていないかと心配し、お偉方としゃべっているのを見かけると、しっかりとあいさつしたのだろうかなどと気になった。

ムスタカスは昇格後、メジャーの投手たちに適応するのに時間がかかった。打率がかろうじて2割台に届いているという日々が続いた。ところが、昨年のポストシーズンではエンゼルスとの地区シリーズで2本塁打、ア・リーグ優勝決定シリーズでも2本塁打し、メジャーリーグファンにその名を知られる存在になってきた。懸念された三塁守備を練習でモノにし、打撃はフォームを改造。メジャー4年目だった昨シーズン後半からようやく力を発揮しはじめた。今シーズンは、これまで苦手にしていた左投手も打てるようになり、打率2割8分4厘、22本塁打、82打点で、いずれも自己ベストだ。

今夏、ムスタカスの母が亡くなった。5月に一度、危篤に陥った母だが、息子が初めてオールスター戦出場を果たしたのを見届けて旅立った。

ムスタカス家の母は、息子の少年野球チームに所属する全選手を応援し、多くの選手にとって、もう一人の母のような存在であったという。もちろん、私にとっても、もう一人の母であり、アメリカの母である。いつも明るく、やさしく、強かった母は、末っ子であり、唯一の男の子であったマイク少年をことのほかかわいがっていた。ムスタカスの母は、実姉がロッテの打撃コーチを務めたロブソン氏の夫人であることから、何度か日本へ旅行し、日本のプロ野球観戦も楽しんでいた。野球通だった。

先月、球場でムスタカスに会った。さぞかし、ショックを受けているのではないだろうかと思ったが、穏やかで明るかった。「アメリカの母の死」を悔やむ私を逆に慰めてくれた。驚くほど大人になっていた。昨年のワールドシリーズの大舞台、今季のオールスター戦出場で自信をつけ、母の死を乗り越えて、一回りも二回りも成長した。

ムスタカスは9月11日の誕生日で27歳になった。(初めて会った時には、マイク少年の誕生日に同時多発テロが起こることも、メジャーリーガーになることも私には思いもよらぬことだった)。子どもだと思っていたムスタカスは選手としても成熟しつつある。勢いある若いアストロズを迎え撃つのにふさわしい選手になったと、私は思う。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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