ブラック企業の典型的手口~退職妨害にご注意!
9月19日(金)、ブラック企業被害対策弁護団は全国一斉「真夜中のホットライン」(通称「まよらいん」)を実施しました。
実施時間は各地で様々ですが、東京は午後7時から深夜2時まで行いました。
全国(14か所)に寄せられた相談件数は、真夜中であるにもかかわらず、合計114件以上でした(まだ未集計の地域があるので。)。
そして、相談の中に意外と多かったのが退職妨害でした。
退職妨害とは?
退職妨害とは、労働者が会社を辞めたいとの意思表示をしたとき、会社がそれを阻止する言動を言います。
たとえば、
「辞めるんだったら代わりを探してからじゃないとダメだ」
「辞めるなら、次を募集する費用を払ってからでないと辞めさせない。それは50万円だ」
「辞めるとうちに損害が出る。もし辞めたら損害賠償をするからな。」
などが典型的な事例です。主にブラック企業で多用されています。
退職は自由
まず、働く人全員が知っておくべきなのは、労働者の退職は自由だということです。
そもそも憲法では職業選択の自由が保障されていますし、民法でも「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」と定めており、2週間前に言えば退職は自由にできることになっています(なお、使用者からの労働契約の解約を「解雇」と言いますが、これは労働契約法で制限されていますので、解雇は自由にできません! 自由なのは労働者からの「解約」だけ)。
ですので、労働者が辞めることを企業が阻止することはできません。
そのはずなのですが、先に言ったとおり、やたらと増えてきているのが退職妨害の相談です。
労働基準法では?
労働基準法でも、賠償予定の禁止を定めており、使用者が労働者を不当に拘束することを防止しようとしています。
たとえば、「会社を辞めたら100万円を賠償します」という内容の契約をしても、それは労働基準法で禁止されているので無効になります。
さすがに、このようなストレートな契約を結んでいる企業はあまりないのですが、たまに見かけます。
他には、たとえば企業内での研修を「有料」として、働いている間は費用の支払はしないでいいのですが、一定期間内に辞める場合はそれを一括で支払わないといけないという契約を結んでいる場合もあります。
この場合は、研修の代金が、損害賠償と変わらないと見られれば(たとえば、研修と言っても特別なものではないような場合や当該企業内でしか通用しないようなものの場合)、先ほどの労働基準法の適用があり、無効となります。
しかし、相談を聴いていると、こういった巧妙(?)な手口を使うよりも、もっとストレートに、辞めさせないように仕向けているのが、最近のトレンドのようです。
どう対応するか?
先に例としてあげました、
「辞めるんだったら代わりを探してからじゃないとダメだ」
「辞めるなら、次を募集する費用を払ってからでないと辞めさせない。それは50万円だ」
「辞めるとうちに損害が出る。もし辞めたら損害賠償をするからな。」
とか、
「辞めたら親に損害賠償をする。親が身元保証しているからな」
「辞めたらお前の出身校に迷惑がかかるぞ。今後、出身校のやつは採用しないし、苦情を言っておく」
など、他人を巻き込むことで退職をさせない心理状況にさせるものもあります。
こういったことにどう対応したらいいでしょうか?
実は、こういった脅しにかかわらず辞めるというのが正解です。
なぜなら労働者は退職が自由だからです。さっきも言ったけど、大事なことなので二度言っています。
もちろん、会社が訴えてくるんじゃないだろうかという不安はあるでしょう。
しかし、多くの場合、こんなことで訴えてくるような会社はありません。
まれに内容証明郵便を送ってくることもありますが、冷静に対処すれば大丈夫です。
どうしても不安な場合は専門家に相談しましょう。
私も、退職妨害の事例を何件もやったことがありますが、大体、次のようにして本人の「脱出」を図ります。
1)有給休暇の残日数を確認
2)有給休暇の使用する旨の書面と有給休暇の最終日と同日を退職日として指定した退職届を書面で提出
3)会社が何か言ってきたら対応
*退職妨害があった場合の退職のやり方の一例です。妨害がないのにこういう辞め方は非常識なので注意しましょう。
ただ、中には本当に損害賠償訴訟をする会社もあります。
有名な事件として、エーディーディー事件(京都地裁平成23年10月31日・労判1041号49頁)というのがありまして、これは使用者が労働者が退職したことで損害を被ったとして2034万円も請求してきた事件です。どうやってこんな数字を積み上げられるのか、とても不思議ですが、本当にあった事件です。
これに対し、労働者も未払い残業代請求を反訴して向かい討ちます。
ガチンコ勝負の末、会社の請求は棄却、労働者の請求は認容され、会社は労働者に約570万円の残業代の支払と同額の付加金の支払を命じられました(要するに1000万円超)。
「雉も鳴かずば撃たれまい」を体現した訴訟として、業界では有名な事件です。
不安なら相談を
いずれにしても、こうした裁判を起こす企業はまれですので、毅然とした態度で退職するのが重要です。
怖かったら専門家に相談しましょう。
辞めることは本来自由ですから、何も怖がる必要はありません。
相談先の例(弁護士)
*他にも労組やNPOもあります。行政もあります。